十八歳のとき、私は二十年も目が見えなかった長谷川陽斗(はせがわ はると)に、自分の角膜を提供した。彼は深く感動し、自分から私に「結婚してほしい」と言ってくれた。「綾香、俺、一生お前の目になる」けれど、結婚式の前夜、彼のSNSに投稿が上がった。【目の見えない女に絡まれてる。生活の世話するだけで手一杯だ】【身の程をわきまえないって、まさにああいう女のことだよ。最初から承諾しなきゃよかったな】コメント欄みんな彼を心配してた。【ひどすぎる。そんな女にまとわりつかれるなんて可哀想】【本気で結婚するの?】陽斗はすぐに返した。【するわけないだろ。本当に俺が迎えるのは『本命』の方だ。どうせあの子、見えやしないんだから】投稿に添えられた写真には、純白のウェディングドレスに身を包んだ女性が、彼の腕に寄り添っていた。その場で、私はただ滑稽なアヒルのように立ち尽くしていた。私は視力回復の診断書を握りしめ、黙っていた。そして、母に電話をかけた。海外での縁談を受けると伝えた。――長谷川陽斗。他の人を幸せにしてあげて。私たちはもう、二度と会わない。・・・・・・「篠原綾香(しのはら あやか)、俺、一生お前を守る。絶対に裏切らないから」陽斗はそう言いながら、目の前の白石依衣(しらいし いより)に微笑んでいた。まわりの男たちは肘でつつき合い、嘲り笑いを含んだ声を漏らす。「演技、完璧だな。指輪交換のとき笑わないようにな」「最初、彼女から角膜を騙し取って簡単に手に入れようって言ってたけど、ちゃんと引っかかるか心配してたんだぜ。まさか本当に角膜を捧げて、しかも嫁に来るとか、まるで渡りに船のカモだな!」私はその場で固まった。涙が止まらず、瞳から溢れ出した。スマホの画面と目の前の風景すべてが、この結婚式がただの騙しだと私に物語っている。三か月前、私は角膜移植を受けて視力を取り戻していた。結婚式で彼にそれを伝えて驚かせようと思っていた。「これからは、一緒にこの世界を見よう、もう陽斗の重荷なんかじゃない」と言うつもりだったのに。だが、彼がくれた「サプライズ」はさらに大きく、私は会場で一番滑稽な道化者になってしまった。駆け寄って問い詰めたいのに、足がまったく動かなかった。目の前で得意げに笑う陽斗の顔
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