十八歳の誕生日。転校生の不良少女・上村清良(うえむら きよら)が全校生徒の面前で、伊東礼司(いとう れいじ)に愛を叫んだ。礼司は眉一つ動かさず、突きつけられたラブレターを冷淡に引き裂く。「汚ねえな。興味ない」その言葉に逆上した女は、衆人環視の中で私・坂口橙子(さかぐち とうこ)の胸ぐらを掴み上げた。「あんたの好きなこの口の利けない女なら綺麗だって?だったら、いっそもっと汚してやろうか!」「死にたきゃ、やってみろ」その日の午後、清良は学校から警告処分を受け、炎天下の掲揚台の下で一日中立たされる羽目になった。それ以来、彼女と礼司は犬猿の仲となった。彼女は私をいじめて礼司を挑発し、礼司はその倍返しで報復する。やられたらやり返す。端から見れば賑やかなものだ。あの日。路地裏で彼女たちが私を囲み、服を引き裂いて動画や写真を撮り始めるまでは。駆けつけた礼司は、血走った目で狂ったように彼女を男子トイレへと引きずり込んだ。「撮れよ。別に構わない。ねえ礼司、私の体で見てない場所なんてないでしょ?昨日ベッドで約束したじゃない。今回は私の好きにさせてくれるって!」耳の奥がズキズキと痛む。それは八歳の時以来、初めて私の世界に届いた「外」の音。氷の洞窟に突き落とされたかのような悪寒。全身の震えが止まらない。追いかけっこに興じているうちに、礼司の心はとうに道を踏み外していた。*「清良、いい加減にしろ!これ以上やるなら、俺にも考えがあるぞ」途切れ途切れに鼓膜を叩くその声には、威圧感の欠片もない。返ってきたのは、少女の鈴を転がすような笑い声だけ。「考えがあるって、またベッドの上でいじめる気?礼司ったら、本当に悪い人ね。大事な『橙子ちゃん』は知ってるの?あんたのそんな顔」清良は爪先立ちし、礼司の腕に絡みつく。会話が途絶え、やがて少女の耳障りな吐息だけが漏れ聞こえてきた。しばらくして、清良の弾むような声が響く。「今回は私の勝ちね。次はあの子に何をしてあげようかしら?」礼司の足音が近づいてくる。「好きにしろ」その冷淡な一言が、爆弾のように私の耳元で炸裂した。私は思わず視線を落とす。足元の景色が涙で歪んでいく。音が聞こえるというのは、これほどまでに苦痛なことだっ
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