Aventure -夜のうたかた-

Aventure -夜のうたかた-

last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-11-02
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差し迫った現実からの逃避。 その日、篠原は街で一人の青年を拾った。 食事と引き換えに一夜の快楽を提供するその青年に、心惹かれる篠原……。 ややビターな、大人の恋の物語。

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บทที่ 1

プロローグ

「なぁ和也、今日は絵里と籍を入れる日だろ?すっぽかして、あいつ怒らねえの?」

「絵里が和也にベタ惚れなのは周知の事実じゃんか。和也が寧々のために行かなかったって知っても、怒る度胸なんてあるわけねえって」

「そうよ。絵里なんかが寧々に勝てるわけない。和也は昔っから寧々を溺愛してるんだから……」

……

彼らが口にする「寧々」という少女は藤原寧々(ふじはら ねね)、藤原和也(ふじはら かずや)の義妹だ。

ホテルの個室のドア前に立ち尽くす水原絵里(みずはら えり)は、全身の血液が凍りつくような感覚に襲われていた。

これが、長年愛し続けた男の正体だというのか。あまりにも浅ましい。

彼女は拳を固く握りしめる。爪が掌に深く食い込むが、胸を焼く絶望に比べれば、そんな生理的な痛みは万分の一にも満たなかった。

深く息を吸い込むと、扉を押し開けた。

バンッ!

喧騒に包まれていた個室が、瞬時に静まり返る。

「絵里……」誰かが息を呑んだ。

扉の前に立つその美貌に、誰もが目を奪われた。透き通るような白い肌、引き締まった腰のラインを強調するピンクのワンピース。ハーフアップにまとめた髪が、優美さを際立たせている。

だがその瞳は、氷のように冷徹だった。彼女の視線が、和也と寧々を射抜く。

「和也。これが、役所に行けない理由?」

和也の端正な顔に、一瞬だけ気まずさが走る。だがすぐに絵里のそばへ歩み寄った。

「入籍なんていつでもできるだろ。寧々が久しぶりに海外から帰ってきたんだ。兄として、歓迎会を開くのは当然のことだろう?」

絵里は冷ややかに笑う。

「一年に一度の交際記念日も、あなたにとっては『どうでもいい』ことなの?

今回を逃せば、来年まで待たなきゃいけないって分かってるくせに」

それは二人の約束だった。

交際記念日を結婚記念日にする。一石二鳥で、特別な意味を持たせるはずだったのだ。

だが明らかに、和也には結婚する気などない。

彼が真に娶りたいのは寧々なのだ。

彼の、幼馴染であり義妹である寧々を。

何かを感じ取ったのか、和也が絵里の腕を掴もうとする。

「騒ぐな。帰ってから説明するから」

絵里はその手を乱暴に振り払った。

その時、寧々が口を開いた。

「絵里、ごめんなさい。私が悪いの。今日が入籍日だなんて知らなくて……」

うつむいて謝るその姿は、いかにも被害者といった風情だ。

絵里は常日頃から彼女を嫌悪していたため、無視を決め込む。すると寧々は顔を上げ、涙を浮かべた瞳で訴えかけてきた。

「許して。私、絵里と兄さんの幸せを心から祝福してるのに……」

祝福?絵里は鼻で笑った。

「猫かぶるのはやめてくれない?本気で祝福してるなら、わざわざ戻って来たりしないでしょ」

和也の表情が曇る。

「そんな意地悪な言い方はやめろ」

「何よ、大事な大事な妹を言われて不機嫌?」

絵里の目は、他人を見るように冷え切っていた。

和也は顔をしかめ、低い声で叱責する。

「絵里、場所をわきまえろ。滅多なことを言うもんじゃない!」

見ろよ。どれほど妹を庇うのか。

彼がそこまで肩を持つのなら、望み通りにしてやろうね。

「やったことは事実でしょう?何を怖がってるの?」

寧々の目元が赤くなり、傷ついた表情を作る。

「私と兄さんはそんな関係じゃないわ。どうして昔みたいに誤解ばかりするの?

