社長は私を離さない

社長は私を離さない

last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-15
Oleh:  空蝉ゆあんTamat
Bahasa: Japanese
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建設会社で働いていた西宝麻美。帰宅した彼女はポストを確認すると、一つの封筒を取り出していく。それが彼女の運命を変えていく存在になるとは考えていなかったーー 麻美が本当の愛を知るまでの物語。

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Bab 1

第一話 採用通知

全ての始まりは一つの採用通知からだった。建設会社で働いていた西宝麻美《さいほうあさみ》は息を吐くように椅子に座ると、見覚えのない封筒を蛍光灯に掲げていた。

「採用通知? 何これ」

封筒にはそれ以外の情報は書かれていない。住所があるはずなのに、見当たらなかった。どうしてこれがポストに入っていたのかを知る為に、何処の採用通知かを確認するしかないと自分に言い聞かせ、丁寧に開けていく。

【ジェクトコーポレーションーー西宝麻美様、この度は当社の面接にご参加頂きありがとうございます。西宝様のお仕事内容についてお話を進めていきますので当社にご来訪よろしくお願いします。日時は20日の午後二時となっています。三間坂建設にはこちらからご連絡をしておりますので、ご了承下さい】

手紙に打ち込まれている文字を読み終えた麻美には面接をした記憶が一切ない。彼女は建設会社で下積みをする為に働いている。それなのに、急にジェクトコーポレーションからの手紙が届いた。何がどうなっているのか分からない麻美は会社の直属の上司葉山に連絡をする事にした。

「会社に連絡してるってどういう事なのよ。なんでジェクトが……」

ブツブツと自分の心に留めておいた言葉を吐き出すと、タイミングよく葉山から着信が入る。マナーモードにしていた麻美は持っていたスマホを操作し、通話ボタンを押した。

「お疲れ様です」

「お疲れ、西宝。お前、明日会社に来なくていいからな。いや明日から来なくていい」

「どういう事ですか?」

当然のクビ宣言をする葉山は麻美の様子に気を止める事もなく、淡々と話を進めていく。

「お前は明日からジェクトコーポレーションの社員になる。郷東様からそう聞いている」

「へ? 郷東って……誰ですか?」

「おいおい。お前の上司だぞ。ジェクトコーポレーションを纏めている、郷東終夜《ごうとうしゅうや》社長だ」

葉山から知らされた内容は未知の領域のものだった。勝手に自分の事を決められた事に腹を立てている麻美は、葉山に自分の気持ちを伝えようとする。しかし葉山は、これ以上関わりたくないのだろう。要件を終わらせるとすぐさま通話を切った。

「郷東終夜……」

聞かされた名前を呟くと、どこかで耳にした事がある事実を思い出していく。それは麻美の父、西宝晴明が言っていた言葉に隠されていた。晴明は建設会社の社長をしている。麻美は晴明の跡継ぎとして子会社の三間坂建設に実力をつけさせる目的で入社させていた。そんな父の了承もなく、勝手に動き出している物事に疑問を抱えるしか出来ない。

「麻美、決して郷東終夜を敵に回してはいけないよ」

記憶の中で忠告を促す晴明の姿を繰り返していく。その言葉が麻美を動けないように縛り上げていった。郷東終夜が何者なのかを知らない。少しでも情報が欲しかった麻美は慌てるようにパソコンを開き、終夜の名前を打ち込んでいく。

カタカタと音が響きながら、心臓の音も加速していった。Enterキーを押すと、そこには終夜の情報で埋め尽くされている。ジェクトコーポレーションのサイトには勿論、国、県、町の公式ホームページに終夜の今までの学歴と功績が公開されていた。一会社の社長の立場であるにも関わらず、どうしてそれ以外の場面に表示されているのだろう、クビを傾げ画面を見つめる事しか出来なかった。

「……この人、何者なの」

ジェクトコーポレーションーー複数の事業を展開していきながら、勢力を拡大し続ける。話題の会社として有名だった。建設は勿論、飲食店、IT技術を中心に幅広く運用している。この会社の社長は殆ど顔を見せる事はなかったが、後継者として選ばれた終夜は先代社長と別の視野で状況を観察し、表舞台へと出る機会にも恵まれていた。

