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第3話

Penulis: 刹那忍
喜希が頭を押さえ、激痛に顔を歪める。それでも、その無垢な瞳は朔也を見上げていた。

「にい……」

「僕はお前みたいな乞食の兄貴になった覚えはないよ」

頭皮が引きつるような痛みに、喜希が手足をばたつかせた。だが、その抵抗は空しく空を切り、朔也にかすりもしない。

朔也は汚物を見るような目で喜希を見下ろすと、その頬を平手で打ち据えた。

喜希が悲鳴を上げようとした瞬間、朔也は手近にあった雑巾を口にねじ込み、その声を強引に封じた。

ゴミでも捨てるかのような手つきで、朔也は喜希を床へ放り投げ、部屋の隅へと追い詰めていく。

しゃがみ込み、醜悪な笑みを浮かべながら、彼は何度も喜希の頬を張り飛ばした。

「お前はチビの乞食、郁也はデカい乞食。ハハハ、お似合いの兄弟だ。

郁也みたいなゴミクズが僕の兄貴面してるせいで、クラスの奴らに笑われるんだよ。

あんなクズ、田舎で野垂れ死んでりゃよかったんだ。本当、吐き気がする」

喜希の頬がみるみる赤く腫れ上がり、口に詰められた雑巾が血で滲んでいく。

隅でダンゴムシのように丸まり、息も絶え絶えになっている喜希を見て、朔也は満足そうに口元を歪めた。そして背骨めがけて思い切り蹴りを叩き込んでから、ようやく立ち去った。

俺は震える手を伸ばし、喜希の頭を撫でてやりたかった。だが、俺の手は空を切るだけだ。

喜希はその後、朔也の企みによって家を追い出された。

「由莉のスカートの中に潜り込んで、怖がらせた」――そんな濡れ衣を着せられた。

だが真実は違う。朔也が、俺の作った布人形を喜希から奪い、意地悪く由莉の足元へ投げ捨てたのだ。

その人形は、まだ田舎にいた頃、俺が拙い手つきで縫って喜希にあげたものだった。彼はそれを宝物のように大切にしていた。朔也はまるで悪戯っ子のように、その大切な宝物を軽々と放り投げたのだ。

知能に遅れのある喜希には、悪意など理解できない。彼はただ、猛然と走って由莉の足元に飛び込み、人形を取り戻そうとしただけだった。

すると、由莉が悲鳴を上げた。

すかさず朔也が喜希の襟首を掴み、脇へと投げ飛ばした。

俺は反射的に地面へ飛び出し、クッションになろうとした。けれど、喜希の小さな体は俺の魂をすり抜け、床に激しく叩きつけられた。数日前に朔也に殴られた傷も癒えていない体だ。喜希は苦痛に顔を歪め、うずくまった。

由莉がスマホを取り出し、苛立ちを露わに俺へ電話をかける。

朔也がふっと笑いを漏らし、ゆったりとした口調で、どこか残念そうに言った。

「喜希のこういう行動……郁也の影響なんじゃないかな。あんなに小さいのに、スカートめくりなんて知恵、どこで覚えたと思う?頭のおかしい子がこれなら、手本になってる郁也が普段どんなことしてるか……想像つくよね」

由莉が嫌悪感を露わに後ずさり、汚らわしいものから逃れるように喜希と距離を取った。

喜希はただ、ぼんやりと立ち尽くしている。彼らが何を言っているのか、理解できていないのだ。

「郁也も、よりによって、こんな知恵遅れの子を拾ってくるなんて」

由莉が眉間の皺を深くする。その時、朔也の目に鋭い光が走った。

「ねえ、喜希のこと、やっぱり手放した方がいいんじゃない?こんな品性じゃ、そのうちお姉ちゃんの部屋に忍び込むかもしれないよ」

由莉はまだ迷っているようだった。朔也が畳み掛ける。

「今、子供が欲しくても授からない人なんていくらでもいるからさ。他所に行けば、きっと喜希を大切にしてくれるよ。郁也のそばで悪い影響を受け続けるより、よっぽどあいつのためになる」

結局、由莉は朔也の提案に同意した。由莉が部屋を出て行くと、朔也は喜希を蹴り倒し、嘲るように見下ろした。

「安心しろよ、バカ。お前にふさわしい場所を探してやるからさ。乞食は、乞食の巣へ帰るべきだろ?」

こうして、俺と早坂家を繋ぐ唯一の絆も、朔也の手によって断ち切られた。

俺が死んで、もう十日になる。早坂家の誰も、俺を探そうとはしなかった。

みんな、「郁也は罰から逃れるために家出したんだろう」と決めつけていた。瑞世でさえ、俺への嫌悪を募らせていた。

「あんな息子、いらないわ!あんな恥知らずな子を持つなんて、恥さらしもいいところよ!」

そんな中、瑞世のスマホに、あの「学校」の教頭から一本の動画が送られてきた。

画面の中の俺は、四つん這いになり、極めて屈辱的な姿勢で地面を這っている。カメラが俺の動きを執拗に追い、やがて俺はレンズに向かって卑屈な笑みを浮かべ、舌を出して、大声で犬の鳴き真似をさせられていた。

服が体に纏わりつかず、最小サイズの服さえぶかぶかなほど痩せ細った、俺の本当の姿が、家族には見えていないのだ。
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