二人の喧嘩の原因になるって分かってたら、私、帰って来なかった……」

寧々の涙声は、聞く者の庇護欲をそそるものだった。彼女が虐げられていると見た取り巻きたちが、一斉に絵里を非難し始める。

「絵里、それは言い過ぎだよ。和也と寧々は兄妹だぜ?そんなことにまで嫉妬するのか?」

「そうだよ。この三年間、あなたが寧々を受け入れないから、彼女は身を引いて出国したんだろ?また同じことを繰り返す気か?」

「調子に乗ってると、和也に捨てられるぞ!」

……

絵里は彼らの義憤に満ちた顔を、冷徹な目で見つめ返した。

かつては和也のために、こうした友人たちにも我慢を重ねてきた。どんな冗談を言われようと、陰で笑われようと、聞こえないふりをしてきたのだ。

だが、もう終わりだ。

絵里の言葉は鋭利な刃物のように響いた。

「妹が兄に毎日べったり張り付いてるのが、正当だとでも?

あんたたちの頭はどうかしちゃったの?それとも、そういう禁断の愛がお好み?

私が身を引いてあげるから、存分に見せつけてもらえばいいわ」

一同は呆気にとられた。

和也の前では従順だった絵里が、これほど辛辣になろうとは予想もしていなかったのだ。あまりにも言葉が過ぎる。

「絵里、どうしてそんなに私を侮辱するの?」

寧々は今にも泣き出しそうな顔で、あざといほどに哀れっぽく言った。

「私のことが嫌いなのは仕方ないけど、兄さんはあんなに絵里が好きなのに。こんなに尽くしてるのに、まだ不満なの?」

絵里は眉をひそめた。

他人は知らないだろうが、彼女は寧々の本性を熟知している。

和也と知り合って十年、交際して五年。

一年目の絵里の誕生日に、寧々は「事故に遭った」と嘘をついて和也を呼び出した。

二年目のバレンタインには「失恋した」と言い出し、自殺をほのめかして和也に泣きついた。

三年目、四年目……

寧々は無限に理由を作り出し、そのたびに和也は絵里を見捨てて駆けつけた。

そして三年前、寧々が突然出国を申し出た時も、周囲は「絵里が追い出した」と決めつけたのだ。

絵里の冷ややかな視線が、寧々をじっと捉える。

「まともな兄妹関係なら、入籍なんていう一大事を蔑ろにしたりしないわ。

どっちもどっちのクズとあばずれが、被害者ぶって私に寛容さを強要するなんて、笑わせないで。どの面下げて言ってるの?

恥を知りなさいよ」

寧々は顔を真っ赤にし、言い返すこともできずに涙をポロポロとこぼすだけだ。

和也は堪忍袋の緒が切れ、顔を紅潮させて怒鳴った。

「いい加減にしろ!自分が惨めだと思わないのか!

たかが入籍だろ。記念日が無理なら、お前の誕生日に変えればいいだけじゃないか。どうしてそれくらい大目に見られないんだ!」

大目に?

ええ、もちろん。

絵里の心は、凪のように静まり返っていた。

「和也。別れましょう」

室内がどよめく。

和也は数秒呆然とした後、苦々しい顔になった。

「また別れるとか言うのか?三年前もそうやって騒いで、寧々に気を遣わせて追い出したくせに。まだ飽き足らずに彼女を追い詰める気か?

