すっかり日が落ち、時計の針は夜の九時を指していた。書斎での仕事を終えた瑛司は、眉間を揉み解しながら廊下を歩いていた。しかし、リビングの前に差し掛かった時、彼の長い足がピタリと止まった。中から、一人で機嫌良く遊んでいるらしい翔の愛らしい声が聞こえてきたのだ。「……翔?まだ寝ていないのか?」瑛司がドアを開けると、そこにはおもちゃを広げて一人遊びに夢中になっている息子の姿があった。翔はもう泣いていなかった。癇癪を起こすことも、無気力に虚空を見つめることもない。絵理と一緒にいた頃のように、明るい笑顔を取り戻し、楽しそうに笑っているのだ。……珍しいな。梨沙がいない一人の時でも、あんなに機嫌がいいとは。瑛司は頭をよぎった微かな違和感を振り払い、ラグの上に座り込んでおもちゃに話しかけている翔の元へ歩み寄った。「翔、どうしてまだ起きているんだ?」瑛司は翔の隣に腰を下ろした。「翔、まだ遊んでたいの、パパ」翔は遊びに夢中なまま答えた。瑛司の視線が、翔が抱きしめている中くらいのコアラのぬいぐるみに留まった。見覚えのないぬいぐるみだったが、瑛司はてっきり梨沙が買い与えたものだろうと思い込んだ。「あっ、触んないで!」翔が声を上げ、そのぬいぐるみをサッと隠すように抱き込んだ。瑛司がコアラのぬいぐるみに手を伸ばそうとした瞬間、息子に素早く奪い返されてしまったのだ。「これ、翔のいちばん大事なぬいぐるみなんだからね、パパ!」翔は怒ったように頬を膨らませた。そのいじらしい怒り顔に、瑛司は思わず吹き出した。「よしよし、早く遊びを切り上げて寝るんだぞ。明日、幼稚園で眠くならないようにな」その時、翔の動きがピタリと止まった。顔を上げ、瑛司の腕を小さな手でキュッと引っ張った。翔の真剣な表情を見て、瑛司は眉をひそめた。息子が何かを頼みたがっているのがすぐに分かった。「どうした、ん?」瑛司は翔の小さな身体を引き寄せ、自分の膝の上に乗せた。「パパ、あしたね、翔、お家に帰るの遅くしたいの。だから……お迎えは午後一時にしてね、パパ……」翔の可愛らしいおねだりに、瑛司は微塵もためらうことなく頷いた。あの日々のように絶望して泣き叫ぶことがないのなら、息子の願いなどいくらでも聞いてやるつもりだった。「分かった。パパが明日の午後一時に、翔を迎えに行こう
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