新しい技術を広める先駆者として紹介されていた終夜の事を思い出すと、肩を下げた。

「はああああああ?」

ひっそり暮らすつもりだったのに、無理矢理引っ張られているように思えた麻美は、不満と共に叫び声をあげていくーー

彼女にとって運命の分かれ道が目の前に現れた。受けるか拒否するかで麻美を含み、周囲に影響がいくだろう。断る事が許されない状況に気づいた時には遅かったのだった。

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第一話 採用通知
全ての始まりは一つの採用通知からだった。建設会社で働いていた西宝麻美《さいほうあさみ》は息を吐くように椅子に座ると、見覚えのない封筒を蛍光灯に掲げていた。 「採用通知? 何これ」 封筒にはそれ以外の情報は書かれていない。住所があるはずなのに、見当たらなかった。どうしてこれがポストに入っていたのかを知る為に、何処の採用通知かを確認するしかないと自分に言い聞かせ、丁寧に開けていく。 【ジェクトコーポレーションーー西宝麻美様、この度は当社の面接にご参加頂きありがとうございます。西宝様のお仕事内容についてお話を進めていきますので当社にご来訪よろしくお願いします。日時は20日の午後二時となっています。三間坂建設にはこちらからご連絡をしておりますので、ご了承下さい】 手紙に打ち込まれている文字を読み終えた麻美には面接をした記憶が一切ない。彼女は建設会社で下積みをする為に働いている。それなのに、急にジェクトコーポレーションからの手紙が届いた。何がどうなっているのか分からない麻美は会社の直属の上司葉山に連絡をする事にした。 「会社に連絡してるってどういう事なのよ。なんでジェクトが……」 ブツブツと自分の心に留めておいた言葉を吐き出すと、タイミングよく葉山から着信が入る。マナーモードにしていた麻美は持っていたスマホを操作し、通話ボタンを押した。 「お疲れ様です」 「お疲れ、西宝。お前、明日会社に来なくていいからな。いや明日から来なくていい」 「どういう事ですか?」 当然のクビ宣言をする葉山は麻美の様子に気を止める事もなく、淡々と話を進めていく。 「お前は明日からジェクトコーポレーションの社員になる。郷東様からそう聞いている」 「へ? 郷東って……誰ですか?」 「おいおい。お前の上司だぞ。ジェクトコーポレーションを纏めている、郷東終夜《ごうとうしゅうや》社長だ」 葉山から知らされた内容は未知の領域のものだった。勝手に自分の事を決められた事に腹を立てている麻美は、葉山に自分の気持ちを伝えようとする。しかし葉山は、これ以上関わりたくないのだろう。要件を終わらせるとすぐさま通話を切った。 「郷東終夜……」 聞かされた名前を呟くと、どこかで耳にした事がある事実を思い出していく。それは麻美の父、西宝晴明が言っていた言葉に隠されていた
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-24
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第二話 名刺
会社に戻る事も出来ない。ジェクトコーポレーションの社員になったと言う事実を受け入れる事が出来ない。晴明を支える為にも実力を積み重ねるつもりだった麻美の表情は暗かった。この事を晴明に相談する事も考えたが、負担になってしまうだろう。 自分の事は自分でどうにかする。その信条を掲げていた麻美にとって晴明に頼る行動は負けた証拠になる。将来を期待されているのに、迷惑をかけてしまう事は避けたかった。 準備を済ませた麻美は重たい気持ちを振り切るように部屋を出る。 「好き勝手にさせるもんですか。何様なのよ」 終夜に会ったらはっきり言おう。そう決めた麻美は覚悟を決めたようだった。 彼を敵に回す事になってでも、どうにか阻止したい。自分らしく生きる為にはそれしか方法はなかった。時計を確認するとま十二時半だ。早めに向かった方がいいと思ったのだろうが、早く出すぎてしまった。タクシーでジェクトコーポレーションに向かおうとしていたが、これなら歩いて行っても余裕で間に合うだろう。 「気分転換も必要よね」 自分に言い聞かせるように呟くと、うんうんと頷いていく。本音を言えば、さっさと終わらしたい。約束時間を指定されたのだから、従うしかなかった。麻美はゆっくりと町並みを眺めながら歩いていく。いつもなら会社にいるはずなのに、いつもと違う空間は妙に遠く感じてしまう。世間から置いてけぼりにされたように。 