領地に入って、一家は馬車を下りた。ずっと重い馬車を引いた馬を休ませるためだ。後ろの馬車に乗る侍従や侍女らは、ここで一度お別れとなる。後ろの荷馬車の到着を待って、一緒に屋敷へ向かう予定となった。「あとでね」 手を振るガブリエルに、侍女達が目いっぱい手を振り返す。国内側なので砦はなく、代わりに小さな集落があった。村と呼ぶ大きさの集落は、騎士や世話係を含めた者達が暮らす。農民や放牧民はおらず、規律がきっちりしていた。 ここで馬を乗り換えるのだ。元気に牧草地を走った馬に挨拶し、ガブリエルは背に乗った。従兄弟のケヴィンとカールが乗ってきた馬も、ここで交代となる。後でゆっくり届けてもらうのだ。ケヴィンの前に乗ったガブリエルは、久しぶりの乗馬に浮かれていた。「やっぱり、馬車より馬のほうが好き!」「それは良かった。お姫様、しっかり手綱をどうぞ」 鞍に付いた相乗り用の革を握り、揺られながら領地内を進む。他領との境に近い部分では、放牧と畑が両方見られる。この先、標高の高い屋敷へ向かい、徐々に畑が減っていくのだ。父と母が寄り添う姿を後ろから見つめ、ガブリエルの頬が緩んだ。「ねえ、お父様達……素敵よね」 憧れると匂わせたガブリエルに、ケヴィンは鼻の奥がツンと痛んだ。泣きそうになり空を見上げ、雲がやや多い青空に気持ちを落ち着ける。「そうだな。とてもお似合いだ」 騎士としてではなく、従兄の口調で答えた。振り返ったガブリエルが笑う顔に、対応を間違えなかったと胸を撫で下ろす。馬車の通る街道は石を敷き詰めているため、馬の蹄に優しくない。馬車を引く馬は専用の蹄鉄を使うが、彼らは脇にある土の上を歩かせた。 縦に一列になって進む馬は、常歩程度でゆっくり進む。たまにすれ違う領民は、笑顔で手を振ってくれる。いつもと同じ穏やかな領地の風景だった。「お姉様!」 手を振って叫ぶラファエルへ、ガブリエルも「ラエル」と名を呼んで身を乗り出す。咄嗟にケヴィンが支えたが、心臓が飛び出すかと思うほど焦った。「こら、落ちるぞ」「ごめんなさぁい、ケヴィン兄様」 ラファエルもカールに叱られて、謝っているようだ。屋敷が見えるまで、この速度では一日かかる。面積は広いが、ほとんどが山岳地帯のロイスナー公爵領は移動が大変だった。途中で野営するには、荷物を置いてきてしまった。街道沿いの宿へ泊
Huling Na-update : 2025-11-11 Magbasa pa