Todos los capítulos de 藤堂社長、この子はあなたの子ではありません!: Capítulo 1 - Capítulo 10

12 Capítulos

第1話

ある日、会社のトイレで妊娠検査薬を使ってたら、藤堂慎也(とうどう しんや)の秘書に見つかってしまった。その日の夜、慎也が家に押しかけてきた。「何か月だ?」私は、おどおどしながら答えた。「2、2か月……くらいかな……」慎也は歯を食いしばり、吐き捨てるように言った。「堕ろせ!」それを聞いて私は驚いた。「え?」「分かってるだろ。俺は隠し子が大嫌いなんだ!お前と結婚なんてするわけない。だから堕ろせ!」と慎也は更に冷たく言い放った。「はぁ?」あなたの子でもないのに、どうして私が堕ろさないといけないわけ?「堕ろせ!」慎也の冷たい声が、また響いた。「これだけは譲れないんだ、それ以上言わせるなよ」彼はまるで最後の通告でもするかのように言い放った。私は頭が真っ白になった。慎也と知り合って20年、付き合って10年になる。彼は性欲強い方ではあるが、子供に関してはいつも慎重だった。その証拠に彼のコンドームのストックは、私のナプキンよりも多いくらいだ。だから、私たちは一度だって無防備でしたことはなかった。そんな私が、どうやって彼の子を妊娠するんだろう?だが彼は有無を言わさない様子で歯を食いしばりながら、私を追い詰めた。「詩織、今回だけは見逃してやる。その子を堕ろせば、何もなかったことにしてやる。でも、もし従わないなら……俺をハメたヤツがどうなるか、知ってるよな!」この様子だと、彼はどうやら、私がコンドームに何か細工をしたと思っているようだ。私はそんな彼を見て、ふっと鼻で笑ってしまった。「慎也、もしかしたらこの子、あなたの子じゃないかもって思わなかったわけ?」私はここ数日、時々吐き気がして、えずいてしまうことがあった。そこで今日、どうしても我慢できなくて、こっそり妊娠検査薬を買って、会社のトイレで試してみたんだ。結果は、くっきり二本線だった。あまりにも衝撃的で、私は妊娠検査薬を握りしめたままぼーっとしてしまった。そして会社を出てから捨てようと思っていた。なのに、運悪く慎也の新しいお気に入りの秘書、松浦莉奈(まつうら りな)にばったり会ってしまったのだ。彼女は、私が持ってる妊娠検査薬を一目で見つけると、瞳をきらりと光らせた。そんな彼女を見て、私はなんとなくまた面倒なことになりそ
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第2話

私たちはそれで、大喧嘩をした。でも、すぐに仲直り。それからは、くっついたり、はなれたりのくりかえし。いつからか、慎也のまわりにはいろんな女の子の影がちらつくようになった。とくに、彼の秘書。私たちが喧嘩するたび、慎也は秘書にいやしてもらってたみたい。そしてその度彼は、「俺を傷つけたのは、お前だろ?それで俺が誰かに話を聞いてもらいたくなるのも当然じゃないか」と言い訳をするのだ。でも、毎回私たちがよりを戻すと、慎也もあっさり秘書を変えるのだ。実際、今まで彼が何人の秘書を変えてきたか、私も覚えていないくらいだった。そんな毎日をくりかえすうちに、ひとつだけ、ひっそりと変わったことがある。それは――今までの言い訳が「今はお前と結婚できない」から「お前とは結婚できない」に変わったこと。「俺は藤堂家の人間だ。いずれは政略結婚することになるだろう。だから、お前とは結婚できない」このことばをはじめて聞いたのは、二ヶ月まえのこと。このまえ別れた、ちょうどその日だった。慎也は、いつものことだと本気にしてなかった。どうせ、私たちはいつもよりを戻すから。でも、こんどの私は本気だった。だけど、慎也は全く信じていないようだった。「詩織、お前が浮気したってこと?」彼はそのこと自体がありえないと思っていたのか、思わず吹き出して笑ってしまったのだ。それは昔から、私は慎也以外の男性と親しくするなんてなかったからだろう。たとえ、ここ何年か、私たちが別れたりより戻したりを繰り返していたとしても、彼の女性との噂が絶えずにいたとしても、私はいつだって、彼から離れることはなかった。彼がふりむけば、いつだって私とよりを戻せた。木村詩織(きむら しおり)は、いつまでも慎也を待っている。そうやって、彼はそれが当たり前のことかのように信じてやまなかった。私は慎也の目をみて、まじめな顔で言った。「もう別れたんだから、浮気じゃないよ」「ふーん。わざと怒らせようとしてる?やきもちをやかせたいの?それとも、こんなこと言えば俺が折れるとでも思った?」彼はスマホを取りだして、ちょこちょこっと何かを打ちこんだ。「病院の予約をもうおさえてあるから。明日の朝九時、運転手を迎えにむかわせるよ」そう言い捨てると、慎也はくるりと
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第3話