「きゃっ」 「……す、すみません」 考え事をしていた麻美はすれ違いざまに男性とぶつかってしまう。見るからにサラリーマンのように見えた。麻美よりも背が高いのに、ひょろりとしている。ぶつかっただけなのに、尻もちをついて痛みを堪える男性の様子が映っていた。 「ごめんなさい、大丈夫ですか?」 「ああ……あ、はい。お姉さんは大丈夫ですか?」 「ええ。立てますか?」 急なハプニングの登場に気が抜けていく。余裕を持って早めに出てよかったと思う反面、気分転換になるはずの空間を引き裂かれた気分になった。ちゃんと前を見ていなかった麻美も悪いが、男性にも原因はある。 本音を口にしないように言葉を封じると、営業スマイルを作り出し、男性に見せつけていく。さっきまで機嫌が悪いようにしか見えなかった麻美の急な笑顔に動揺を隠せないようだ。彼女的には上手くやっているつもりなのだろう。 麻美は男性を支えるように
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-24
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第三話 契約
「ここでお待ちください」 職員にそう言われ十分が経った。約束の時間の十五分前に来たのに、ここまで待たされるとは思っていなかった。通された時には二時が回っている。麻美は心の中で終夜に対しての不満を並べていく。 彼女が通されたのは社長室だった。終夜本人が麻美を指名していると追加で書かれていたが、嘘だと思っていた。彼女の知っている社長室とは違い、沢山の賞状が壁にかけられている。一つ一つ確認していくと、終夜がどれほどの人物か教えられているようで、気分が悪い。 功績を持っていたとしても、彼女には何の関係もなかった。全ては紙の上に描かれているだけ。そこから終夜の人物像が分かる訳でもない。 生き苦しい空間で一人ぼっち。終夜は姿を見せる様子もなく、精神的に追い詰められている彼女がいる。ため息を吐きそうになった時、扉が開いた。そこにいたのはモデルのように整った容姿と誰もが振り向いてしまいそうなスタイルを兼ね揃えた終夜の姿があった。簡単に触れてはいけないような独特の雰囲気を持っている。同じ空間にいるだけなのに、彼の放つ重圧が麻美にダイレクトに伝わっていった。 「君が西宝麻美さんだね。私は社長の郷東終夜だ」 「初めまして、よろしくお願いします」 「急な事で驚いただろう」 「……どういう事でしょうか?」 雑談から入ろうと下準備をしていた終夜を拒絶するように、切り込んでいく。目元を緩まし、柔らかい雰囲気を演出していた終夜は麻美の姿に釘付けになっていった。跡継ぎとして下積みを経験していると言っても彼女は世間知らずのお嬢様。そう思っていたのに想像と反対の迫力に驚いていた。外用に作られた表情からは感情が見えない。 全てがまがい物で、彩られた終夜の姿を見つめている麻美は怯む事なく、自分の意見を口にし始める。 「こんなやり方をするなんて、貴方は何様なんですか」 「そんなに怒る事かな?」 「当たり前です!」 感情的になってしまった麻美は彼の言葉に煽られていく。言いたい事が沢山あったのに、こういう時に限って出てこない。麻美は終夜の言葉に揺られないように、自分自身の心を安定へと導こうと必死だった。 相手は冷静、彼女は情緒的。二人の持つ性質は交わる事などない。それを知っているからこそ、手のひらで転がされているようで、悔しい想いが加速していく。ギュッと
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-24
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第四話 プライベート
ピピピーーアラームの音が寝室中に鳴り響いていく。まだ寝ていたい麻美は右手以外を布団に隠し、音の発生源を突き止めようとしていた。右に左に動かしてみるが、なかなか辿り着く事が出来ない。一度止める事が出来れば、夢の中を楽しめれるのに、そう想いながら、ムックリと起きていく。 「んー」 髪を乾かすのを忘れていた彼女の頭は鳥の巣状態。後ろ髪がうねって、前髪は幽霊のように顔を隠していた。うつらうつらと揺れるように歩き出した。その先に机が待っている。寝起きがとてつもなく悪い麻美は念の為に、時計を机の上へと避難していた。 寝ている状態の彼女の近くに置いているのは危険でしかない。音を発生させてしまった瞬間にパンチが飛んでしまうからだ。壊れる事はないが、何が起きるか分からない。 