All Chapters of XenoMessiaN-ゼノメサイアN-: Chapter 1 - Chapter 10

12 Chapters

第1界 ハジメカイ #1

わたしのために人々が貴方を罵り、迫害し、あなた方に偽り様々な悪口を言う時、あなた方は幸いである。 『マタイによる福音書 5:11』 窓から黄色い陽光が差し込む部屋、そこに一人の青年が無表情で座っていた。 どうやらここは病院の待合室らしい。 子供たちが笑いながら走り回っている、小児科なのだろうか。 「………」 すると前の席に座る子連れの女性が抱き抱える赤ちゃんと目が合う。 すると。 「……うえぇぇん!!!」 目が合った途端赤ちゃんは泣き出してしまう。 「……っ」 周りが一斉にこちらを向いた。 別に何か悪い事をした訳じゃない、しかし大周のその目は"お前がわざと泣かせた"と言っているかのように見えた。 「ぅ……」 果てしない罪悪感と不安感が訪れ、身体から魂が離れるような感覚に襲われる。 「……はぁ、はぁ」 まるで離れた所からテレビで自分を見ているようだ。霧のようなモヤモヤに包まれて。 頭を抱えて不安に襲われているとある"幻聴"が聞こえてきた。 『君は大丈夫、大丈夫だから!』 必死にポジティブな言葉をぶつけてくるような。 そんな言葉に何の意味がある。 「大丈夫よ〜ほら、ガラガラ」 「……⁈」 "大丈夫"という幻聴と同じ言葉に驚くがどうやら一人の看護婦が子供をあやしに来たようだ。 おもちゃのガラガラ音を鳴らして見事に子供を泣き止ませた。 「キャッキャ!」 「………………………!!」 その光景に思わず見入ってしまう。 子供を泣き止ませた彼女はその母親や周りの人間にとって"英雄"のはずだから。 そして気付けば不安感は消えていた。 その代わり、新たな感情が。 「…………」 意味深に彼女を見つめる。 その目には複雑な感情が写っているようだった。 「どうしました?」 しばらく見入っていると流石に視線に気付いたのか声を掛けられる。 「いえ別に……」 慌てて視線を逸らすが見ていた事がバレた。 恥ずかしい事この上ない。 しかしその声色から別に自分に対して"子供を泣かせた野郎"などとは思っていない事が受け取れたので少し安心した。 が、恥ずかしいのと泣かせてしまった罪悪感は別だ。 「……はぁ」 看護婦がその場を去った後、彼は1人悩んだ。 子供と目が合った
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第1界 ハジメカイ #2

 帰り道、快はいつもの電車に乗っていた。 車内は少し混んでいる。 快はつり革につかまりながら電車に揺られていた。顔は俯いている。「ぁ……」 その時電車がガタンと揺れて向かいに座っていた若い女性の足を踏んでしまった。「痛……」「あ、すみません……わっ」 慌てて後ずさると今度は後ろに立っていた男性の背中にぶつかってしまう。 ジロジロ…… 冷たい視線が集まって来る。「う……」 まただ、またパニック障害。 周りの人間の視線が異様に冷たく感じる。 本当はそんな事ないのだろうがとにかくそう感じて仕方がなかった。『まもなく練馬〜、練馬に留まります』 ここは本来降りる駅では無い。 しかし今はとにかくこの場から離れたかった。 なので駅に着いた途端急いで電車を降りる。 その際にも数名にぶつかったがそんな事気にしてられなかった。「ふぅ……はぁはぁ……」 駅の付近は人が多かったので人通りの少ない住宅地にやって来ると自販機を見つけたので水を購入。 そして先ほど病院で処方された頓服薬を飲みパニックを和らげようとした。「ゴクッ、ぷはっ……」 しかしすぐには治らない、数分経ってから効き始めるためだ。「ん、はぁっ…?」 ふと近くの一軒家を見ると小学生ほどの子供が自宅に帰って来た様子が伺えた。「ただいま〜!」「おかえり、楽しかった?」 仲睦まじそうな家族だ、"ただいま、おかえり"と挨拶をする様子を羨ましそうに見ている快。「……っ」 そんな羨ましそうな目をする理由は? しかしそんな彼に息つく間もなく次の災いが降り注いだ。「ポテトいる?」「いらないですっ」「えぇ?美味いのに〜」 ガラの悪い男3人組がフライドポテトを片手に女性をナンパしている。女性は明らかに嫌そうだ。「チラッ……」 その女性は快を見つけると助けて欲しそうに見つめた。「くっ……」 ヒーローになるチャンスだ。 しかしまだパニックは治まっていない、震える足は彼を動かさなかった。 助けを求める女性と目が合っているのに何もできない。 自分の弱さに腹が立っていると。「お?何、ジロジロ見てどーしたの?」 不良が快の視線に気付きターゲットが移った。「え、いや……」 腹が立ったのか快の周りにやって来て囲う。「ポテト欲しい人?」「それはねーだろ笑」 嘲笑うかのよ
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第1界 ハジメカイ #3