「どうか、私を信じてください!」待ち合わせ場所は街の中心だし、安全なところだ。私は、確かめに行ってみることにした。あらゆる可能性を考えていた。まさか、彼だとは思わなかった。藤堂直樹(とうどう なおき)だ。結婚相談所の人が「彼の身元はすぐ確認できます」と言っていたのも納得だ。直樹は経済ニュースや雑誌の常連だ。誰もなりすましなんてできない。しかも、私と慎也は昔、こっそり藤堂家のことについていろいろと調べあげていたのだから、藤堂家の人たちのことはすべて知り尽くしていたのだ。だから、藤堂家と近藤家の正当な後継者である直樹のことを、私が知らないわけがなかった。彼と慎也は、どことなく似たような顔つきだった。そして、実際に会ってみると、映像で見るよりずっと彫りが深くて、目鼻立ちもはっきりして凛々しい感じがした。正直、こういう顔が私のタイプだってことは認めざるを得ない。じゃなかったら、慎也と何年もくされ縁を続けたりしなかっただろう。でも、直樹が本気で私とお見合いをしに来たなんて、信じられるわけがないのだ。だから、挨拶もそこそこに、私は思わず口にした。「あなたたちみたいな名家の跡取りって、みんな政略結婚をするんじゃないの?」直樹は私のあまりにも率直な質問に、すこし驚いたようだった。でもすぐに彼は片眉をあげて、少し笑みを浮かべて言った。「結婚相手すら自分で決められないんじゃ、名家の跡取りなんて言えないよ」直樹の答えに、私はもっと驚いた。それじゃ、彼は政略結婚をする必要がないってこと?慎也のことを思うと、なんだか皮肉な気持ちになった。とはいえ、直樹が私の結婚相手としてふさわしいってわけじゃない。いろんなニュース記事を見るかぎり、彼の性格は慎也よりもっと強引なはずだ。慎也ひとりだけでも、私は心身ともに疲れ果ててしまうのに。彼以上に強引な相手となると、手に負えるとはとても思えないのだ。そう思っていると、ウェイターが高級そうな赤ワインを持ってきた。断ろうとした、その時。私のスマホが立て続けに震えだした。画面が明るくなって、慎也からのメッセージだとわかった。【気が済んだら、会社に戻ってこい】【もういい年なんだから、俺に宥めさせようなんてわがままをいうなよ】私は呆然とスマ
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第4話