「ねむ……」 大きな口を開けてアクビをすると、少し目が冷めてくる。時計の針はもう少しで八時を示そうとしていた。やっと辿り着く事が出来た麻美は、スイッチを押した。煩い小言を言われているように鳴り響いていたアラームはスンと静かになっていく。 「もう少し寝るつもりだったのに、最悪」 バサバサと髪を手櫛で軽く整えていくが、思い通りに戻らない。そんな麻美の姿を観察している人物の存在に気付く事もなく、目を覚ます為に顔を洗いにいった。洗面所に着くと勢いよく冷水を出していく。洗顔フォームを取り出し、水で溶かすと勢いよく顔を洗っていった。 麻美の行動は全てが大胆だ。一切の可憐さはなく、外面で取り囲んでいる自分は一切存在しない。 「ふう」 キュキュと蛇口を止めると、顔を拭いていく。この瞬間が心地よくて堪らない。用意されていた新品のタオルが彼女の頬に優しく纏わりついてくる。 「……ん?」 いつも使っているタオルと違う事に気付く
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-01
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第五話 ギャップ
一人で暮らしていた時はいつもコンビニのおにぎりで済ませていた。身の周りの事も自分で出来るようにと晴明に言われたのだが、麻美の食生活を知られると雷が落ちてくる。誰かと食事をするなんて久しぶりの事で緊張している。彼女は用意を済ますと、整えられた髪を揺らしながらリビングへと入った。 「早かったな」 「そう? これでも時間かかった方だけど」 「女性の準備は時間のかかるものだと思っていたよ」 素直な気持ちを口にしただけなのに、麻美にとっては嫌味に聞こえてしまう。まるで自分が女性らしくないと言われているようで、少し気分が下がった。なるべく表面に出さないように務めている彼女だが、隠しても終夜からは手に取るように分かってしまう。 テーブルの上に綺麗に並べられたトースト、スープ、サラダ、スクランブルエッグ、そしてデザートのヨーグルト。麻美の来るタイミングを見計らったように目の前に広がっている食事に言葉を失っていく。以前の自分の食卓とは違う、天と地ほどの差があった。 「どうした? キョトンとして」 「……なんでもないです」 「食事が冷めてしまう、食べようか」 自分との格差にショックを隠しきれない麻美を放置して、席に座った。出遅れてしまった事に気付くように、慌てて終夜の向かいの席に腰を沈めていく。彼に合わすように両手を合わせ、感謝を口にし、食事を始めた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 当たり前だった日常が様変わりしてしまった現実を受け入れる事が出来つつある。朝の食卓を思い出しながら、ため息を吐いてしまった。あんな優雅な時間を過ごしたのは、いつぶりだろうか。麻美は昔を思い出しながら、両親と笑い会った食卓を重ねていく。 終夜は会社で仕事をしている時とプライベートのギャップが凄かった。あんなに微笑
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-02
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第六話 メッセージ
終夜はスマホから流れてくる麻美の声を楽しみながら聞いている。動揺と疑心が混ざり合いながら溶けていくと、水滴が落ちるように、声の一部として変換されていった。その瞬間を彼は見逃さない。麻美からしたら終夜の行動は彼女を試す為に作らている物事の一つにしか過ぎないようだ。される本人にとっては迷惑な話だろう。 「私を探していたんだろう? 今車の中でね、君の声がよく聞こえないから、もう少し大きい声で話してくれないだろうか?」 フンと煽るように鼻で笑うと、スマホを通して彼女の元へと流れていく。全てを察した麻美は納得するように肩の力を抜いていく。秘書としての自分ではなく、一人の人間、西宝麻美としての言葉を彼にプレゼントした。 「貴方は私がスケジュールを伝える前から把握してたんでしょ? 秘書として使えるかどうかを試したのね、違う?」 「……想像に任せるよ」 明確な答えを告げる訳でもない終夜の顔が頭の中で、一つの映像として流れ込んできたような気がした。この瞬間、手玉に取られていた事実が顔を出して笑っている。 二人の会話の流れを知らない菅原和希は運転をしながら終夜の反応から内容を予測していた。麻美がどんな対応をしたかを知る事は出来ないが、連想させる事で事実に近づく事は出来る。その原理を知っている彼は、ふふっと声を漏らし、自分の置かれた立場を忘れそうになっていた。 運転手であり麻美の先輩に当たる和希。彼は先代社長の時からずっと第一秘書として社長を支えている優秀な人材だ。終夜の事を育てる為に、より高みへと導けるようサポートする為に、今の立ち位置を選んだ人間だった。 「……和希、運転に集中しろ」 「分かりました」 社長としての立場を確立する為にも、人との距離感を大切にしていた終夜は、和希にだけは違
