「うっ、ぐはっ。」 この世で最も魔力量が多いと呼ばれるジュリア・ハミルトンは、ワインを飲んだ瞬間、喉が焼けるような痛みに襲われ、吹くように血を吐き出した。 お気に入りのドレスは血にまみれ、視界は暗く滲んで、意識が遠のき、その場に崩れ落ちる。「ジュリア様!」 私付きの侍女であるポーラが、驚きの表情を浮かべ、私に叫ぶように声をかけているのが聞こえるが、もう言葉を発することも、呼吸をすることもできそうにない。 私は邸の寝室で、一歳になりつかまり立ちし始めたカレンを抱きしめた直後、喉が渇くためワインをぐいと一口で一気に飲み込んでしまった。 この喉を焼くような痛みや苦しさは、ただの病気ではないわ、毒ね、毒がワインに入っていた。 致死量を優に越える毒が、瞬く間に身体を駆け巡る。 どうして少し含むようにして、ワインを飲まなかったのか。 せめてほんの一口なら、命は助かったかもしれないのに。 今更遅いけれど、止まらない後悔が押し寄せる。 まさか自分が住むブライトン邸で、こんなことが起こるだなんて、思うはずもなかった。 だって記憶にある限り、この王国内で毒を盛られるなんて話は、聞いたことがない。 毒についての記録は、古物書に載っている程度で、ただの知識でしか知らない。 まさか、そんな危険な物を使った事件が実際に起こるなんて、誰もが想像しないだろう。 この王国は、良いことばかりではないけれど、危険な他国に比べて比較的安全だと言われている。 それは、私達、魔法使いが日々結界を張って、魔獣などから国を守っているからだけど。 寝る前の穏やかな時間であるはずが一転して、今日が人生最後の日になりそうだ。 痺れた手足が動かず、床に倒れたまま、かろうじて視線だけを動かし、娘を探す。 目がかすんでしまい、もうよく見えないが、何とか視界の端に、カレンがベビーベッドの中で、スヤスヤと寝ているようすを確認する。 良かった。 カレンは無事なのね。「ジュリア様、嫌、いなくならないで。 すぐに侍医を呼んで参りますから、お願い、お願い。」 駆け寄ったポーラが私を抱き起こし、悲痛な声をあげる。 必死に私に呼びかける彼女の声が遠くで聞こえるが、私の命はもう間に合わないと本能的に悟った。 ごめんね、ポーラ、その約束もう果たせない…。 彼女が私をその場に横たえ、走り去っ
Last Updated : 2025-10-16 Read more