晴明の会社は一人の男性のお陰で成り立っている。あの時の電話を取らなければ家族との関係を修復出来たのかもしれない。しかし、生きていく為には、自分の会社を守る為には必要だった。光はあれ以来、一切表情を出さない。笑う事も、泣く事も、怒る事も。からっぽになったようにただ窓から見える景色を見るだけで、誰の言葉も届かない。 我慢させすぎたのかもしれない、光の異変に気づいた晴明は何箇所も病院を回った。何処へ行っても原因は分からない。精神的なショックによるものだろうと言われたが、それでここまでなるとは到底思えない。 ここで最後ーー大学病院を前にした晴明の手は微かに震えている。彼があの時、光の希望を砕いたせいでこの現実が完成されてしまった。自分を責めても、光の心が戻ってくる訳ではない。そう分かっているのに、どうしても希望を捨てる事が出来ない彼がいた。 精密検査を繰り返し辿り着いた結果は残酷なものだった。光は精神的ショックだけではなく、脳に多大なダメージを追っている。その中の回路の一つが切断されたように離れていた。これがきっかけで廃人になってしまったのだ。 「元に戻る可能性は……ありますか」 振り絞って出した声からは不安と緊張、そして罪悪感が詰まっている。きっと大丈夫だ、と言い聞かせてみるが、現実は残酷にも彼の希望を簡単に打ち砕いていく。 「奥様はこのままの状態で生き続けるしかないでしょう。残念ですが……」 「……そんな」 医者から告げられた言葉が頭に鈍器で殴られた衝撃を与え続ける。晴明は顔を隠すように、下を向いていく。行き場のない感情を堪えるように、唇を噛み続けた。 今日
Last Updated : 2025-11-08 Read more