そして私が会社の創業メンバーで役員もしてることから、周りからはもうお金に困らない生活をしていると思われているようだ。だけど、実際のところ、慎也がくれるお給料は悪くなかったけど、これだけ長く働いても、会社の株は少しももらえなかった。いろんな会社から引き抜きの話をもらったこともあったが、それでも、私は全部断ってきた。だから、慎也が一番羨ましがられているのは、若くして成功を収めたことではなく、彼を絶対に裏切ることのない詩織がいることだとも言われている。慎也もまたそう言われる度に、笑ってこう答えた。「会社は詩織のものでもあるからね」って。その一言で、私が会社の株の半分を持ってるっていう噂が広まった。もちろん、その噂は慎也の耳にも入っていた。でも、彼はその時、なにも言わなかったし、私の立場を顧みることもなかった。そんな慎也は今私が辞職をすることに少し不機嫌ではあったが、どうやら自覚があったようで、口調をいくらか和らいで言った。「お前が頑張ってきたのはわかってる。もちろん、悪いようにはしないよ。昇給でも株でも、お前が望むならなんでも言ってくれ。相談に乗るから」だが、私は首を横に振った。もう、遅い。彼がサインするまで、私は座ったまま動かなかった。しばらくして、慎也は諦めたように首を振り、ペンを手に取った。「わかったよ」彼は流れるような字でサインすると、少しからかうように言った。「ゆっくり休んで、また戻っておいで。ポジションは空けておくからさ。まあ、勤続年数はゼロからになるけどね」そう言うと慎也は立ち上がった。「運転手が下で待たせてあるから、とりあえずもう行こう」私はうなずいて、立ち上がって靴を履き、彼と一緒に下へ降りた。慎也が車のドアを開けて、乗るようにうながした。でも私は彼を通り過ぎて、隣に停まっていた別の限定モデルのベントレーにまっすぐ向かった。大柄なボディーガードがドアを開けると、そばにいた若い女性が私に丁寧にお辞儀をした。「木村さん、はじめまして。私は栄養士です。社長は海外で手が離せないため、代わりに私が検診にご一緒致します。私立病院に向かいますので、プライバシーはご心配いりません。検査後はそのまま高台の別荘へお送りします。あちらは環境がよく、お身体にも良いですから。生活用品はすべて用意してあ
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第5話

「大金はたいて、プロの役者まで雇って。それも全部、俺を怒らせるためか?詩織、いつからそんなにくだらない女になったんだ?」そんな慎也を見ていると、私はなんだか急に哀れに思えてきた。この期に及んでも、この男はまだ自分が世界の中心で、私の行動はすべて彼の気を引くためだと思い込んでいる。栄養士が言った。「私たちは役者じゃありません。邪魔はしないでいただけますか」慎也は鼻で笑って言った。「じゃあ、あなたたちの社長は誰なんだ?」私は二人の話を遮った。「慎也!あなたのためにならないから聞かない方がいいよ。これが私のせめての思いやりだから」そう言いながら、私はスマホですぐに通報番号を押した。「これ以上騒ぐなら通報するから。私はニュースになっても構わないわよ」慎也の会社はちょうどシリーズCの資金調達を準備しているところ。スキャンダルは絶対に避けたいはず。案の定彼はそれを聞いて、ぱっと手を離した。でも、その後、彼の車はこちらの後ろをぴったりとついてきたのだ。すると運転手が「まきましょうか?」と聞いてきた。私は首を振った。慎也の好きにさせればいいやと思ったから。彼がどうしても真相を確かめたいっていうなら、私はそれでも別に構わなかった。だって、気まずい思いをするのは私じゃないもの。慎也は病院までついてきたけれど、入口で警備員に止められていた。私が検査を終えて戻ると、彼はものすごく不機嫌な顔をしていた。私が診察室に入っている間、慎也もただぼーっと待っていたわけじゃないみたい。彼の人脈があれば、この病院が直樹の資産だと調べるのは簡単だ。慎也が藤堂家の後継者と認められるための、最大の障壁。それが直樹だ。昔の私は慎也側に立っていたから、直樹が経営する会社の製品は絶対に使わなかったし、彼がインタビューで好きだと言ったお店にさえ、二度と近づかなかった。そんな私が今日、直樹の病院に来た。慎也にしてみれば、これは完全な裏切り行為だ。彼は唇をきつく引き結んで、冷たい視線で私をじっと見つめた。今までの慎也なら、この顔は本気で怒っているサインだった。そして、いつもなら私は先に折れて謝っていた。でも今回は、私は彼に構うことなく、その場を立ち去った。傍を通る時、慎也の体が、一瞬だけ硬直するのがわかった。そ
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第6話