お前はどうしてそんなに性格が悪いんだ。籍を入れてやるって言ってるのに、まだ寧々が許せないのか?これ以上悪辣な真似をするなら、俺だって考えがあるぞ!」

和也に庇われ、うつむいた寧々の口元が微かに歪み、勝ち誇った笑みを浮かべるのを、絵里は見逃さなかった。

それを目にした絵里は、まるで大輪の薔薇が咲いたような、艶やかな笑みを返した。

「ええ、いいわよ。入籍はやめましょう。結婚もなし」

言い捨てて、絵里は踵を返す。

背後から和也の怒号が飛んだ。

「今ここから出て行ってみろ。寧々にちゃんと謝らないなら、絶対に許さないからな!」

周囲は皆、絵里が折れて謝罪すると高を括っていた。

あれほど和也に惚れ込んでいたのだから。

だが、予想は裏切られた。絵里は足を止め、振り返って彼らを一瞥すると、宣言した。

「ちょうどいいわ、証人になって。私、水原絵里はここに誓います。今日限りで藤原和也とは他人。復縁なんて天地がひっくり返ってもありえない。

もし私がこの誓いを破ったら、その時は藤原和也が、一生女に縁がないまま、野垂れ死ねばいいわ!」

「……っ!」

捨て台詞を残し、絵里は呆気にとられる人々を尻目に、毅然と個室を後にした。

どうやってタクシーを拾ったのかも覚えていない。ホテルを離れた車内で、絵里はひたすら和也に関する連絡先を削除し続けた。

突然の着信音が、彼女の意識を現実へと引き戻す。

ディスプレイに表示された、見知らぬ、けれどどこか懐かしい番号を見て、心臓が止まりそうになった。

通話ボタンを押すと、鼓膜をくすぐるような、甘く低い声が響いてきた。

「結婚したいなら、俺を検討してみないか?」

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プロローグ
 仕事が引けた後、駅前のカフェに立ち寄ってエスプレッソマキアートを飲む。 それが、最近の篠原の日課だった。 日課……といっても、管理職でる篠原が、毎日立ち寄ることはできない。 帰宅時、店が開いていたら必ず立ち寄る──それだけだ。 テラス席に腰を降ろし、道行く人々を眺めながら時を過ごす。 カップの中のコーヒーを飲み干すまでの短い時間。 なに煩わされることもなく。 なにも考えることもなく。 ただ、ぼんやりと過ごす──贅沢な時間。 珍しく定刻に仕事が引けた今日は、エスプレッソをすっかり飲み干した後も、篠原はそこにとどまって街を眺めていた。 その目線が、ふと一点で止められる。 そこには、一人の青年が人待ち顔で立っている──だけなのだが。 なぜかひどく、その人物が気になった。 おもむろに手元の時計に目をやって、篠原はかすかに眉を顰めた。 意識していた訳ではないが、でも確かに──彼は篠原がこの席に落ち着いた時から、既にそこにいた。 もう30分以上も、彼はあの場所に立っている。 陽は暮れてしまったものの、それほど遅いという時間でもない。 約束の相手が遅れているのだろうか? それにしても、一体どういう相手との待ち合わせなのだろう? ガールフレンドとの待ち合わせだとしたら、彼の服装は、あまりにも相手に対する気遣いに欠けている──と思わざるを得ない。 洒落っ気……どころか、彼の身なりは "着のみ着のまま" に思える。 言葉を選ばなければ、みすぼらしいと言えた。 態度と裏腹に、待ち人など存在していないような──そんな印象だ。 しかし、確かに彼は誰かを待っている。 駅に向けられた、彼の顔。 そこには、煌めいた表情があった。 どこかから聞こえる流行歌に合わせて、リズムを取っている爪先。 これから訪れる楽しい時間を思って浮かべられている、微笑み。 そのすべてが、とても待ちぼうけを食わされている人間には見えない。 不意に……それはまるで通りがかりに突然声をかけたような感じで、その男は彼の前に現れた。 スーツにネクタイ姿の男は、どうみても彼とは別次元の身なりをしていたが──。 どうやらそれが本当に彼の待ち人だったらしく、二人は連れだって歩き出す。 そうして彼の姿が人混みに消えた時、篠原は自分がずっと彼の様子を見つめていた事に気付いた
