物心ついた頃から、俺の世界は不平等そのものだった。両親は弟を連れて都市へ出て、俺だけを田舎へ置き去りにした。ようやく彼らの元へ引き取られても、両親は弟の機嫌ばかりを優先し、俺を邪険に扱った。「兄さんには躾がなっていない」と弟は嘲笑う。奴は他人に暴行を受けさせ、それを俺の暴力だと訴えた。両親は盲目的に、愛する弟の虚言だけを信じた。そうして俺は、あの「全寮制学校」へと送られた。両親の黙認と、弟の教唆。教師と称する男たちは、俺に非人道的な「教育」を施し続けた。ついに、彼らの願いは叶ったのだ。俺は、立派に「更生」された。――そうして、死んだ。……俺の「亡骸」がこの街で、最も人の目につかぬ場所、深山へ打ち捨てられる――その瞬間を、俺はただ見ていた。肉体は滅んだというのに、不思議と意識だけは鮮明だった。死後、三日目の朝を迎えていた。寄る辺なく彷徨ううち、吸い寄せられるように、俺は早坂家の前に佇んでいた。ちょうど、あいつらが帰宅したところだったらしい。家族揃って早坂朔也(はやさか さくや)を海へ連れ出し、誕生日を祝ってきたのだ。――俺一人を残したままだ。クルーズ船から望んだ絶景がいかに素晴らしかったか、彼らは楽しげに語り合っている。俺が生きている間、ついぞ目にすることのなかった光景だ。俺は黙ってその傍らに立ち、姉の早坂由莉(はやさか ゆり)が漏らす不満を聞いていた。「ねえ、郁也まだ帰ってないの?お腹ペコペコなんだけど。家に着いたらすぐご飯が食べられると思ったのに」母の早坂瑞世(はやさか みずよ)が眉根を寄せ、俺の名、早坂郁也(はやさか いくや)を呼ぶ。当然、返事はない。「また留守なの?学校なんて二日前に休みになったはずじゃない。本当にあの子の性格、誰に似たのかしら。うちはみんなきちんとしてるのに、一人だけ田舎育ちの異物が混じっているわ」「どうせまた、あのゴロツキ共とたむろっているんだろうさ」父の早坂哲夫(はやさか てつお)がソファに深く身を沈め、吐き捨てるように言った。「この前、由莉に『迎えに来て』って電話をかけてきたじゃない?由莉が行かなかったから拗ねてるのよ、きっと」瑞世は土産物を乱雑に扱いながら、苛立ちを隠そうともしない。「あの子には、私たち十分に尽くしてきたはずよね?わざわざ田
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