All Chapters of 妊娠七ヶ月、夫がナイトランにはまっちゃった: Chapter 11 - Chapter 13

13 Chapters

第11話

ちょうどそのとき、隼人とつきよが並んでダイニングホールに入ってきた。ふたりとも、妙に楽しそうに喋っていた。「えみさん!お久しぶりです。隼人さんがね、『えみさんに呼ばれた客だから、迎えに行かなくちゃ』って、わざわざ車出してくれたんですよ。そんなことで、怒ったりしませんよね?だって、えみさんって、いつもやさしいですもんね?」口では申し訳なさそうに言っているくせに、その視線には、隠そうともしない勝ち誇りがにじんでいた。席に着くと、つきよはわざとらしく義母を押しのけ、隼人の隣へすべり込む。そのあからさまさに、親戚たちは顔を見合わせ、空気が一瞬きしむほど固まった。隼人ですら、露骨に気まずそうだ。けれど私が何も言わないので、まあいいかと、みんなはその場を流してしまった。ただひとり、兄だけが険しい顔をしていた。私は兄にそっと目で合図を送り、湯呑みを手にして立ち上がった。「お酒は飲めませんから、お茶で失礼いたします。それと……せっかくのめでたい時期に、こうして皆さんにも集まっていただいたので、いろいろ気持ちを伝えさせて頂きたいと思います一緒にかんぱいを三回しましょう。一杯目は……つきよさんへ。新居の件、本当にお世話になりました。あなたが走り回ってくれたおかげで、私と隼人の結婚生活も順調に始められました」テーブルの下で隼人の脚と絡ませていたつきよは、自分の名前が出た瞬間、びくりと跳ねた。勢いよく立ち上がった拍子に足を取られ、危うく前につんのめる。義母の顔が、みるみる沈んでいく。嫁が、義母である彼女を差し置いて、まず他人の女に杯を向けるなんて——この場では、考えられないほどの非常識だ。けれど私は気にも留めず、ふたたび杯を掲げた。「二杯目は……私の夫、隼人へ。妊娠中の私が大変だろうって、つきよさんを連れ回して発散してたみたいですので……本当に——思いやりのある、いい夫です」「へぇっ!?」驚きの声が、場のあちこちで同時に上がった。隼人の顔は、赤いどころか、どす黒い紫へと変わっていた。血管が浮き上がり、目は大きく見開かれ、「信じられない」と口だけがかすかに震えている。私に殴りかかろうとしたその腕を、兄が無言で押さえ込んだ。「慌てないで。まだ三杯目がありますから」その場に立っ
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第12話

義母が、作り笑いを引きつらせながら私の手を握ってきた。「恵美、うちはね、そんなにひどいことしてないでしょう?家だって、ちゃんと買ってあげたのに……それに隼人だって……男なら、ああいう過ちを犯すものなのよ。そんなに大騒ぎしちゃって……これからどうやって暮らしていくの?どうやって顔を合わせればいいの?」一瞬の躊躇もなく、私はその手を振り払った。「いい男なんて、この世にいくらでもいる。よりによって、なんでこんなクズ男に縛られなきゃいけないわけ?」顔をゆがめた義母に、つきよがすかさず腕を取って寄り添い、わざとらしくため息をついた。「怒っちゃだめですよ。こんな恩知らずの女のことで体なんて壊したら、ほんともったいないですよ。それに……えみさん。夫をつなぎ止められないのは——あなた自身にも原因があると思いますけど?」——バシッ!乾いた音がホールに響いた。つきよが顔を押さえたまま、呆然と私を見る。「な、殴った……?こ、この私に?」「はぁ?いけないの?」袖をまくり上げ、私はつきよの髪をつかんだ。そのまま左右から、容赦なく頬を叩きつける。バシッ、バシッ、パシンッ——!念入りにセットされた髪は一瞬でほどけ、口元から血が滲んだ。「……えっ?」しばらく呆然としていたつきよが、次の瞬間、突き上げるように悲鳴を上げた。「隼人さん!!助けて!!この女、本気で殺す気だよ!!」隼人が飛び込もうとした瞬間、兄の拳が、すさまじい音を立てて隼人の頬に入った。「てめぇ……妻より愛人の方を選んだよな!この人間以下のクズが……よくも俺の妹をもらったな!!」兄の声は、底が見えないほど冷たかった。片手で隼人を押さえ込み、もう片手でつきよを床に押し戻した。「えみ、好きに殴ってろ。こいつらが手を出したら、俺がまとめて黙らせる」その話を聞いたとたん、つきよが必死にもがきはじめ、兄の手に噛みついた。兄が思わず手を離した、その瞬間——つきよの掌が、大きく振りかぶられて私に迫る。顔に当たる刹那、私はすっと身を沈めた。——バチィンッ!!つきよのビンタは、そのまま見物していた義母の顔面に直撃した。義母は大学の元教授。ずっと尊敬されてきて、誰かに叩かれたことなんて一度もなかったはずだ。だから固まっ
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第13話

一言も返さない私を見て、隼人の態度が急に変わった。怒りと焦りが、そのまま声に滲む。「離婚、離婚って簡単に言うけどさ……お前、離婚したらどこ行くんだよ。結婚のとき実家ともめたの、忘れたのか?子ども産まれたら誰が面倒見るんだよ。育てられるほどの金、あんのかよ?せっかく楽に暮らせてんのに、なんで自分から苦労しに行くんだ?!……ほんと、調子に乗るなよ!お前なんて、俺がいなきゃやってけないだろう……」醜く歪んだ顔がこちらに向けられる。愛の末路は、いつもこうして憎しみに変わる。どれだけ仲のいい夫婦でも、別れる瞬間はみじめで、汚く、どうしようもないものだ。私は静かに口を開いた。「愛の違いって、分かる?」その質問に、隼人が口をつぐむ。私はまっすぐ彼を見つめた。「私の両親は、本気で私の幸せを願ってた。嫌われてもいい。恨まれてもいい。それでも私を幸せにしようとしてくれた。でも、あなたの愛は違う。あなたの愛は、飴に包まれた毒だった。うれしそうにかじって、その甘い殻が溶けきったとき、ようやく気づく。心の奥底まで滲む苦みと、死ぬほどの痛みを。それと、子どもの心配はいらないよ。弁護士にも、もう相談済みだ。——不倫した側は、慰謝料を払わないといけないって。しかも、先週あなたが買ってくれたあのマンション、私に贈与したよね?だから財産分与には入らないって……ありがとう。そういえば、つきよちゃんは、あの部屋ほしがってたよね?ふーん、貸してあげてもいいけど……家賃は高くするよ」「……お前……いつからそんな腹黒くなったんだ……」歯を食いしばりながら、隼人は吐き捨てるように言った。「あなたのおかげだよ」これ以上、彼と付き合う理由なんて、もうどこにもない。兄がアクセルを踏み込み、今までのすべてを後へ投げ捨てるように走り出した。バックミラーには、膝から崩れ落ちている隼人と、何かを叫び続けるつきよの姿が小さく映る。けれど、それはもう——私には関係ない。今日からは、全部やり直しだ。……それは全部、あとで聞いた話だ。あの大騒ぎのあと、佐藤家は街中の噂になり、隼人の母は毎日のように泣き崩れたらしい。そのくせ、隼人の母が事件の張本人であるつきよだけは息子の嫁として認めなかった
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