All Chapters of 魔王様の恋人: Chapter 1 - Chapter 2

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第1話 追憶、そして落ちる火種

「ほら、シャーロット! お茶なんてのんでないで、こっちでボールなげでもしよう!」  優しく高い声。  何だか、凄くほっこりさせられる、心が落ち着く声色。  ふわふわな金髪に碧眼と幼いながらに凛とした顔立ちの男子。  柔らかくも鋭い目には慈愛の潤いを湛え、目尻が下がっているのも好意の現れ。 「ぼーるなげ? はじめてだけどやってみたーい! あたしにもできるかなぁ……」「かんたんだよ! ぼくの真似をしてみてよ!」  そこから始まったキャッチボール。 「なんだか、ぼくたちが仲良くしたら、みんなも仲良しになれるんだって!」「えっ! そうなの? じゃあ、あたし仲良くなりたい!」「それだけじゃないよ! ぼくはシャーロットが好きになったよ! だからきみにもぼくを好きになってほしいな!」  突然の言葉にシャーロットの投げたボールは、すっぽ抜けて大暴投。  慌ててガイナスが取りに走る。  綺麗に手入れされた芝生のカーペットが敷かれて、見晴らしのよい離宮の広場。  特に探すこともなく、ガイナスはすぐに戻ってきたかと思うと、怒った様子もなく自然な笑顔のままボールを投げ返す。  それは優しくふんわりとした弧を描き、シャーロットの手に収まった。 「ははは! シャーロットはまだまだへただね!」「むぅ……ガイナスがきゅうに変なこといったからだもん!」「ほんとうだよ! ぼくはシャーロット……シャルが好きだよ! ずっとまもるって決めた!」「えへへへ……まもってくれるんだ。あたしも好きだよ! ガイナスのこと! それでみんなも仲良くなれるならもっといいよね!」  懐かしき記憶が、刻を経た今なお鮮明に蘇る。 そう。この人は……。  人間族の国家――エルメティア帝國の第1皇子ガイナス・エル・ティア・クラウレッツ。 彼は……ガイナスは私の許婚。 これは遠き日の懐かしき想い出。 ※ ※ ※ 戦争が激化の一途をたどる中、妖精族の国家リーン・フィアは未だ平穏な日々が保たれていた。  それもこれも昼なお暗い、深き大森林に護られた首都フィアヘイムだからこそ。 そして現在、神星樹の王城《ヴァンドスラシル》の大広間では妖精王による夜会が催されていた。 「人間・亜人族連合軍との戦争中なのに呑気なもんだよねー。まぁあたし
last updateLast Updated : 2025-11-14
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第2話 妖精王の資格

 夜会の翌日、飲み過ぎによる頭痛と吐き気を抑えながらも、シャーロットは普段通りに丸い結界の薄い殻を破って起き出した。  妖精族は本来、大気の霊気で繭のような結界を作り、その中で丸まって眠る。 この家にベッドなどと言う物はない。  人間との交流により寝具が持ち込まれたが、使用している者は人間被れやただの人間好き、そして肉欲に溺れた者くらいであった。「あったま痛---い……。もう……やっぱりお酒は飲みすぎるもんじゃないわー」 頭を押さえながら、シャーロットは朝食用のパンを焼いてコーヒーを入れる。  当然のことだが、このロル麦で作られたパンもコーヒー豆も人間の手により持ち込まれた物で、その他にも多くの物資を人間族から輸入している。  そしてパンを焼くトースターと言う魔導具や、コーヒー豆を挽くコーヒーミルも同様……言い出したらキリがない。  過去の蜜月時代からの名残であり、現在も一部の人間国家とは交流が続いているのだ。 だがシャーロットはパンは自然霊術の火で焼いているし、なるべく昔ながらの妖精族の暮らしを営んでいた。  もちろん例外はあるけれども。  現在、シャーロットが暮らしているのは、自然霊術によって巨大化した大樹をくり抜いて造りだされた一般的な妖精族の家。 妖精王リンレイスの姪なので、シャーロットも一応王族に名を連ねる者の1人である。  とは言え、魔族の王は世襲制ではなく実力主義で決まることの方が多い。  それ故、万が一、妖精王が譲位されれば、シャーロットはただの伯爵家令嬢に戻るのだが、そんなことを気にする彼女ではない。 何故、貴族であるのにもかかわらず1人暮らしをしているかと言うと、婚約破棄で負った心の傷を癒せるようにと配慮した両親の計らいがあったから。  破談の件を聞いた時、シャーロットの心に浮かんだのは悲嘆ではなく、諦念であった。  事実は事実として運命を受け入れる外ないと、ただそう思っただけだ。 淹れ立てのコーヒーの香りを楽しみながら、ゆっくりとカップに口をつけると、コクのある風味と苦みを味わう。  普段なら朝食を終わらせて、神話や歴史、魔法の書物を読んで、自分なりの解釈を加える研究を行うのだが、今浮かんでくるのは昨日の出来事。 いきなりあのような話になったのは何故なのか――  シャ
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