「なにをしていますか!」突然、後ろからどなり声が聞こえた。やってきた二人の警察が、怒った顔で慎也たちを指さした。「大勢でなにをしていますか?」私は急いでボディーガードたちの手をふりほどいて、警察のそばにかけ寄った。これでやっと安心できた。「この人たちに、むりやり連れていかれそうになったんです」「いえ、ちょっと彼女とじゃれてただけですよ」私と慎也は、ほとんど同時に声をあげた。それを聞いた警察は、すぐに慎也を警戒してにらみつけた。「十人以上で妊婦さんを連れ去ろうとしてるって、通報があったんです」慎也ははっとした顔で、駐車場を見まわした。私たち以外、誰もいない。さっきまで、私たちは完全に慎也に取り囲まれていた。だから通報なんてできるはずがないって、彼は確信していた。慎也は疑問に思った。「さっき警察に連絡した人って誰だ……」「俺が、通報した」スマホのスピーカーから、音声が聞こえてきた。私は、スマホの画面を彼らに向けた。ビデオ通話の画面には、直樹の完璧な顔がうつっていた。慎也は、直樹の顔を見た瞬間、かたまってしまった。警察は慎也を厳しく叱りつけた。しかし、彼は終始上の空だった。最後に直樹が言った。「ボディーガードが一人じゃ、お前の安全は守れないみたいだね。すぐに執事にいって、人数をふやさせるよ。家にいるときはいいけど、出かけるときは必ず人をたくさん連れていって」慎也の視線は、ずっと私たちに釘付けだった。直樹の言葉を聞いて、彼は驚いたまま、しばらく固まっていた。秘書から十数回も電話があったのに、それにも気づかないほどだった。……直樹が用意してくれたところは、別荘というより、まるで広大な山荘みたいだった。車で大きな門をくぐってから、母屋の建物までさらに10分以上もかかった。その途中には、プライベートシアターやワインセラー、湖のそばのジムまで、なんでもそろっていた。それに広い畑や果樹園もあって、毎日誰かが手入れをしているみたい。おかげで、いつでもとれたてのオーガニックな野菜や果物を食べることができた。私はそこで一週間くらいすごした。ふたたび慎也から連絡があったのは、直樹とのビデオ通話が終わったすぐあとだった。直樹はもう国内に帰る飛行機に乗ったって言ってた。慎也が送って
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第7話

そして、まわりの人たちは、慎也にそそがれる視線は、もっとあからさまに嘲笑の色をおびていた。彼の出生の秘密は公にされていなかったけど、みんな多かれ少なかれ、なにかしらの噂は耳にしていた。普段はみんな、暗黙の了解でその話題にふれない。でも今日ばかりは、好奇心をかくしきれないみたいだ。すこし離れた場所に、とっくに来ていた慎也が青い顔で立っていた。彼のそばにいる若い秘書は、あきらかにこういうパーティーに慣れていない様子だった。ただでさえ慎也の隣で居心地悪そうにしていたのに、彼の不機嫌な空気を感じて、もっと話せなくなってしまった。どうしていいかわからず、その場でかたまってしまっている。私は社交に夢中で、慎也の視線がずっと私に張りついていることには気づかなかった。パーティーの途中で、私はトイレに向かった。でも、慎也に掴まれ、むりやり休憩室に引きずりこまれた。彼はかなり怒っているみたいで、歯のすき間からしぼりだすような声だった。「詩織、わざわざここまで追いかけてきて、いったい何がしたいんだ?こんなに人がいる前で妊娠したって発表して、俺に結婚をせまるつもりか?」私は彼の手をふりほどくと、思いっきり平手打ちを食らわせた。「何なの、いきなり?私が直樹さんと一緒に来たのが見えなかったの?私が結婚するとしても、相手は直樹さんよ。あなたには関係ないでしょ?その自意識過剰なところ、直したら?」慎也は、なにかおかしな冗談でも聞いたかのような顔をした。「お前が直樹と結婚、だと?あいつと渡辺家の令嬢が幼馴染で婚約者なんて知らないのか?渡辺家と藤堂家は、近々婚約を発表する準備をしている。二人が結婚したら、お前はただの邪魔者だ」私が信じないと思ったのか、彼はスマホを取り出してニュース記事を見せてきた。【渡辺家の令嬢が婚約指輪を披露、藤堂グループが近く政略結婚を発表か】噂では、確かにこの渡辺家の令嬢が、藤堂家の政略結婚の相手だった。慎也は昔、人を使って彼女のことを調べさせたことがある。私が慎也の引き出しから資料を見つけたとき、彼は直樹を調べるついでだと言っていた。慎也の狙いは、直樹とあの令嬢の政略結婚を壊して、後継者としての彼の正当性をくずすことだったんだろう。でも、渡辺家の令嬢は直樹とは幼馴染。彼女は、き
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第8話

