翌朝、篠原が目覚めた時、彼は隣にいた。 腕は相変わらず篠原の首に絡められたまま、胸に寄り添っている。 その様子は、昨夜の傲慢な彼の態度からは想像も出来ない寂しい印象を受けた。 無防備に眠っている横顔は、ひどく子供っぽい。 そっと腕を外しても、目覚める気配もなかった。 微かに眉を顰めて少し苦しそうな印象を与えてくる寝顔を、しばらく黙って見下ろしてみる。 篠原が起きあがった事で上掛けの中の温度が下がったせいか、ぬくもりを求めるように痩せた背中を丸めて、己の膝を抱えるように身を丸くした。 声を掛けようかと手を伸ばし、肩に触れる直前で止める。 黙ってベッドから降り立つと、篠原は彼の肩をスッポリ納めるように上掛けを直してやった。 そして、昨夜脱ぎ散らかしたスラックスを拾い上げ、部屋の隅にある作りつけの洋ダンスの扉を開けて、中からクリーニングのシートが被ったままのスーツがぶら下がったハンガーを取り出す。 手早くシートをはぎ取って、スーツを外したハンガーに先程のスラックスを吊し、卸した方のスーツを身につけてから篠原は部屋を出ていった。 § 駅に降り立った篠原は、平素と同じく駅の側にあるサンドイッチチェーンに寄った。 セサミのバンズにターキーブレスト。 それにホットコーヒーが、篠原の定番だ。 通りの見える窓際のスツールに座り、忙しなく流れる人混みを眺めながら、篠原は黙々と朝食を食べ始めた。「社長……」 声を掛けられて振り返ると、そこには見慣れた秘書の姿があった。「やあ、珍しいな。キミがこんな場所で朝食とは」 隣にトレーを置いた秘書を見やり、篠原は穏やかな笑みを浮かべる。「……昨日、また奥様から御連絡がありました」 秘書の言葉に、篠原は何一つ変わらぬ様子で食事を続けた。 一瞬だけ篠原の様子を見やった秘書は、その後は何も言わずに自分の食事を始める。「今日も、忙しくなるな」 まるで秘書の声が聞こえていなかったかのように、篠原はポ
Last Updated : 2025-10-29 Read more