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 夕刻。 篠原は日課通りに一時の憩いを過ごし、自宅マンションへ向かう為に駅前の繁華街から住宅街へと向かう道を歩いていた。  表通りを避け、人通りの少ない近道の裏通りへと踏み込んだところで、思わず足を止める。 派手やかな看板とは対照的な、少し薄暗い入り口。  中に入る人間の顔を隠すかのように垂れ下がる、裾の長いカーテン。 そこはいつも、他人とすれ違う事があっても知らぬ顔をして通り過ぎる場所だった。  だが今日は、そこから出てきた二人連れを見て、篠原は思わず足を止め、そして咄嗟に暗い小道に身を隠してしまった。 一人は見も知らぬ背広姿の男だったが、もう一人は紛れもなく先日の彼だった。 一緒に出てきた彼らは、言葉を交わす事もなく、まるで見知らぬ他人同士のような様子で左右に分かれて歩き出す。  その様子を見てなお、篠原はそこから動けずにいた。  彼らが共にそこで時を過ごしたという、証拠も保証もない。  ちょっとしたニアミスで、全く関係のない人物が同時にそこから出てきただけなのかもしれない。 第一、それは篠原には何の関係もない赤の他人の所行に過ぎない筈なのに。  そこで彼が男と出てきた事も、そしてそれが先日の連れでなかった事も、なぜか篠原はひどくショッキングなものを見てしまったような気になってしまった。  気を取り直して小道から歩き出した時には、どちらの姿も通りのどこにも見いだせなくなっていた。
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 駅を出て、いつもと同じようにカフェに向かいかけた篠原は、店の手前で足を止めた。  そこに、先日と同じ身なりで同じように佇んでいる彼の姿を見つけたからだ。  そのまま喫茶に向かい掛けた篠原だったが、気付けば人波に合わせて、店舗とは逆の方へと踏み出している。「誰を待っているんだい?」 どう話しかけたらいいか? 等と、考える隙もなくその言葉は口から出ていた。  やや驚いた様子で振り返る彼の様子に、篠原は酷い後悔を覚えたが。  篠原の姿を爪先から順に眺め上げた彼は、目があったところでいたずらっぽくニッと笑った。「アンタを待ってたんだよ」 値踏みするように篠原を見た時の鋭い表情からは、想像も出来ない無邪気な笑み。  それに加えて発せられた言葉の内容に、篠原は一瞬返答に戸惑ってしまった。  壁により掛かっていた体勢からひょいっと身を起こし、篠原の隣に立って彼はもう一度、瞳に妖艶な笑みを浮かべた。「俺、腹ぺこなんだ」 ねだるような目線と、猫科の獣を思わせるしなやかな仕草。  篠原はようやく、彼がそこで何をしていたのかを理解した。  待っていたという言葉は、彼の常套句の一つに過ぎないのだろう。  だが、不思議と嫌悪感はなく、篠原は自然に彼をエスコートして歩き出していた。「……なにか、リクエストはあるのかな?」 「う~ん、特にはねェケド……旨いモノがいい」 ストレートな返事に思わず苦笑した篠原だったが、改めて彼に目線を向けて少し考えた。「……ピザは好きかい?」 「ああ、割と。でもイタメシ屋なんて、俺を連れて入るの大変だぜ?」 先ほどと同じいたずらっぽい笑みを浮かべ、己の着衣をちょっと引っ張ってみせる。「判っているよ。ウチに来れば、宅配を頼んでやれる。そうすれば、焼きたてにありつけるぞ?」 「それいいなー。俺、そーいうピザ食うの久しぶり」 連れだって歩き出し、篠原は自分のマンションに青年を連れて帰った。
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§
