LOGIN建設会社で働いていた西宝麻美。帰宅した彼女はポストを確認すると、一つの封筒を取り出していく。それが彼女の運命を変えていく存在になるとは考えていなかったーー 麻美が本当の愛を知るまでの物語。
View More私達は今まで知る事のなかったストーリーを見ている。表面的には恐怖なんて、苦しみなんてないと思っていたのに、記された文章の中には沢山の闇が広がっていた。最後のページへ進もうとした私を止めるように、姉と妹が声を出した。 「これ本当にあった話なの?」 「……分かんない」 「ここに書かれている人達って」 「だよね」 二人はあれやこれやと考察をしているようだ。そんな姉と妹を見つめながら、自分も何か言った方がいいのかと考えたが、会話に入り込む隙間が見つからない。いつもこうなる、自分を省いて、盛り上がっていく二人の姿を見つめながら、途方に暮れるしかなかった。 長年愛用していた古びた手帳に書かれているのは私達の祖父母の話だろう。これが事実かどうかは分からないが、それでも元になった出来事があったはず。そう考えると腑に落ちる。 最後のページを捲ってみると、そこには何もない。続きがあるはずなのに書かれている形跡が見えない。不思議に感じた私は、じっくりと日記に不審な点がないか、観察していった。 「あ」 小さな声が漏れていく。ある事に気づいた私はスルスルと日記帳のつなぎ目に指をなぞっていった。すると、隠すように誰かが破った形跡がある事に気づいた。 やっぱりこの物語には続きがあるのだと確信した私は、日記を机に置くと、ガサゴソと引き出しを漁っていく。古い時計やネックレス、そして若かりし頃の二人が映っている写真を手にした。日記に書かれた人物とは対照的で幸せそうに笑っている。読んでしまった事を少し後悔している自分がいる。 「何をしてるの、さっきから」 「気にしないで、姉さん」 「まーた余計な事して、あんたはいつもいつも」 さっきまで私をいないもののように扱っていた癖に、何かをしようとすると小言
真実を知っているのは当事者と目撃者だけ。その事実が表面化される事はなかった。その事実を知っている麻美は、今まで霞んで見えた過去の記憶を呼び覚ましていく。捨てたはずの情報達は、彼女の精神を喰らい続け、真実を告げていった。 「あ…あ……」 話を続けようとした終夜は麻美の異変に気付く。彼女の瞳は遠くを見て、何かに怯えているようだった。その姿は大人の女性と言うよりも、少女に近い。シンヤの事を全て把握している訳ではないが、彼の協力者として立ち回りながら、情報を集めていた。その一端を彼女に伝えたのだ。 「やめて、やめ……て」 「麻美? 麻美!」 目の前にいるのは終夜だ。それなのに彼女は化け物を見るような瞳で彼を拒絶している。一体何が起こっているのか理解出来ない。その中でも一つだけヒントが隠れていた。この話に反応すると言う事は、麻美はその現場を見ていたのではないかと推測する。そうすると納得出来る、これはーーフラッシュバックだ。 ブツブツと何かを唱えるように呟き続ける。単語で作られている言葉達は、ある人物の特徴を指していた。ピンと来た終夜は彼女を現実に引き戻す為に、抱きしめていく。引っかかれても、暴れられても、そんな事は大した事じゃない。 それだけ彼女は苦しんでいるのだから。その十字架を半分でもいい、背負いたかった。 麻美は光に対しての事に関する記憶が欠乏している。亡くなった事実も何もかも知らない彼女は、自分の母は入院しているだけだと信じていた。 光と聖が楽しそうに話している姿を隠れながら見つめていた少女は、自分の誕生日の為に二人がサプライズをしようとしていた事実を知った。晴明は仕事で忙しく時間が取れない、そんな時叔父の聖が晴明の代わりに光とプレゼントを選びに行く事になった。 二人に気づかれないように友達の家に行くと嘘をついて、二人が出てくるのを確認すると、まるで探偵になったかのように尾行を開