 空が赤色に染まる空間、空の向こうには紫色に輝いた"もう一つの地球"が見える。 まるでこの地球と互いに吸い寄せ合っているかのようだ。「きゃぁぁぁ!!!」 人々の悲鳴が響く。 その原因は明確だった。「フォオオオオン」 謎の翼の生えた巨大な人型生物が街を蹂躙しているのだ。 一体ではない、何体も無数に空から舞い降りて来る。 その天使のような生命体が地上を攻撃し人々を殺していた。「助けてぇぇ!」「死にたくないっ!」 そのような声が響く中、吸い寄せ合っている二つの地球は中心に"ある形"を造っていく。 それはまるで星のように巨大な"赤子"であった。「…………」 産声一つあげない巨大な赤子。 天使たちはその臍の緒から出現しているように見える。 そして赤子はこちらの方に向いてから目をカッと開いた。 そして。「またやっちゃった」 ______________________________________________「はっ……」 そこで快は目が覚める。 どうやら夢を見ていたようだ。「何だこの夢……」 気分が悪い、鬱病だからこんな夢も見てしまうのか。 そう無理やり納得させ絡まった付けっぱなしのイヤホンを解いて外す。『いいこいいこ〜』 イヤホンを繋げたスマホからは女性が頭を撫でてくれるASMRの動画が流れていた。 それを止めて時計を見ると快は驚きの声をあげる。「八時、……遅刻じゃん!」 慌てて準備し家を出ようとする。 制服も髪も適当だ、朝のコーヒーも飲んでない。「ヤバっ、ごめん起こすの忘れてた!」 姉の美宇は忙しそうに準備しながら快を起こさなかった事に気付く。「急いで行くからっ!」 靴をかかとで踏んだまま家を飛び出す。「ちょっとお弁当は⁈」 用意した手作り弁当を持って玄関に行くが既に快は家を出てしまっていた。「……何なの、せっかく準備したのに」 少し不貞腐れた美宇は悲しそうに準備に戻った。 ・ ・ ・ なんとか学校の前まで着くが、既に一限目は始まっている時間だ。「(やばい、どうしよう……)」 またまたパニ障がやって来る。 心が霧に包まれるような感覚もあった。 このまま教室に入ったら一気に注目の的となる。そして怒られるのを教室中の人間に見られるのだ。 それを恐れた快が下した決断は。「……
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第1界 ハジメカイ #4