 篠原がウィークリーマンションに入っていくのを見て、青年は少し驚いたような顔をしてみせる。「なんだい、アンタ。単身赴任かなんか?」「まぁ、そんなようなモノだ」 エレベーターに乗り、辿り着いた部屋の錠を外すと、都心を一望できるワンルームの部屋が二人を出迎える。「俺、てっきりアンタってハイソなんだと思ってたけど……。まさかウィークリーマンション住まいだとは思わなかったぜ」「通勤が楽でね。それよりも先にシャワーでも浴びてきたらどうだ? どうせまだ、食うモノにはありつけないんだしな」 笑う篠原に、ふうんと彼は頷いた。「まぁ、いいや。ココの眺めは、悪くない」 窓の外を眺めてから、彼はそれ以上は何も言わずにバスルームに向かった。 デリバリーが届く頃に、彼はバスルームから戻ってきた。「なぁ、俺の服どこ?」 腰にタオルを巻いたままの姿で現れた彼に、篠原は苦笑する。「そこにバスローブを用意してやっただろう? きちんと着てこないと、ピザはお預けだぞ?」「なんだよそれ。あ、先に食うなよ?!」 バタバタと足音を立てて、彼は着衣を取りにバスルームに戻っていく。 篠原は窓際に折り畳み式のテーブルをセッティングした。「なに、そこで食うの?」「眺めが気に入ったんだろう?」 部屋に一客だけあるパイプ椅子をテーブルの側に置き、篠原自身はフローリングに直に腰を降ろす。 椅子とテーブルが同じ高さである事など、彼には何の障害にもならないだろうという予測通りだった。 彼は上機嫌で椅子に腰を降ろすと、篠原がテーブルに用意したピザに早速パクついている。「スッゲ旨い! アンタ最高!」 一緒に届けられた缶入りのウーロン茶も、着々と彼の腹に収まっていく様を眺め、篠原は目を眇めた。「いつも、あそこで?」「別にいつもってワケじゃないぜ。あの場所は2度目かな? ここいらに来たのは1週間くらい前だけどさ。あんまり同じ場所には長居しない。ポリが来ると煩いし、同じ場所ばっかじゃ都合悪いモン」「同じ場所にいれば、同じヤツが買ってくれるんじゃないのか?」 篠原の問いに、青年はちょっとだけ眉を顰めた。「同じヤツと何度も付き合うのは、好きじゃない。カレシ面されて勝手を言われるのは鬱陶しいし、執着されんのは面倒だし。飯の度に付き合ってたら、身が持たねぇし」 その答えに、篠原は少し驚い
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「なぁ……」 しばらく黙ってテレビを眺めていると、乾き始めていた髪が指先からさらさらと零れ落ちた。 目を向ければ、満足げに食事を平らげた彼がこちらを見ている。「どうした?」「食った」「だから?」 篠原のそっけない返事に、不満そうな顔でリクは身体の向きを変える。「しねぇの?」 ストレートな問いに、篠原は微かに笑って肩にかけていた手で彼の身体を引き寄せた。「食欲の次は性欲か。わかりやすいな」「なんだよ、代金だろ? しなくていいなら、俺はその方がいいんだ」 また子供のように唇を尖らせる彼に、篠原は思わず笑ってしまう。「いいや、代金はちゃんといただくよ」 口元に残っていたトマトソースを舌先で舐めとると、篠原はベッドに彼を促す。「フローリングじゃ、痛いだろう?」「そりゃあ、柔らかい場所の方がいいに決まってる」 促されるままベッドに上がったリクは、足を投げ出すように腰を下ろし、後ろ手で体を支える。 篠原はテレビを消して、立ち上がった。 端正な顔に唇を寄せ、彼の体を押し倒す。 バスローブの腰ひもを解くと、下着を何も付けていない彼の裸体が露わになった。 瑞々しい肌に、指を滑らせる。 首筋に跡の残るような口づけを与え、彼の茂みに指先が掛かった──その時。「電気……消さねぇの?」 彼が、唐突に言った。「なんだ、恥ずかしいのか?」 手を止めようとはせずに、茶化すような声で篠原は答えを返す。「別にそーゆーのは無いけど……。でも、この部屋が殺風景であんま気分が乗らないから」「こだわり派なんだな」 笑う篠原に、彼は微かに眉を顰めた。「そんなんじゃねェよ。……ただ、なんちゅーか……アンタこの部屋に似合わな過ぎんだよ」「どういう意味だ?」「この部屋でスルんなら、もっとこう俺と同世代のさぁ……」「年輩はイヤか?」「そーじゃなくて!」 青年は、篠原の胸に手を当てて身を引き離す。 そして、ベッドから立ち上がると、室内灯のスイッチを乱暴な仕草で切ってから、戻ってきた。
