篠崎遥斗(しのざき はると)と愛し合って七年。結婚を目前に控えていたのに、彼は別の女性を娶った。理由はただ一つ、彼女が服役中の恩師の娘だったからだ。遥斗への愛を理由に、私は譲歩を重ね、あっという間に三年が過ぎていた。そして今、私はもう待つのをやめようと、ようやく決めた。……篠崎遥斗と藤堂美桜(とうどう みお)の世紀の結婚式は、贅を尽くした盛大なもので、全国を騒がせた。けれど、誰も知らない。この結婚式の本当の主役が、私・朝霧陽菜(あさぎり ひな)だったなんて。あの時、遥斗は私のそばに片膝をつき、声を震わせながら言った。「陽菜、美桜が見つかったんだ。ただ、藤堂教授が逮捕されてから、彼女の精神状態がひどく不安定で……俺が彼女を守り抜いて、先生への恩を返さなければならないんだ。だから……美桜を、俺の花嫁にさせてほしい」三年経った今でも、あの時の遥斗の言葉を思い出すと、まるで胸に無数の針を刺されるような、鋭い痛みが走る。そんなことを思い出していると、目の前に、遥斗をそのまま小さくしたような男の子がひょっこり現れた。「家政婦のくせに、僕に指図するな!」この子は、私と遥斗の息子、篠崎瑛太(しのざき えいた)。私が何かを言う前に、美桜が足早に駆け寄ってきて、私の息子をその腕に抱きしめ、庇うように私を睨んだ。「朝霧さん、瑛太はまだ三歳なの。何か至らないことがあっても、大目に見てあげてくださいね」彼女のその言い方に、私は思わず眉をひそめた。胸の中に、どす黒いものが広がっていく。ただ息子の栄養バランスを考えて、野菜も食べるようにと二言三言注意しただけなのに、あの子はお椀を床に叩きつけ、跳ねた汁が私の服を汚したのだ。瑛太は美桜の胸にすがりつき、唇を尖らせた。「ママ、瑛太はね、パパとママの結婚記念日のプレゼントに、家族三人のレゴを完成させたかっただけなんだ。それなのに、この家政婦さんがずっと野菜を食べろってうるさいから、レゴがまだできていないじゃないか!」息が詰まる。忘れるところだった。七日後は、遥斗と美桜の三回目の結婚記念日。そしてその日は、かつて私と遥斗が恋人になった、記念すべき日。――私の誕生日でもあった。私たちがその日を結婚式に選んだのは、その特別な一日に、もっとたくさんの意味を重ねたかったから。
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