抑えきれない感情をぶつけるように麻美の手を力強く引いていく。こんな終夜の姿を始めた見た彼女は、何か怒らせてしまったのだろうかと不安になりながらも、聞く事が出来なかった。今の彼にどんな言葉を伝えても受け止めてくれない。 歩くペースがどんどん上がっていく。ついていくのに必死な彼女の呼吸が少しずつ加速していった。強引な態度に限界を感じてしまった麻美は、彼の手を落ち着かせるように触っていく。指先が触れ合うと、ハッと我に返った彼は、自分が怒りに支配されていた事実を知った。 「……どうしたの? 私、何か悪い事した?」 「いいや」 「じゃあ、どうして怒ってるの?」 何が起こっているのか把握出来ていない終夜は、どんな説明を彼女にすればいいのか分からない。こういう時こそ、冷静さが必要なはずなのに、あの時の光景が瞳に焼き付いて離れてはくれなかった。見たくない現実から逃れるように、自分の怒りを止めるように目をギュッと瞑っていく。 「あの人は君の叔父さんじゃない」 「え」 「君には叔父さんはいない、亡くなっているんだ」 「そうなの?」 この事は晴明から口止めをされていた。嘘で埋め尽くされたシンヤの事を言うのは彼女にとって傷つく事になるだろう。それでも言わなきゃいけない。決して口に出す事はないと思っていた物事を彼女に伝えていく。ポツリポツリと語りだした終夜の瞳からはじんわりと涙の姿が現れた。 全ては光の存在が彼を狂わしてしまったきっかけになった事から始まる。新婚だった光と晴明は小さな会社を起こし、ゆっくりゆっくり自分達の理想を形にしようと夢を現実化しようと頑張っていた。 妊娠が発覚して、これから幸せな日々が待っている二人の姿は過去の幻影そのもの。晴明は光を支えながら、リビングへ向かった。 「晴明さん、私なら大丈夫よ。一人で歩
思った以上に切り上げる事が出来た終夜は、あの話についてお互いの考えをすり合わせる為に、急いだ。そんな終夜の背中を見送る人物は、引き伸ばすタイミングを失い、彼を自由にさせてしまったようだ。定期連絡によればシンヤは麻美と接触する事に成功したと記されている。商談と言って終夜を外に出したはいいが、伸ばせた時間は三時間程度。 「もう少し伸ばせると思ったんだけど、上手く行かないなぁ……」 シンヤに連絡をするかどうかを考えている人物は、重く伸し掛かる感情を払い除けながら、文章を打ち出した。完結に終わらせたいが、そうはいかない。シンヤを怒らさないようにと慎重に送信した。 「仕方ないよな。父さんも無理難題を押し付けてきたんだから」 本音を隠す必要がないこの空間だからこそ、本音を口に出せる。彼は帽子を取り、髪を整え直した。 ピコンーー 音を消すのを忘れていたシンヤのスマホから聞こえてくる。麻美との時間を邪魔された気分になってしまった彼は、心の中で毒を吐きながらも、確認していく。息子の名前が視界入ると、脳裏にヘラヘラ笑っている姿が浮かんでいく。頭をかかえそうになるが、凝視している麻美の視線に気づき、耐えるように微笑んだ。 「大丈夫ですか?」 深く踏み込んでしまう訳にはいかないと考える麻美は、その言葉を選択した。もしかしたら家族がシンヤの帰りを待っているかもしれないと思っていたからだ。微かに残る記憶に彼の手がある。それでも叔父と名乗るシンヤの全てを知っている訳ではない。 会話をするのが楽しくて時間の流れが遅くなっていた。体感と実際の時間は全然違う、これ以上引き止める訳にはいかないと、配慮するように言葉を作っていった。 「叔父さんと話すのが楽しくて時間を忘れていました。もう時間が時間なので今日はこの辺にしときましょう」 麻美の考えた言葉は彼の心にズキリと