 フラッシュバックが終わっても快の頭は両親の事でいっぱいだった。『どうしても快に話したい事があるんだ』 何よりも気になるのはそれだ。 両親は死ぬ前に何を言おうとしたのだろう。「分かんねぇよ……」 泣きたいのに泣けない。 顔を押さえてまるで泣いているような素振りを見せるがどうしても涙は出なかった。「(泣けねぇ……)」 そんな風にしているとスマホに着信が入る。 プルルルル…… 画面を見るとそこには"瀬川"と書いてあった。「……もしもし」 仕方なく電話に出ると明るい声が聞こえる。『あ、出た!お前今日休み?先生が連絡してないって言ってたけど!』 "瀬川抗矢/セガワコウヤ"、快の唯一と言ってもいい友人である。「別にいいだろ。あ、みう姉には言わないで」『いいけどよ、お前なんかテンション低くね?カルシウム足りてるか?』 辛い過去を思い出していたためテンションが下がっていたのだ。「あいにく牛乳は好きじゃないんで」『てかどうしたのよ今日』 快はサボった理由を説明した。『なるほどなぁ…』 瀬川は快の障害とうつ病については理解してくれている。なのでこの話はすぐわかってくれた。「だって俺クラス中から嫌われてんじゃん?隣の女子とかに一瞬休みだって期待させといて来たらすんごいガッカリされるだろうし……」『お前ネガティブすぎだって、多分そんな事は……』 瀬川がそう言おうとした瞬間、後ろから女子の声が聞こえる。「何か今日落ち着くなと思ったら創休みじゃん」「いつも何か落ち着かないもんねー」 それは快の隣に座る女子とその友人のものだった。 その事を聞いて瀬川は黙ってしまう。「ん、どうした?」『いや何でもない……』 快と電話するそんな瀬川の様子を見ている女子の姿が教室にあった。 そして2人の話題は変わる。『俺お前以外に友達いないからよー、1人で寂しいんだぞ!』「明日は行くよ、だから安心しろ」『何言ってんだ、明日休みだぞ』「は?平日だろ?」『"創立記念日"だよ!忘れたのか?』「あーそうだった……!じゃあさ、明日映画観に行こう!そこで埋め合わせするから…!」『オーケー、その方が学校より気楽に色々遊べるしな』 明日新宿に映画を観に行く約束をして電話を切る。 なんとか明日はいい日になりそうだ。 つづく
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第1界 ハジメカイ #5

 夕方、学校が終わる頃になって快は家へと帰って来た。「はぁ……」 孤独を感じベッドで横になっていると姉が部屋に入って来る。「快、あんた今日学校行かなかったの⁈」 明らかに怒っているのが分かる。 何故バレたのだろう。「え、いや行ったけど……?」「嘘言わないで、クラスの子が休んだからってプリント届けに来てくれたよ!」 クラスの子、来るなら瀬川だと思うが瀬川にはサボった事は言わないように行ってある。「瀬川?」「いや女の子。待たせてるからまず行ってあげな!」 女の子、一体誰が自分のためにプリントを。 それより今はみう姉が怖かったが。「ん……」 コミュ障なのでそれだけ言って玄関を覗く。 するとそこには小柄で可愛らしい少女がちょこんと立っていた。「どうも……」 少し照れ臭そうにしている少女。 名は"与方愛里/ヨガタアイリ"という。「あ、与方さん……どうしたの?」「これ、プリント届けに来たの。」 そう言ってプリントの入ったファイルを手渡す。「ん、ありがと」 受け取ったので見送ろうとするが彼女は中々帰ろうとしない。 何故かモジモジしている。「どうした……?」「えっと、今日何で帰っちゃったのかなって……」「どういう事……?」「快くん今朝学校の前まで来てたでしょ?そのまま帰っちゃうの窓から見えたの」 まさか見られていたとは。「いやまぁ、ちょっと事情があって……」 少し考えるがどうしても纏まらない。「(障害とか鬱病のこと話したら嫌われるかも……)」 そんな考えが思考を遮ってしまい何も言い訳が浮かばないのだ。 すると沈黙を嫌ったのか愛里は発言する。「何か話しづらかったり学校で不安な事あるなら相談乗るよ?」 優しい笑顔を見せてくれる。 それで少し安心したので考えが纏まった。「いや、昨日色々あってさ。不良みたいな人に暴行されたりして……それで少し他人が怖くなったっていうか」「え!そうだったの⁈大丈夫だった……?」 驚いた顔をして更に心配までしてくれる。「うん、大した怪我はしなかったよ。それより精神的ダメージの方がね……」「だよねぇ……誰も助けてくれなかったんだ」「っ……!!」 その一言で快はかつての事を思い出す。『ヒーローなんてこの世に居ねぇんだよ!!』 両親が殺された時の犯人の言葉を思い出してしまう
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第1界 ハジメカイ #6