「皆さん、すみません。遅れてしまいました」慎也は、まるで助け舟が来たかのように、かすれた声で早口にたずねた。「渡辺さん、ご存じなかったんですか?さっき、藤堂社長が他の女性と結婚するって言ってたんですよ!」杏奈は、案の定、不満そうな顔をして直樹のほうを見た。「直樹さん、私が翔平と婚約したときは、すぐに報告したじゃないの。なのにあなたと木村さんの婚約を、私が最後に知るなんて……ひどい、水くさいよ!」慎也の笑顔が、くちびるに張りついたまま固まった。その顔は、泣き顔よりもひどかった。杏奈は、さらに続ける。「でも、今知れたからいいよ。木村さんはすごく素敵な人だから、大切にして!彼女を狙ってる人は、外にたくさんいるわ。大切にしないと、すぐに誰かにとられちゃうよ!」そして、彼女は慎也に尋ねた。「ねえ、そう思いませんか?」その一言一言が、慎也の心をえぐった。その夜、彼はほうほうのていで逃げ帰った。私はほっとため息をついた。これで、慎也とはもう二度と関わることはないだろう、と。帰り道、私はSNSで会社を辞めたことを発表した。すぐに、メッセージが次々と届いた。ほとんどは、転職するのか、それとも起業するのかっていう質問だった。昔からの中心メンバーたちは、私についていきたいと言ってくれた。それに、長年お付き合いのある大口のクライアントからも連絡があった。うちに来ないかと誘ってくれる人もいれば、次の会社でもまた一緒に仕事をしたい、と行き先をたずねてくる人もいた。私は一人ひとりに感謝を伝えて、少し休みたいだけだと説明した。もし、私がこの人たちをみんな引き抜いたら、慎也はきっとてんてこまいになるだろう。そこまでひどいことをするつもりはなかった。でも、事態は私の予想を超えていた。私が辞めたせいで、契約更新するはずだったいくつかの大口クライアントが、手続きを止めてしまったのだ。話がまとまっていた投資家の何人かも、投資を引き上げる動きを見せ始めた。慎也は激怒して、ここ数日、あちこち走り回ってめちゃくちゃ忙しそうだった。しかも、間の悪いことに、彼の若い秘書が、大事なクライアント数社の資料を取りちがえてしまった。そのせいで、クライアントの機密情報が同業他社に漏れてしまったのだ。これでは契約更新どころの話ではない
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第9話

