慎也は最後に私と子供のことを深く見つめて、「お前たちの……幸せを祈ってるよ」と言った。そう言うと慎也は背を向け、寂しそうな後ろ姿が廊下の奥へと消えていった。私はファイルを開けて、中の契約書に目を通した。確かに、私にとっては満足すぎるほどの条件だった。ほとんど、タダ同然と言ってもいいくらいだ。慎也が消えていった方を見つめながら、私は少しぼーっとしていた。いつのまにか戻ってきた直樹が、後ろからそっと私を抱きしめ、頭に顎をのせてきた。「もう終わった?」直樹は小さな声で訊いてきた。「うん」私は彼の胸に寄りかかり、その安心するぬくもりを感じた。慎也に聞かれたことを思い出し、私は彼を見上げてたずねた。「どうしてあの時、結婚相談所に登録したの?私たちが出会ったのは、本当に偶然だったの?」直樹は一瞬かたまって、私を抱きしめる腕にすこし力が入った。「お前たちは俺を密かに観察し、調べているのだろうが……」直樹の声は優しくて甘い。「父には外に隠し子がいて。だから俺も、あの隠し子のことを同じように気に掛けている。でも、いつからか……お前のことだけを見ていたんだ」……俺は直樹だ。俺が詩織を気にするようになったのは、誰もが知るより、ずっと前のことだ。もちろん、最初は慎也がきっかけだった。彼は父が外で作った、隠し子だ。責任感というか、警戒心からかな。俺は彼の動きを把握するのが習慣になっていたんだ。そうしているうちに、慎也のそばにいた詩織という女の子が目に入るようになった。最初に見かけた時、彼女は正義感からか、両手を広げ、まるで雛を守る親鳥のように、顔を腫らした慎也を庇っていた。相手は彼女よりずっと体格の良い男の子たちなのに、少しも怖がっていなかった。当時の俺もまだ若かったけど、損得勘定くらいはもう分かっていた。あれは何も考えずに突っ走った結果だと思っていた。でも、二人の仲が深まっていくのを見るうちに、あの女の子が本当に純粋な子なんだって分かった。彼女の好きも嫌いも、全部が本物なんだ。一度「この人だ」と思ったら、どんなことがあってもその人を守り通す。俺は二人が大きくなるのを見てきた。詩織が飲み会で慎也の酒を代わりに飲むところも、徹夜でいくつも企画書を直すところも、契約のためホテル前で一晩中張りこむと
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