XenoMessiaN-ゼノメサイアN-

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last updateLast Updated : 2025-11-13
By:  甲斐てつろうOngoing
Language: Japanese
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東京の街に突如出現した凶悪な罪獣バビロンに立ち向かった巨人の正体は愛に飢えた青年だった。 皆が憧れるヒーローのように活躍すればまだ知らぬ愛を得られると意気込み奮闘するのだが…… これは現実から目を背けながらも一方的に他者からの愛を待ち続ける者たちの物語。

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Chapter 1

第1界 ハジメカイ #1

わたしのために人々が貴方を罵り、迫害し、あなた方に偽り様々な悪口を言う時、あなた方は幸いである。

『マタイによる福音書 5:11』

窓から黄色い陽光が差し込む部屋、そこに一人の青年が無表情で座っていた。

どうやらここは病院の待合室らしい。

子供たちが笑いながら走り回っている、小児科なのだろうか。

「………」

すると前の席に座る子連れの女性が抱き抱える赤ちゃんと目が合う。

すると。

「……うえぇぇん!!!」

目が合った途端赤ちゃんは泣き出してしまう。

「……っ」

周りが一斉にこちらを向いた。

別に何か悪い事をした訳じゃない、しかし大周のその目は"お前がわざと泣かせた"と言っているかのように見えた。

「ぅ……」

果てしない罪悪感と不安感が訪れ、身体から魂が離れるような感覚に襲われる。

「……はぁ、はぁ」

まるで離れた所からテレビで自分を見ているようだ。霧のようなモヤモヤに包まれて。

頭を抱えて不安に襲われているとある"幻聴"が聞こえてきた。

『君は大丈夫、大丈夫だから!』

必死にポジティブな言葉をぶつけてくるような。

そんな言葉に何の意味がある。

「大丈夫よ〜ほら、ガラガラ」

「……⁈」

"大丈夫"という幻聴と同じ言葉に驚くがどうやら一人の看護婦が子供をあやしに来たようだ。

おもちゃのガラガラ音を鳴らして見事に子供を泣き止ませた。

「キャッキャ!」

「………………………!!」

その光景に思わず見入ってしまう。

子供を泣き止ませた彼女はその母親や周りの人間にとって"英雄"のはずだから。

そして気付けば不安感は消えていた。

その代わり、新たな感情が。

「…………」

意味深に彼女を見つめる。

その目には複雑な感情が写っているようだった。

「どうしました?」

しばらく見入っていると流石に視線に気付いたのか声を掛けられる。

「いえ別に……」

慌てて視線を逸らすが見ていた事がバレた。

恥ずかしい事この上ない。

しかしその声色から別に自分に対して"子供を泣かせた野郎"などとは思っていない事が受け取れたので少し安心した。

が、恥ずかしいのと泣かせてしまった罪悪感は別だ。

「……はぁ」

看護婦がその場を去った後、彼は1人悩んだ。

子供と目が合っただけで泣かれて慌て、泣き止ませた英雄を見つめ、その女性を見ていた事がバレ、今彼の心の中は焦りと恥ずかしさでいっぱいだった。

たった1人異様に暗いオーラを放つ。

まるで闇の中に1人で住んでいるかのように。

少しばかり心が脆すぎるように思えるかも知れないが、これが"彼"だ。

これはこの不器用で人より遥かに心の脆い青年の生涯を描いた物語である。

『創さん、創 快(ハジメ カイ)さ〜んどうぞー』

院内のアナウンスで名前が呼ばれた。

______________________________________________

「で、どう調子は?」

「いつも通りです。」

この青年、創 快/ハジメ カイ。

今はこの病院、"宇治原クリニック"で月に一度の診察を受けている。

「前回薬変えてみたんだけど、この1ヶ月どうだった?」

この先生は院長の宇治原。

快の主治医だ。

「相変わらず"パニ障"と幻聴は…」

パニ障とは"パニック障害"の事。

快の場合は先程の魂が身体を離れてテレビから自分を見ているような感覚になってしまう。

"うつ病"によくある症状だ。

「そっかー、夜は眠れてる?」

「眠れるんですけど夢を見ます……」

「どんな夢?」

「みんなに嫌われる、仲良い人とか家族からも。みんなが俺の事を嫌って罵倒する夢です……」

辛い現状を語る。

「それで起きたら不安になって、学校とかバイト行くのが怖いです」

これは障害者や鬱病患者にはよくある事だろう。

「完全に鬱病の症状だね」

「はい……」

宇治原は丁寧に快の病状をカルテにメモしていく。

「でも夢といったら君には将来の夢があるじゃない、"ヒーロー"でしょ?」

「……!!」

将来の夢の話を振られて顔が強張る。

少しもどかしそうに語った。

「最近思うんです、こんな自分がヒーローになれるのかって。発達障害で鬱病持ちの俺が……」

自分のような事情がある者がヒーローになれるのか不安になる。

「でも君は症状は軽い方だよ、現に自己分析だって出来てる」

宇治原の言う通りまだ軽い症状なのだ。

しっかり会話など意思疎通も出来る。

「でも隠してたら変な健常者、明かしてもそれはそれで差別の対象になる……」

しかしならではの悩みを明かしていく。

感情を露わにしていく快に心配が募る宇治原。

「それでもずっと思い続けてる夢なんでしょ……?」

何とか快の機嫌を直そうと話してみるが。

「そうです、本当にそれしか希望がないんです。誰かに必要とされたい、愛されたい。初めてヒーローを見た時、自分もこんな風になれたらなって感じたんです」

脳裏に浮かぶのは小さい頃に見た特撮ヒーローの画面越しの姿。

「でも俺みたいなのはどう足掻いても"悪者として"扱われる、程遠いけど余計に欲望が止まらないんですっ」

散々自分を嫌ってきた者達の蔑むような目を思い出してしまう。

「この鬱を治すためには叶えるしかない、じゃないとずっとこのまま……!」

不安に怯えながらもヒーローになりたいと言う気持ちが抑えられないのだ。

「ヒーローに、ならなきゃいけないんです。誰かじゃない、自分自身のために」

その発言を聞いた宇治原はメモを続けながら快に問う。

「それで、どんなヒーローに君はなりたいの?」

「え?」

「いやさ、例えば悪者をやっつけたり困ってる人を助けたり。快くんの目指すヒーローってどんなイメージなのかなぁって」

当たり前かのような顔で聞いて来る宇治原に思わず思考が停止してしまう。

しばらく考えるフリのような素振りを見せてから快は答えた。

「……考えた事なかったです、イメージはテレビの変身ヒーローだけど別にそこに拘りはないっていうか……」

何とか振り絞った言葉だったため声がどんどん小さくなっていく。

「じゃあ別にヒーローってのに拘る必要もないんじゃないかな?愛されるならそれ以外にも沢山手段はある訳だし」

彼の言う事は最もだと思う。

しかし快にとってそれは残酷な発言だった。

「違うんですっ!どうしてもヒーローじゃなきゃ、死んだ両親に……」

図星を突かれて焦る。

そんな快の脳裏にはある光景が浮かんでいる。

そこには血だらけで倒れる彼の両親らしき存在と血濡れた包丁を持つ男。

『ヒーローなんてこの世に居ねぇんだよ!!』

その男がまだ小さな快に向かって怒鳴り散らしていた。

その光景を思い出した快は震えていた。

「ヒーローに、ならなきゃ。じゃないと両親に振り向いてもらえない……っ!!」

宇治原は震える快を見て少し考える。

そしてまたメモを続けた。

「("あの時"のまま時が止まってるね……)」

つづく

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