直樹という後ろ盾ができたから、もう思いっきりやれる。私が部屋を出る時、慎也は背を向けたまま、窓の向こうに広がる賑やかな都心をじっと見つめていた。私と直樹の結婚式は、とても盛大に行われた。藤堂家と直樹の母親側の実家である近藤家の関係者を、片っ端から招待した。私はこの結婚式を利用して新しい会社の宣伝をし、その場で商談まで2件もまとめた。最初はちょっと気が引けたけど、直樹は「使えるものは使わないともったいない」と言ってくれた。なんだかイージーモードで進んでいるような気分だった。でも、すごく気持ちがよかった。昔、慎也は、直樹が大学時代に起業したのを見て、負けたくない一心で自分の力を証明しようとした。でも彼は、父親である浩からの援助を一切受け付けなかった。だから私も一緒にたくさん苦労して、やっと会社を軌道に乗せたのだ。でも直樹は正反対で、使えるものは何でも堂々と利用する人だった。だから彼の会社はたった3年で上場できた。一方で私と慎也は、必死に頑張ってやっと10年近くかかって彼の生まれ持ったものに追いついたのだ。そしてこの結婚式で、私は初めて藤堂家と近藤家の人たちに正式に会った。直樹がどうして政略結婚を必要としなかったのか、その理由が分かった。他人の施しを待っているだけの人こそ、人に人生を左右されてしまうのだ。でも直樹は、藤堂家と近藤家の両方から「家業を継いでほしい」と頼まれる存在だった。直樹には両家の事業をさらに発展させる力があって、みんなの期待を背負っている。だから、慎也にそもそも藤堂家に戻れる可能性なんてなかったんだ。お色直しの時間になり、私はメイクを直しに休憩室へ戻った。部屋の中には、慎也が静かに座っていた。彼に招待状は送っていない。ここに入れたのは、たぶん彼の父親である浩が手引きしたんだろう。なんだか笑えてくる。慎也が浩に頼み事をするのは、これが初めてだった。私はあえてドアを開けっぱなしにした。彼は伏し目がちに、低い声で言った。「もし俺が、あの子を産むのを許すと言ったら……直樹と別れてくれるか?」あまりに呆れて、私が何か言おうとすると、慎也は話をさえぎった。「お前が直樹と結婚したのは知ってる。でも、お腹の子が俺の子なのも分かってる」私は怪訝な顔をした
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第10話

その時の自分は、いったい何を考えていたんだろう?あ、その時莉奈がそばにいてさ、詩織がどうしても折れてきたって。あと数日放置して、少し苦労させたほうがいい、今後また調子に乗らないようにね、って。そこまで思い出して、慎也の頭はキーンと鳴り、何も聞こえなくなってしまった。私は部屋を出るとき、慎也の代わりにドアを閉めてあげた。でも、次に部屋へ戻ったときには、もう彼の姿はなかった。後で聞いた話だと、慎也の会社の中核チームがごっそり辞めて、てんてこまいだったらしい。別に、わざわざ彼の会社から人を引き抜いたわけじゃない。だけど、毎日届く履歴書の半分は、見覚えのある名前ばかりだった。向こうから来てくれた優秀な人材を、断る理由なんてないしね。彼らが加わってくれたおかげで、私の会社はあっという間に軌道に乗った。それに直樹の支援もあって、私は初めて「寝ててもお金が入ってくる」って感覚を味わったの。一方で慎也の方は、中核チームが離脱したせいで、会社が大きなダメージを受けていた。彼は高い給料で別のチームを引き抜いてきたけど、どうも上手くかみ合わなかったみたい。結局、新しい事業計画が中止になっただけじゃなく、もともとの仕事まで大幅に減ってしまった。すぐに潰れるわけじゃないけど、一度なくした勢いを取り戻すのは、そう簡単なことじゃない。私が娘を産んだ日、ずっと連絡のなかった慎也から、突然会いに来たいと連絡があった。本当は断りたかったけど、彼は仕事の話があると言った。慎也はやっぱり私のことをよくわかってる。仕事の話をされると、断れないんだ。直樹は私のために、産後ケア施設をまるごと貸し切りにしてくれた。私のそばにいたいからって、わざわざオフィスまでこっちに移してくれたの。私が慎也に会うのを許すと、直樹は気を遣ってくれて、「仕事をしてくる」と、私たちだけに空間を空けてくれた。慎也が来たとき、私は窓際でひなたぼっこをしていた。娘は隣の揺りかごで、すやすや眠っていた。彼は近づくと、まず娘の小さな顔に視線を落とした。そのまなざしは一瞬やわらいだけど、すぐにまた深い寂しさの色を帯びていた。ずいぶん経ってから、慎也はやっと私の方に顔を向けた。「元気そうだね。直樹に、本当に大事にされてるんだな」私は笑うだけで、何も答
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