私が家に帰るあの日、外は大雨だ。兄の生瀬蓮司(いくせ れんじ)は迎えに来なかった。「美月の具合が悪い。お前は一人で帰ってこい」スマホ越しの声は氷のように冷たく、情けなど微塵も感じられない。私は黙って荷物をまとめ、家へ向かった。たった一年、少年院に閉じ込められていただけなのに、私は家への帰り道を忘れてしまっていた。あの日、蓮司にここへ連れて来られたとき、道のりはあまりにも短く感じられた。短すぎて、角本美月(かくもと みつき)を階段から突き落としたのは私じゃないと、彼に説明する暇もなかった。短すぎて、彼の怒りを収める暇もなく、私はあの光の差さない牢獄のような場所へ押し込まれた。けれど、雨の中をどれだけ歩いても、服がびしょ濡れになるほど歩いても、家には辿り着けない。もしかすると、私はすでに家を失ったのかもしれない。両親は早くに亡くなり、蓮司と私は互いに寄り添いながら生きてきた。それなのに今、彼は美月のために私を捨てた。少年院に閉じ込められた一年以上もの間、蓮司は一度も私に会いに来なかった。一度、私は重い病気にかかり、どうしても家に帰りたくて、彼に会いたくて電話をかけた。けれど彼は、私の言葉を最後まで聞かずに電話を切った。「俺の前で可哀想ぶるな」蓮司は私を見捨て、私は家へ帰る道を失った。……「何を騒いでるんだ?一年もあそこにいたのに、まだそんなにわがままなのか?」蓮司は警察署へ駆け込み、ずぶ濡れの私を見ると、眉をひそめて怒鳴りつけた。「今日は美月の具合が悪かったから迎えに行けなかったんだ。もう大人なんだろ?家くらい自分で帰れないのか?こんな騒ぎまで起こして、俺に甘えられると思うな」「ごめんなさい、お兄ちゃん……わざとじゃないの。本当に、家への道が思い出せなかったの」私の両足は抑えきれないほど震えている。蓮司の怒鳴り声を聞いた瞬間、私は生理的な恐怖に襲われ、震えている体はさらに冷え切った。彼が不機嫌そうに黙り込むのを見て、私はそのまま膝をついた。「私が悪かったの。全部私のせい。お兄ちゃん、許して……お願い、もうあそこへ戻さないで。言うことを聞くから、お兄ちゃん」警察官も呆れながら、私を支えて起こし、蓮司に穏やかに助言した。「帰ろう。ここで恥をかく必要はない」蓮司は顔
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