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§
「ハッキリ言うけど、俺はコレでも、全然タイプじゃなかったら食い逃げしちゃう事にしてんだぜ?」 ベッドの上の篠原を見下ろしながら、彼は腰に手を当てている。「私はお眼鏡にかなったのか?」「そんな話じゃなくてさぁ……。俺、上手く言えないんだけど、アンタはその……もっとなんつーか豪華な家に住んでて広い寝室にでっかいベッドがあってさぁ、あっちの方もスゲ上手くて……」 改めて室内を見回すように、彼は身体を捻って殺風景なワンルームに振り返った。「それは残念だったな。ガッカリさせてばかりで申し訳ないが、私は同性との行為はコレが初めてだ」「うっそっ?」 窓から差し込む都会の明かりだけが頼りの室内でさえ解る程、彼は大仰な身振りで篠原に振り返る。「なにもかも期待を裏切って悪いな……。なんなら、今から『食い逃げ』するかい?」「……別にいーよ。だって、今日はしてもイイって最初に決めたし。俺、後になって最初の予定を変えるのって後味悪いから嫌いなんだよな」 スッと身体を動かす気配がして、篠原の唇に青年のそれが押しつけられる。「それに、暗くして部屋ン中が見えなくなっちゃえば、結構イイ感じじゃん。夜景が綺麗だから、ホテルのスイートみたいな気になるし」「……名前を……まだ聞いてなかったな?」 ゆっくりと舌を絡ませ合いながら、篠原は彼の身体を再び抱き寄せた。「う……ん……、リクって呼んでくれりゃいいよ……」 暗闇の中、白く浮き上がって見える裸体を両手で愛撫すると、腕の中でリクの身体が震えるのが解る。 胸元を撫で上げると、それは一際大きく篠原の腕の中で跳ねた。「ココが……好きなのかな?」 ツンと尖った先端を指でつまみ上げると、微かにヒュッと息を吸い込むような音が聞こえる。 そのまま指先で押しつぶすようにこね回し、篠原は先程触れ損ねた茂みの中にもう一方の手を延ばした。「……んん……っ!」 頭を左右に振る度に、髪が乾いた音をたてる。「ア……ンタ……、相当遊んでンだろ……」「さぁ、どうかな?」 クスクス笑って、篠原は堅く張りつめ始めたリクの分身を握り込んだ。 透明な雫に濡れた先端を、指先で強く擦り上げる。「……はぐらかしやがって……男と初めてっての、ホントはウソだろ」 篠原の肩に額をこすりつけるようにしながら、リクは篠原の手を受け入れるように足を開き、膝で
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§
「ずいぶん感じやすいんだな……」 リクの吐息はすでに切羽詰まっていた。  篠原は意地の悪い笑みを浮かべ、手の中の熱をさらに強く扱く。「……や……っ! ダメ……だって……っ!」 先端に親指をあてがい、爪を立てて強く刺激した。  たちまち、リクは身体を仰け反らせてあっけなく熱を解放してしまう。  左手で腰を支えてやりながら、篠原は暗がりの中に浮かび上がったシルエットのなまめかしさに少し驚いていた。 リクに告白した言葉に偽りはなく、篠原は同性とこうした行為に及んだのは今夜が初めてだった。  同性に、欲情する事など考えた事もなかったのに。  目の前にいる青年は、胸にふくらみもなければ抱いている腰も骨張ってゴツゴツとした硬い感触を伝えてくる。  それなのに、エクスタシーに震えている彼の身体からは、たち上るような色香を感じ取れた。