 翌日、快は瀬川との約束の地へ向かうため新宿駅で電車を降りた。 するとスマホにLINEが届く。『やべー寝坊した!遅れます…!』「あいつ……」 駅のホームにあった自販機で何か買おうとするが。「(コーラ売り切れてる……)」 大好きな缶コーラが無い事にがっかりする。 今の快の傷ついたメンタルには何でも深く刺さり過ぎるのだ。 昨日の愛里と美宇との一件はまだ快の心に傷を大きく残していた。 そんな状態で瀬川と楽しめるのか、楽しめないと失礼じゃないか、そんな事まで考えては落ち込んでしまうほど。「はぁ〜」 自分はヒーローにはなれない。 まともな人からそう言われてしまっては反論のしようが無い。 しかしヒーローになりたい、必要とされたいという欲求は止まらない。今の心は苦しくて仕方がなかった。 大きくため息を吐いたその時、ホームにある男の声が響いた。「おい、落ちたぞ!」 何やら人が一箇所にぞろぞろと集まっている。 何事かと思い快もそちらを覗いてみた。 するとそこには。「うぅ〜いててて……」 なんと酔っているであろうホームレスが線路の上に落ちてしまったのだ。 そのまま眠ってしまったのか起き上がる気配がない。『間もなく列車が参ります』 タイミング悪くアナウンスが流れる。「待ってよ、電車来ちゃうじゃん!」「誰か駅員さん呼んで!」 しかし誰も自分から動こうとはしない。 理由は明白だ、無理に助けようとしたら自分まで巻き込まれかねないから。「ゴクッ.......」 そんな中息を呑む快が考えていた事は。「(証明するなら…)」 ヒーローになりたい、しかし自分にはなれない。 それは本当なのかどうか証明するチャンスがやって来た。 しかし失敗すれば死ぬかも知れない、しかし挑戦しなければ二度とチャンスは訪れないかも知れない。 そんな心の葛藤が渦巻いていたのだ。「ふぅーーよし……!」 そして快が取った決断は線路に降りて助ける事だった。「おい!電車来るぞ!」 確かにこのまま自分ごと死ぬ可能性もある。 しかし今は自分がヒーローになれる事を証明しなくては。出来なければ死んだも同然なのだ。「あの!大丈夫ですか⁈」 寝ている酔っ払いを起こそうと体を叩く。「うぅ〜うるせぇなぁ……」 しかし全く起き上がる気配はない。「クッソ!」 そこで
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第1界 ハジメカイ #7

 バビロンが暴れ回る新宿の街。 逃げ惑う人々の中、その群れを掻き分けて反対方向へと走る者が一人。「はぁっ、はぁっ……怖いっ、はっ……!」 持久力は高い方じゃない。しかし彼の使命感によって発生するアドレナリンが彼をどこまでも走らせる。 自分に一体何が出来るかは分からない。だがしかし、ここで動いてこそヒーローというものだろう。「(少しでも……助けられたら……!)」 燃えるビルを追い越し、瓦礫に潰された死体を横切って走る。 焼け野原になった新宿を息を切らして駆け抜ける。「あっ」 しかし彼は選ばれし者ではない。 瓦礫につまずき簡単に転んでしまった。「くぅぅ……」 地面に突っ伏し何も出来ない自分にショックを受ける。 やはり自分にヒーローなんて無理なのだろうか、そう思った時。「大丈夫ですか⁈」 甲高い女性の声が聞こえる。 顔を上げるとそこには自分と同い年くらいの少女と彼女と手を繋ぐ小さい男の子がいた。「ぁ、君……」 何故か一瞬立ち止まるがその後すぐに手を差し伸べる。「ほら、立てる?」 倒れている自分に手を差し伸べてくれる少女。 太陽の光を背に浴びた彼女の姿は、まるで自分がなりたかった"理想のヒーロー"のようだった。  ☆ 手を取り合った3人は近くのショッピングモールの中に避難していた。「私、"勇山英美/イサヤマヒデミ"。よろしくね」「創 快。」「オーケー快ね。そしてこの子はリク君。」「グスッ……」 リクという子供は先程からずっと泣いている。「この子ね、あの怪物の光線で目の前でお母さんを亡くしたの。だから何とか助けてあげたいと思って無理にでも連れて行ってる。」「そっか……」 彼女は凄い、自分には出来なかった"人を助ける事"を平然とやってのけている。 それを目の当たりにした快の心境は少し複雑だった。 その時遠くの方からバビロンの咆哮が聞こえる。 まだ破壊活動を続けているらしい。「ひっ……」 母の事を思い出したのか恐れるリク。「よしよし、大丈夫だからね〜」「ひっく、グスッ……ママぁ〜」 必死に英美が撫でても泣き止む気配はない。 同然だ、母を失ったばかりだから。 快は母を失った時の自分と今のリクを照らし合わせて全く泣けなかった事、それが意味する事にまた複雑な感情を抱いた。「よし、コレ何だ?」 リク
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第1界 ハジメカイ #8

