毎回、夫の南野和紀(みなみの かずき)が、不治の病にかかった幼なじみの堀之内衣織(ほりのうち いおり)に付き添って行くたびに、彼は私に「離婚できないか」とほのめかしてくる。衣織が死ぬ前に抱いている一番の願いは──「和紀の本当の妻になりたい」ということだから。今日もまた、彼は同じようにそれをほのめかしてきた。私は泣きもせず、怒りもせず、ただ淡々と「いいわ」と一言返した。こうした会話は、すでに99回も繰り返されてきたからだ。そして今日は、ちょうど百回目。ようやく私も、自分を納得させる離婚の理由ができたのだ。──私と和紀の子どもが流産してしまったから。今、私と彼の間に残っているのは、薄っぺらな戸籍謄本だけだ。……流産から七日目のこと。私はショッピングモールで偶然和紀に会った。彼は両手にいくつもの大きな買い物袋を提げ、衣織を見つめるその目は、溢れんばかりの優しさに満ちている。けれど、私を見た瞬間、彼は眉をひそめた。「なんでお前もここにいるんだ?先に離婚すると言っていただろ。まさか後悔したのか?」彼の警戒した視線は冷たく、まっすぐ私の心の奥深くに突き刺さった。衣織は彼をたしなめるように軽く睨みつけ、気まずそうに私の方へ向き直った。「笙子、誤解しないでね。和紀は、私と早く結婚したくてたまらないだけなの」そう言いながら、彼女はさりげなく私のお腹に視線を走らせ、得意げに微笑んだ。「私たちの結婚式が一週間後に決まった。ぜひ、赤ちゃんと一緒に見に来てね」私は思わずお腹に手を当てた。何かを言おうとしたその瞬間、和紀が言葉を遮った。「妊婦が式に来られるわけないだろ。万が一、衣織にとって縁起が悪いことがあったらまずいぞ」お腹に置いた手が固まったまま、私は再び彼の冷酷さに打ちのめされた。彼は、衣織が不治の病を患っていても、それを「縁起が悪い」とは思わないくせに。毎日病院を行き来していても、それを「縁起が悪い」とは思わないくせに。――でも、私があなたの子を身ごもっているということだけが、「縁起が悪い」。……本当に、皮肉なものだ。でも、そうね。私は衣織じゃないし、あなたが気にかける理由なんてどこにもない。そうでなければ、私が病院で必死にお腹の子を守ろうとしている間、あなたが一度も姿を見せ
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