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-03
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第七話 予感
岬に書類を渡していくと、パッと資料の中に書かれている名前に気づいていく。そこには麻美の父、晴明の名前が書かれていた。岬に渡そうとした所で気付く事が出来た。この資料だけはどうしても確認した方がいい、直感がそう語ってくる。 「どうしたの?」 「この資料、社長に頼まれていたものが混ざっていました」 「次からは気をつけようね」 「はい」 深くは踏み込んでこないようで、内心ホッとしている彼女がいる。どうにか誤魔化せた麻美は、そそくさと自分の机の引き出しにしまい込んだ。念の為に鍵をかけると、彼女以外が触る事はないだろう。 「じゃあ、この書類、社長室に置いてくるから後はよろしくね」 「はい」 元気な返事が岬の背中に注がれていく。彼女は振り返る事もなく、スタスタと歩いていった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー テレビ局での会議が始まろうとしている時に、遅れて入ってきたのはある人物だった。終夜は一瞬不機嫌な表情を現していく。彼の視線に気づいた人物は、終夜の方を確認するように視線を向けた。一瞬を逃す事のない彼は、表面化していた感情を奥深くに戻していった。 人物の視線が終夜に向けられた時には、いつもの微笑みが溢れていた。 「終夜君も来ていたのか」 「お久しぶりです、蘇枋《すおう》先生」 「今日はどういう立場でここにいるのかね?」 「……いつも通りですよ」 蘇枋先生と終夜が呼んでいる人物は、政治家の蘇枋シンヤだった。基本、表に出る事が好きな人ではないのだが、今回は何か訳ありのように思える。個人的に聞きたい気持ちがある終夜だったが、下手に踏み込
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-04
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第八話 孤独
誰かの帰りを待つなんて経験が初めてだった麻美は、落ち着きかない。終夜から入ってきた連絡は「先に帰宅してくれ、お疲れ様」と無機質なものだった。もう少し優しくしてくれてもいいのに、そんな事を思うが、決して口に出す事はない。二つの顔を知っている彼女は、気を抜くと終夜の事を考えるようになっていた。一緒に暮らしているから変に意識しているだけなのかもしれない。それでも着実に今までとは違う予感がする。残業をしているとしても、いつもよりも帰宅が遅い。長くても八時までには帰ってきているのに、今日はいつもと違った。初日から失敗ばかりしていた彼女も、毎日を繰り返し仕事と向き合っていくと、少しずつ出来なかった事も出来るようになり、あの時に比べて失敗をする事もなくなった。そんな自分を褒めてくれると思っていたのに、終夜は何も言ってくれない。考え込んでしまう性格を直したい麻美だが、そう簡単に人の癖は治らない。それなら他の事に置き換えて考える時間を少なくすればいい、その答えに行き着いた彼女はスマホを開き、料理動画を見始めた。最低限なら作る事は出来るが、終夜は社長だ。舌が肥えているはず。そう考えるとどれもパッとしない。彼が何を好きで何を嫌いか、それさえも知らない事に初めて気づいた。麻美が知っている終夜は表面的な部分だと気付く。全てを分かっていた気になっていたのに、実際は何も知らない。ワクワクしていたはずの心は、花が枯れるように色褪せていく。そんな彼女の名前を呼ぶように、蛇口の水がポタリと落ちた。「こんなに静かだっけ、この部屋」動画を止めると、静かに呟いた。全ての音がこの世界から消えてしまったように静寂が包みこんでいく。まるで夜に沈んでいく太陽みたいだ。一人に慣れていたはずの麻美は、終夜と仕事も家でも時間を共有してしまった。彼女の日常にあっさりと踏み込み、生活の一部になっている。彼の存在は当たり前で、光であり、幻になる。一度迷い込んでしまった気持ちは、そのまま下降しながら不安という感情を作り上げていった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-05