 三人は瓦礫だらけのショッピングモール内を移動していた。「はっ、どこまで……行くの?」「まず南側出口に行こう。そしたら真っ直ぐ怪物と反対方向まで逃げるの。そしたら多分避難して来た人もいっぱいいるだろうから。」「なるほどね……はぁっ……」 英美はリクと手を繋ぎ気遣いまでしている。「大丈夫?疲れてない?」「うん大丈夫」 先程からヒーローらしい行動を散々見せつけて来る英美。きっと彼女は素晴らしい人なのだろう。 しかしヒーローを目指すがなれない快にはどうしてもそれが当て付けのように見えて仕方なかった。 ヒーローな英美とヒーローになれない自分。 今、快の自尊心は今までにないほどボロボロだった。「……っ」 リクも母の死を乗り越えようとしている。 そんな強い二人が前方で手を繋いで歩いている。 まるで自分が置いてかれているようだ。「はぁ、はぁ……待って……っ」「ん、大丈夫?」 そこで快の言葉に気付いた英美が声を掛けて来た。 しかし優しい言葉を言ってくれても嬉しくない。「……何が?はっ……」 「歩き方、変だよ?」「えっ……?」「ちょっと見せて!」 そう言って英美は無理やり快を座らせて右足の様子を見た。「ちょっとコレ!捻挫してるんじゃない⁈」 快の右足首は真っ赤に腫れていた。 まさかさっき転んだ時にやってしまったのか。「大丈夫だよこれくらい……」 何とか対抗しようと強がりを言ってみせる。 しかし。「ダメだよ!……お願い、助けさせて」 急に強い表情になった英美。 その力強い言葉に思わず受け入れてしまう。「大丈夫、何か持ってくるからね」 そう言って英美は近くにあったドラッグストアに走って入っていった。「………」「………」 今この空間には快とリクの2人だけだ。 気まずい沈黙が嫌で快は口を開く。「ねぇ、あのお姉ちゃん好き……?」 単純に気になった。やはり子供はああ言ったヒーローに憧れるものなのか。「うん。だって優しくてカッコいいもん。」「そっか……」 また自尊心が傷ついてしまう。 こんな自分も嫌で仕方がない。 しかし彼女はヒーローらしい行動を取り実際リクから愛されている。 そのような彼女を凄いと認めざるを得なかった。「お姉ちゃんヒーローにならなきゃいけないんだって。自分がみんなを助けなきゃいけない
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第1界 ハジメカイ #9

