澪の亡骸を抱いて泣き崩れていた怜司のもとに、屋敷の扉が乱暴に開け放たれた。咲が、いつものように誇らしげな笑顔で家の中へ入ってくる。まだ何も知らないその顔は、無邪気ささえ感じさせた。「怜司さん、ただいま!」甘えた声で駆け寄ろうとする咲。「ねえ、聞いて!今日、相談役の丸山さんも私の味方だって言ってくれたの!そういえば、二日前にお姉ちゃんを見かけたよ。彼女、屋敷の外でよく知らない人と一緒にいたの。家の仕事も、最近はほとんどサボってるみたいだった。ねえ、怜司さん、もうそんなに怒らないであげてよ?きっとお姉ちゃんも一時の気の迷いだから、ちょっとお仕置きしてやれば……」その瞬間。怜司は突然立ち上がり、容赦なく咲を平手打ちした。咲は何が起きたのかわからず、壁に叩きつけられて肩を押さえる。「……怜司さん、どうしたの?」怜司の目には、これまでにない怒りと絶望の炎が宿っていた。「桐島家はお前を跡取りとして大事に育ててきた。それなのに、お前は何てことをした……!俺の澪を返せ!」その声には、心の底から湧き上がる叫びが混じっていた。娘がもう灰になってしまったというのに、目の前の咲は、まだ無実のふりを続けている。綾子の中で、悲しみと怒りが一気に噴き出した。テーブルの上にあった水晶の灰皿をつかみ、全力で咲に向かって投げつける。「この人殺し!あんたが私の娘を殺した!」咲は叫びながら必死で身をかわす。灰皿は頬をかすめて、床で粉々に砕け散った。「お母さん、何を言ってるの?私、本当に何もしてない……」声は震え、まるで自分こそが被害者だと言わんばかり。自分が一番の被害者みたいな顔。これも、咲が何年も使い続けてきたお得意の芝居だ。「いつまでその芝居を続けるつもりなんだ?」怜司は無言で録音機を咲の前に叩きつける。その目は鬼のような憎しみに満ちていた。「お前には、ほんとうに驚かされたよ」咲は手を震わせながら録音機を再生する。スピーカーから流れるのは、自分自身の声。澪に毒を盛り、暴力をふるい、嘲り笑うあの声。咲の顔からはあっという間に血の気が引き、膝から崩れ落ちる。必死に怜司に縋りつき、涙声で叫ぶ。「違うの、怜司!そんなつもりじゃなかった!私は……私は、お姉ちゃんとふざけていただけなの!
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