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第九話 覚悟
終夜は抱きしめていた手を解くと、麻美をお姫様抱っこをし、ソファーへと運んでいく。急な事で対応が出来ない彼女はされるがまま。いつもなら暴れているだろう。素直な気持ちを全面に出していた麻美の頬は赤い。腫れた瞳は微かに潤みながら、終夜を見つめていた。 トントンと階段を上がっていくと、麻美の部屋が見えてくる。階段でお姫様抱っこは大変なはずなのに、全く様子は変わらない。これ以上、終夜の負担になりたくない彼女は袖を引きながら言った。 「一人で歩けるよ?」 「……気にしないでほしいな。私がしたいからしているだけだよ」 向けられた笑顔に心を掴まれてしまった彼女は、それ以来無言を貫き、目線を外していく。優しいを通り越して、甘さまで感じてしまうこの状況はなんだろう。ヒョイと麻美を落とさないように慎重に調整をしていく。密着している終夜は互いの心臓の音を確かめながら、理性を整えようとした。 「ここでいいよ」 部屋の前まで辿り着くと、彼の腕から逃げるように降りていった。 「ありがとう」 「どういたしまして」 二人は恥ずかしそうに顔を見合わせながら、ふふと笑った。その姿はどこからどう見ても夫婦のようにしか見えない。麻美の気持ちを考えて、婚約関係で留まっていた終夜は、そろそろ動き出したいと考えている。受け止めてくれるかどうかは分からない、それでも二人の間で生まれていくこの幸せをより深いものにしたかった。 「話って何かな?」 いつもの麻美と口調が違って聞こえる。ツンケンしている様子はなく、どちらかと言うと甘えているような声を出していた。本人はその事に気づいていない様子だ。「んん」と低い咳を吐き出すと、覚悟を決めたように真剣な表情を見せてくる。 「話をする前に、少し休憩した方がいい。君が落ち着いたら声をかけてきて」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-06
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第十話 雨と涙
眠り続ける麻美の瞼から涙が滲んでいる。ゆっくりと枕に浸透しようとしている宝石は、彼女の感情の残骸だ。自分でも気付かない想いを滲ませながら、夢幻楼は現実へと入り込み、一つに混ざるように溶けていく。 そんな彼女の姿を思い起こしながらため息を吐く父、晴明がいた。麻美の幸せを考えて生きてきた結果がこれか……彼の呟きはゴールのない迷路へと迷走していく。終夜に事実を伝えるかどうかを悩んでいた彼は、未だに口を閉ざす事しか出来ない。 いつかは表面化されてしまう物事に怯えながら、彼の気持ちとは裏腹に時間だけが過ぎていった。 「……すまない、麻美」 自分の手元にずっといてほしかった、それが晴明の本音だ。夢と現実は全く違う反対色として存在しながら、彼を苦しめる結果へと書き換えてしまった。自分のミスがなければ、人を信用しなければこの結果にはたどり着かなかっただろう。 「奴は悪魔だ」 誰を指し示す言葉かを濁したまま、ポツリと口にしていく。グルグルと今までの記憶が頭の中で浮き上がり、存在をアピールしていく。過去の事なのに、それらは現実に起こっているように晴明の体から抜け出し、目の前のステージへと広がっていった。 雨は振り続ける。フラフラを前に進むしかなかった晴明は、傘もささずに歩いている。放心状態の晴明には周囲の光景が霞んで見えた。全ては幻だったのかもしれない。今まで会社を大きくする事で生活を保とうと努力してきた。全ては麻美と妻の為だ。何かを成し遂げる為には犠牲が必要だった。あの時は目の前の光に酔いしれて、崩壊していく現実に気付けなかった。 「どうして俺の気持ちが分からない。お前達の為にーー」晴明の言葉は妻である光を責めるものばかり。お互いを支え合う昔の二人の姿は見る影もない。言葉は互いの心を傷つける刃へと変貌し、全ての幸せを壊
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