「……な……んだよ……。こんなに煽られちゃ、後が続かねェって……」 暗闇に馴れてきた目には、膝立ちのままで篠原を見下ろしてきたリクの顔がぼんやりと見て取れた。「ささやかなハンデだよ」 「なんだよ、それェ?」 不満そうに唇を尖らせるリクに、篠原は意識して穏やかな笑みを向ける。「オジサンは体力が少ないから」 「……ホンキかよ?」 疑わしい顔で眉を顰めたリクだったが、ふとその表情をいたずらっぽい物に変えて、篠原の肩に当てていた両手に力を込めた。「仕返し……してやる」 黙って好きにさせていると、リクは篠原の身体をベッドの上に仰臥させて、おもむろに篠原のスラックスに手をかける。「そんなに乱暴にされたら、シワになっちまうだろ?」 本当を言えばその程度の事は、大して気にもなっていなかった。  それどころか、もしそれを本当に気にしていたとしたら、己の膝をまたがらせた格好のままリクを煽ったりなどしなかっただろう。  けれど、敢えて篠原はそのことを指摘した。「えっ?」 スラックスを膝まで引き下ろしたままのしかかろうとしていたリクは、篠原の言葉にビックリして思わず動きを止める。  ほんの少し考えれば、自分が放った熱で既に篠原の着衣を汚してしまっている事に気づけただろう。  しかし、篠原はその隙を与えなかった。  些末な事を敢えて口にしたのは、リクの気を一瞬だけ逸らせたかったから。  そして、功を奏してリクが動きを
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§
「うわっ」 バランスを崩したリクは、そのまま篠原の膝の上に俯せにされてしまった。「仕返しなんて……、悪い子だな」 「なんだよぅ! ガキ扱いすんなっ!」 振り返って抗議するリクを無視して、篠原はバタつかせている両足の間から手を入れると、無防備なリク自身をやんわりと握り込んだ。「あ……ぁ!」 へなへなと崩れ落ちた身体を受け止め、まるでペットを愛玩するように背中を撫でる。「ガキ扱いなんかしていないさ」 先程と同じように先端部から幹に掛けてを指先で念入りに愛撫し、煽られて屹立し始めたところで手を離して、そのまま双丘の奥にある蕾に指先をあてがった。「アンタ、やっぱり絶対遊び人だ!」 悔しそうに叫ぶリクを微かな笑みで見下ろしながら、ゆっくりと指先を体内に沈みこませる。  途端に、色気のないクレームを発していた筈の唇から、驚く程甘く濡れた吐息が零れ落ちた。  空いている手で髪に触れると、それは指先をすり抜けてサラサラと落ちていった。  中指を根本まで埋める頃には、リクは膝を立てて指先から与えられる快楽を求めるように尻をつきだしている。「キミの方こそ、よっぽど遊んでいるみたいじゃないか?」 「……う……るせェな……俺のは……遊びじゃねェよ……!」 返された答えに、篠原は思わず笑ってしまう。  確かに、その通りだ。  少しずつ身体を起こしたリクは、身体を中指に犯されるに任せたまま、篠原の足の付け根に唇を寄せた。「ずいぶん、サービスがいいな」 「……仕返しだっつってんだろ」 煽られる熱に喘ぎながらも、リクは篠原を口に含むと舌と唇を駆使して奉仕し始める。  なまめかしい媚態を散々見せつけられた後では、ちょっとした刺激で強く煽られてしまう。  そうして篠原が堅く屹立し始めると、リクはさも勝ち誇ったように顔を上げた。「なんだよ……結構、イケるクチなんぢゃん」 「そうじゃなかったら、キミを誘ったりはしないだろう?」 揶揄するように口元に笑みを浮
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§
