聞けば聞くほど謎が深まるミナミのことで、ホクトを交えて三人で話をしていると、坂の下から上がってくるカブのエンジン音が聞こえてきた。「あ、ケイちゃん帰って来た」 原チャながらも力強いスーパーカブが颯爽と路地を曲がって行ったところで、シノさんは厨房に続く通路に向かって叫んだ。「ケイちゃーーん! 上あがンないで、こっち来てーー!」 入り口脇の駐輪場にカブを停めたのだろう敬一クンが、廊下を通ってこちらへやって来る。「ただいま、兄さん。どうかしましたか?」「店の帳簿が見たいってヒトが来てんだよ」「帳簿? また税務署の人ですか?」「チガウ。アマホクは、えーと、出資者の従兄弟…だったよなあ?」 振り返ったシノさんの後ろから、敬一クンが顔を覗かせる。「あれ、天宮?」「ああっ、ケイ!」 敬一クンの顔を見て以降数分間のホクトの状態を、なんと表現すればいいのだろうか。 ハタと動きを止め、驚きと感動と喜びと〜〜みたいな表情のあとに両手を広げて、ダッと敬一クンに駆け寄ったホクトは、そのまま敬一クンをギュウ〜〜! とばかりにハグした。 それがやっと少し離れた…と思ったら、敬一クンの顔をしげしげと見つめ、いきなり額と両頬にチュウをして、それからまたギュギュギュのギュウ〜〜! てなハグをしている。 アクション全部が演技過多なミュージカルみたいになってて、しかも敬一クンはいつも通りにのほほんとしてて、されるがままになっている。 俺はその一部始終を、半口開けて眺めてしまった。 一緒に眺めていたシノさんが、モノスゴク嬉しそうな声で言った。「なあなあケイちゃん、アマホク、ケイちゃんの友達かー?」「甘食がどうかしたんですか?」「いや甘食じゃなくて、アマホク」 まだ敬一クンをハグしていたホクトが、ようやくコッチを振り返った。「東雲さん! ケイ…いや、中師と東雲さんは、どういう関係なんですか!」「ケイちゃんは、俺のメシマズババアの再婚相手の息子だから、俺の弟だ!」「弟? めしまず? え? 何?」「天宮は友人です。でもおまえ、どうして此処にいるんだ?」 なんだか会話が、有用な情報と無用な情報が入り混じって、わけが判らなくなってきた。「あのさ、知り合いみたいだし、皆、部屋に上がってよく話したら? 俺が店を片付けるから」「あー、俺も店たたむの手伝う。ケイちゃ
Last Updated : 2025-10-29 Read more