夫の佐藤隼人(さとう はやと)が私・佐藤恵美(さとう えみ)にマタニティオイルをゆっくり塗ってくれているあいだ、何気なく開いたSNSで、妙な投稿が目に入った。【妻が妊娠後期で一人でいられない。なのに外の若い子がやたらまとわりついてきて……マジで困ってる。どうしたらいいんでしょう?大至急アドバイス求む】そんなクズみたいな書き込みに、コメント欄は案の定、罵倒であふれている。それでも、なぜか得意げに「助言」をしている人までいた。【筋トレって言っとけば?夜の八時ぐらいに外で会って、十時ぐらいに帰っていい旦那の顔しとけばバレないよ。妊婦なんて鈍くなるし、絶対気づかないって】コメントを読んだ瞬間、なぜかその奥さんの姿が自分と重なって、胸がぎゅっと痛んだ。妊娠後期なんて、心も体もいちばん弱くなる時期なのに。そんなときに、いちばん信じたい相手に裏切られるなんて……「ねぇ、この投稿——」隼人に見せようと顔を上げた瞬間。——スポーツウェア姿の彼が、目に飛び込んできた。「恵美、今日からナイトランしようと思って……」……えっ?頭がうまく回らなくて、彼の言いたいこともまだよく飲み込めないうちに、彼はフルーツの盛り合わせを運んできて、皮をむいたぶどうを一粒、さりげなく私の口元に差し出してきた。酸味が舌に触れた瞬間、ぱっと私を現実に引き戻された。スマホの画面を消して、私はゆっくりと体を起こした。「そんな急に……どうかした?」「出産まであと二ヶ月だろ? 君にはちゃんと休んでほしいから、夜中の授乳もオムツ替えも、全部、俺がやろうと決めたんだ。だからその前に、ちょっとでも体力をつけておこうと思ってさ」その言い方は、やけに滑らかで、迷いがない。まるで——あらかじめ用意していたネタみたいに。いや、それどころか……まるで「ここで感動してくれ」というような期待まで、彼の瞳に、微かに浮かんでいたような気がした。「……行かないと、ダメなの?」私は思い切って、そう口にした。彼の笑顔も、そこでぴたりと固まった。視線を逸らし、隼人は後ろ首をかきながら誤魔化そうとする。「ほんとうは、家にいたいんだけど……でも部長がね、健康診断の結果がやばくてさ……それで毎晩みたいに筋トレやってて、それに付き合わないと……
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