「くっ……そぉ……あぁぁぁ!!」 こんなに辛くても涙は出ない。 ただ声を上げるしか。「うわああぁぁん……!」 リクも声を上げて泣いている。 快は今、自分が許せなかった。 英美の気持ちに応えてリクを連れて逃げた理由。 それは"恐怖"。死ぬ事への、夢を失う事への恐怖が快の選択を決めたのだ。 つまりは英美を見捨てて逃げたのと同じ事。 やはり自分はヒーローではない。そう痛感してしまった。 そして英美の言葉を思い出す。『ただ自分に出来る事を見つけてるだけ。』「(そんな事、あるわけないだろ……)」 快が苦しんでいるのは"出来る事が見つからないから"じゃない。「"やりたい事"が出来ないから…辛いんじゃないかぁぁ!!!」 悲痛な叫びが燃える街の真ん中に響く。「くそぉ、こんな時も自分の方が心配だなんて……」 再び死を目の前にしても他人を想えるほど余裕がなかった。 こんな自分、生きてる意味はあるのだろうか。 何故ヒーローである英美が死んで臆病者の自分がのうのうと生き延びている?『大丈夫、君は大丈夫だから!』 こんな時またあの幻聴が聞こえる。「(何が大丈夫だよ、見てわかんねぇのかよ…)」 快の心は完全に折れてしまった。 幻聴の空気を読まないポジティブな言葉に苛立ちを覚える。『だって君は託されたから』 すると幻聴が今までにない"続きの言葉"を語り出した。「……え?」 突然の事に快は理解が追い付かず固まってしまう。『自分には出来ない事、君になら出来ると信じて託した。応えなくていいの?』 理解は追い付いていないが必死に考えて幻聴に対し反応を見せる。「何言ってんだ、彼女に出来なくて俺に出来る事なんてある訳ないだろ……」 泣き叫んでいるリクを見て言う。「現に俺は怖くて逃げたんだ、助けられたかも知れないのに英美さんを置いて……」 するとこんな返事が。『だったら何で一人で逃げなかったの?』 そう言われてハッとする。『君はしっかり意思を汲んでこの子を救ってくれた』 そして次の一言で快は気の重さが少し抜ける事となる。『君はもうヒーローだよ』 肩の重荷が少し軽くなった気がした。 まだ完全に抜けた訳ではないが言ってもらいたかった言葉を初めて言ってもらえたから。「これは……?」 すると瓦礫の中に一つだけ輝く石を見つける。 
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第1界 ハジメカイ #10

 崩壊し燃え盛る新宿の街。 バビロンが暴れる新宿の街。 そこへ眩い恵みの光が降り注いだ。『オォォォ……』 その光の中から現れたのは巨大な"赤銀の巨人"。「何だアレ…」 逃げ惑う人々は振り返り巨人の出現に圧倒されていた。『セアッ』 その巨人の正体は。『これが、俺の変身……』 赤銀の巨人に変身した快はその変貌した姿、目線の高さに驚いていた。「グゥルルル……」 そこに迫るバビロン。『そっか、俺が戦うのか……』 自分の手を見つめる。 この手で自分がやりたい事、今チャンスがあるのならやってやる。『見てろよ……!』 今まで自分の夢を否定した奴らの顔を思い浮かべて拳を強く握った。 そして。『ハアッ!』 拳を構えて戦闘体勢に入った。『フオッ!』「ゲアァァッ!」 二体の巨大な存在はお互いを目掛けて走り出した。 そのまま勢いよくぶつかり取っ組み合いを始める。『オォォォ……ッ』 悪魔のような顔がすぐ目の前にある。「(良いんだよな……?怪獣だし……!)」 その体勢のまま巨人はバビロンの顔面を右拳で殴った。『ハッ!』「グギャッ……⁈」 拳がバビロンの左頬にめり込む。 体勢が崩れた隙を巨人は見逃さなかった。『ホッ、デリャッ!』 左足で回し蹴りを繰り出しバビロンの腹部を攻撃する。「(イケるぞこれ……!)」 これなら自分もヒーローになれる。 そう思うと嬉しくなってしまい攻撃にも勢いが増す。「ゲアァァッ!!」『オッ……⁈』 しかし蹴り上げて片足立ちになっている所を尻尾で払われ思い切り背中から地面に倒れてしまう。 思ったより大分痛かった。「グゲェェェッ!!」 倒れている巨人に噛みつこうと顔を勢いよく下げる。『グッ、ウゥゥ……ッ!』 何とか手で口を押さえて凌ぐ。 隙だらけの腹部を両足で蹴り上げバビロンを転ばせる事に成功した。「ゴゲッ……⁈」 よろよろと巨人は立ち上がる。『ハァ、ハァ、フンッ……!』 まだだ、まだやれる。 今のは少し油断しただけだ。 そう自分に言い聞かせて構えを取り直した。『セィリャァァッ!!』 そのまま殴りかかる体勢で走り出す。「ギャァァオッ」 しかしバビロンは振り返り尻尾攻撃をして来た。『ウッ⁈』 反応出来ず隣のビルに叩き付けられてしまう。「ガァッ!!」 その隙に噛
last updateLast Updated : 2025-11-13
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