「アンタって、ホントよく判ンねェ……。遊んでる風だけどさ、あんま楽しんでるように見えねェし……。俺ばっかり楽しませて貰ってるみたいだ」 不意にそんな事を言われ、篠原は一瞬ポカンとリクを見上げてしまった。「キミが思っているよりは、ずっと楽しませて貰っているよ……」 思わず繕う事も出来ずに浮かべてしまった、苦笑。  そんな篠原の顔を、今度はリクが少し驚いたような顔でしばし凝視する。「なんだい?」 「アンタでも、そんな顔するんだな。……もっとスカした、キザなヤツかと思ってたのに」 「せめて、大人と呼んでくれないかな?」 先程とは違う理由で再び苦い笑いを浮かべた篠原に、リクは今度笑みを返してきた。「……俺、アンタのコト、結構スキかも」 そう言って、不意にリクは甘えるように篠原の首に両腕を回し、飛び乗りかねない勢いで抱きついてきた。「おいおい……」 「じゃあ、今度こそ俺の番! アンタのコト、本気で楽しませてやる」 篠原の身体を押し倒し、リクは篠原のそれに手を添えると、己の体内にゆっくりと迎え入れ始める。「……っ……!」 リクが篠原を根本まで飲み込むのを待って、篠原はそっと上半身を起こした。  なにか言いたげに開き掛けた口をくちづけでふさぎ、篠原はリクの身体を抱き寄せる。「人任せって言うのは、どうも性に合わないんだ」 そのままリクの抗議は聞かずに、篠原はリクの身体を組み敷いた。  強引な動きに、絡められていた腕が解けてシーツの上に投げ出される。「それにキミには、本当に楽しませて貰っているよ」 クスクスと笑って、篠原はリクの耳元に唇を寄せて薄い耳たぶにやんわりと噛みついた。「……んんっ!」 組み敷かれたリクの身体が、ヒクリと震える。  篠原を飲み込んだ場所が、同時に篠原を締め付けた。  腰をスッポリと抱きしめて、篠原はゆっくりと動き始める。「あ……あぁ……」 その場所を抉られる事で
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§
 今にも消え入りそうな声で囁かれた願いは、今までの彼の様子からは想像も出来ないものだったが。  腕に込められている力と、篠原の肩口に顔を埋めている様子が、まるで表情を見られまいとするかのように見えて、なぜかひどく気持ちを焦らせた。  本当に篠原を楽しませると公言したリクの、もしこれが彼の常套手段だとしたら、自分はすっかり手の内に乗せられてしまう事になるのだろうが。 もしそうだったとしても、それがなんだというのだろう? 自分はただ、一時の好奇心で彼に声を掛け、それが思わぬ展開でこうした行為に及んでいるに過ぎない今、彼との行為を格別に楽しむ事になんの抵抗があるというのか。  緩めていた動きを戻し、篠原は大きく腰をグラインドさせてリクの身体の最奥に己をねじ込ませた。「んっ! スゲ……っ!」 揺すられるに任せて揺れていた足が、篠原を更に欲しがるように強く腰に巻き付けられて、リクは甘えるように身体を密着させてくる。「……リク……」 乞われるままに、篠原は耳元に低く囁いた。「あ……っ!」 その瞬間、篠原は己の発した言葉が魔法の力でも持っていたのかと錯覚しそうになった。  耳元に名前を囁いた。  たったそれだけの事で。  どれほど快楽を与える行為に及んでも、それを楽しみながらもどこかで絶対に平静さを失わなかった彼が、しなやかな身体を小刻みに震わせ始めた。  篠原を包んでいた部分が、絡みつくように締め上げてくる。  首に回された腕にこもった力は、ただ抱きついてくると言うよりは縋り付くような印象さえ合って、リクが全身で篠原にしがみついてきているにも関わらず、なぜだかしっかりと抱きしめてやらなければどこかに消え失せてしまいそうな気がした。  動きを早め、篠原は魔法の言葉を何度も薄い耳たぶに囁きかける。  言葉を一つ投げかける度に、彼の冷静さが一つ失われていく……。  溺れかけている人のように足掻き伸ばされる手を取って、篠原は痩せた身体を強く抱きしめた。「あ……あぁ……」 言葉にならない声を発して、彼は安堵するかのよ
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