All Chapters of 99回目の拒絶のあとに訪れる涙: Chapter 11 - Chapter 12

12 Chapters

第11話

澪の亡骸を抱いて泣き崩れていた怜司のもとに、屋敷の扉が乱暴に開け放たれた。咲が、いつものように誇らしげな笑顔で家の中へ入ってくる。まだ何も知らないその顔は、無邪気ささえ感じさせた。「怜司さん、ただいま!」甘えた声で駆け寄ろうとする咲。「ねえ、聞いて!今日、相談役の丸山さんも私の味方だって言ってくれたの!そういえば、二日前にお姉ちゃんを見かけたよ。彼女、屋敷の外でよく知らない人と一緒にいたの。家の仕事も、最近はほとんどサボってるみたいだった。ねえ、怜司さん、もうそんなに怒らないであげてよ?きっとお姉ちゃんも一時の気の迷いだから、ちょっとお仕置きしてやれば……」その瞬間。怜司は突然立ち上がり、容赦なく咲を平手打ちした。咲は何が起きたのかわからず、壁に叩きつけられて肩を押さえる。「……怜司さん、どうしたの?」怜司の目には、これまでにない怒りと絶望の炎が宿っていた。「桐島家はお前を跡取りとして大事に育ててきた。それなのに、お前は何てことをした……!俺の澪を返せ!」その声には、心の底から湧き上がる叫びが混じっていた。娘がもう灰になってしまったというのに、目の前の咲は、まだ無実のふりを続けている。綾子の中で、悲しみと怒りが一気に噴き出した。テーブルの上にあった水晶の灰皿をつかみ、全力で咲に向かって投げつける。「この人殺し!あんたが私の娘を殺した!」咲は叫びながら必死で身をかわす。灰皿は頬をかすめて、床で粉々に砕け散った。「お母さん、何を言ってるの?私、本当に何もしてない……」声は震え、まるで自分こそが被害者だと言わんばかり。自分が一番の被害者みたいな顔。これも、咲が何年も使い続けてきたお得意の芝居だ。「いつまでその芝居を続けるつもりなんだ?」怜司は無言で録音機を咲の前に叩きつける。その目は鬼のような憎しみに満ちていた。「お前には、ほんとうに驚かされたよ」咲は手を震わせながら録音機を再生する。スピーカーから流れるのは、自分自身の声。澪に毒を盛り、暴力をふるい、嘲り笑うあの声。咲の顔からはあっという間に血の気が引き、膝から崩れ落ちる。必死に怜司に縋りつき、涙声で叫ぶ。「違うの、怜司!そんなつもりじゃなかった!私は……私は、お姉ちゃんとふざけていただけなの!
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第12話

三日が過ぎた。咲は監禁部屋の片隅で膝を抱え、汚れと湿気にまみれながら震えていた。ついに、最後の切り札を思い出す。――今、一族は跡取りの妻を失い、不吉だと噂が広まり、誰もが元気をなくし、結束力もどんどん薄れていった。このままでは一族が崩壊しかねない。いま、自分だけが女主人として怜司を支える力を持っている。咲は見張り役の前でわざと弱々しくふるまった。「怜司さんが私を憎んでいるのは分かってる。でも彼に伝えて。今の一族には、みんなを支える強い女主人が必要で、私だけが、怜司さんを助けて一族を立て直せる存在なんだって」だが、監禁部屋の前に現れた怜司の目は、ただ氷のように冷たかった。「まだそんな計算をしてるのか、咲。お前の心の内なんて、全部お見通しだ。お前が奪ったのは、俺の妻、この世界でただひとり愛した人間だ。そんなお前に、家の未来を託すくらいなら、一族が滅びても構わない」怜司の声は氷のように冷たく、その一言一言には、深い憎しみが込められていた。彼は咲を乱暴に監禁部屋から引きずり出し、澪の墓前まで連れていった。そこには、質素な石碑がひっそりと立っていた。石に刻まれた名前のまわりには、澪が好きだった鈴蘭の花が、夜風に揺れている。「跪け」怜司の声は拒否を許さなかった。「ここで、澪に向かって自分の罪を詫びろ」咲は尖った砂利の上に膝をつかされ、膝頭から血が滲む。だが、その痛みよりも心の絶望のほうが何倍も重かった。咲は悟った。怜司は、本気で自分を終わらせるつもりだ。数日後、咲はすべての希望が消えたことを思い知らされる。ついに、最後の狂気に身を投じた。残った美貌で若い見張り役を誘惑し、こっそりと猛毒を手に入れる。夜の闇に紛れて町の水源地へと忍び込んだ。もし自分が欲しいものを手に入れられないのなら、この町も、一族も、全部終わればいい。そんな狂気を、怜司はとうに見抜いていた。咲が毒薬を水源に流し込もうとしたまさにその瞬間、怜司が背後に現れた。「やっぱりな。お前は結局、最後まで変わらなかった」怜司は咲の顎を無理やりつかみ上げる。咲は押さえつけられながらも、必死に叫んだ。「どうしてお姉ちゃんみたいな役立たずだけを愛したの?私のほうが、彼女より何倍も強いはずなのに!」怜司は咲の叫
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