雨宮家では、央人が九条家の婚約式で暴れたことはすぐに広まった。央人が家に戻った時、義母の千和はソファに座って待っていた。「まさかあんたがそんなに入れ込んでるとはね」千和の顔は険しい。央人も義母の機嫌が悪いと分かっており、怒りを押し殺して千和の正面に座る。「私の腹が弱かったせいでね。正式な跡継ぎを産めなくて、あんたみたいな私生児に家を継がせるしかなかった。でもこの数年、能力は悪くないと思ったから黙っていたのに。そんなあんたが九条家の婚約式であんな騒ぎを起こして。錦市中の笑いものだよ」千和はテーブルを叩き、怒鳴るように言った。「今日から家にいなさい。どこにも出るな」「嫌だ」今まで黙っていた央人が、勢いよく顔を上げた。「穂香はまだ婚約しただけだ。結婚したわけじゃない。まだ俺にチャンスはある。あいつが他の男に渡るなんて絶対にありえない」「はあ。馬鹿なの」千和は立ち上がり、冷ややかに見下ろした。「雪野の性格、あんたが一番知ってるだろ。彼女が決めたことを、あんたが覆せたことある?」「穂香は俺を愛してる。俺が会いに行けば……」央人が反論しようとしたが、千和は容赦なく遮った。「自分が彼女に何をしたか思い出しな。許されると思ってるのか。今騒ぎ続ければ雨宮家がもっと笑われるだけ。それに、雪野が許すとか許さないとかじゃない。九条家はうちが敵にできる相手じゃないよ。あんたは自分が誰だと思ってるの。九条玲人は身体が弱いとしても、能力はあんたの百倍以上」九条家の実力が言われなくても、央人は分かっていた。けれど千和にその現実を突きつけられると、喉の奥が焼けるように苦しかった。「もういい。しばらく家から出るんじゃない。あんたの母親みたいな真似しないで」千和は背を向け、去ろうとする。「待って」千和が振り向くと、央人が何かを決意したように見えた。彼が再び顔を上げた時、目が真っ赤に染まっていた。「俺は雪野家を手に入れられる」千和は眉を上げ、からかうように央人を見た後、冷笑して言った。「やっとその気になったんだね。雪野家を本当に手に入れられるなら、あんたが何しようと私は口を出さないよ」そう言い、今度こそ振り返らずに去っていった。央人は穂香の元の部屋へ入り、あの日のドレスの箱を取り出す。彼はドレスショ
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