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第7話

Author: ニシキゴイの吹ちゃん
私が家に戻ると、美月が住んでいた痕跡は跡形もなく、きれいに片付けられている。

あの場所は、かつて私の記憶にあった姿へと戻った。

私は屋根裏部屋へ向かおうとしたが、蓮司が私の腕を掴んだ。

「ここが、お前の部屋だよ、文寧。もう二度と、お前に辛い思いはさせない」

小さな荷物を手に、私は首を振った。「どこでもいいよ。どうせ、よくなったらバイトして、自分でお金を稼いで……ここを出ていくつもりだから」

蓮司の顔が強ばった。「なんで出ていくんだ?ここはお前の家だろう?」

私は首を振った。「違うよ。ここはお兄ちゃんの家。私は、自分がいつ追い出されるかわからない家じゃなくて……ちゃんと自分の家がほしい。もう、あんな場所には送られたくない」

蓮司の目が再び赤くなった。そして、私の前で膝をついた。

「文寧……もう、そんなことは絶対に起きない。お兄ちゃんが約束する」

……

私を安心させるために、蓮司は私を連れて司法書士事務所へ行き、家の名義を私に変更する手続きを依頼した。

そのうえ、所有しているすべての資産を私に譲渡した。

さらに、彼は私の体に残された傷と同じ場所に、自分にも傷をつけた。

血を流しながらも、彼は蒼白な顔で笑みを浮かべた。

「罪を償ってるんだ、文寧。お前が受けた痛みをすべて、俺も受ける。そうしたら、お前は少しは俺を憎まずにいてくれるか?」

電流の流れる椅子に座った日、蓮司は長時間吐き続けた。

吐き終わると、彼は自分の頬を強く殴った。

「こんな痛みを……文寧はどうやって耐えたんだろう。俺なんか、本当に最低だ……」

ある日、美月が再び家に押しかけてきて、暴れ始めた。

「私のお腹の子はあなたの子よ!文寧にそそのかされて私を捨てるならそれでいいけど、この子の養育費は払ってもらうから!それに、なんで勝手に私が住んでた家を取り上げるの?カードまで全部止めたし」

「妹の件で、まだお前と清算してないことが山ほどあるんだぞ。金を要求する立場だとでも思ってるのか?」

蓮司は彼女を見るなり、冷たい目で迷わず玄関へ押しやった。

「出ていけ。文寧が会いたくないって言ってるんだ。二度と俺の前に現れるな。お金は一円もやらないからな」

「はっ、兄妹の絆ごっこもいい加減にしたら?あなたが文寧を壊したんでしょ。彼女があなたを許すわけないじゃない。もう元には戻れないの
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