絵理はゆっくりと重い瞼を開けた。視界に広がったのは、無機質な白に染められた病室と、鼻をつく消毒液の匂いだった。焦燥に駆られた宗介が彼女を覗き込んでいた。「気がついたか?目眩は?吐き気はないか?」宗介は、ホテルから病院へと向かうタクシーの中で気を失い、たった今目を覚ました絵理を食い入るように見つめていた。頭の奥で脈打っていた痛みが引いているのを感じ、絵理は力なくゆっくりと首を横に振った。「タクシーの中で発作を起こして倒れたんだぞ。一体何があった?どうして誰も君をここまで送ってこなかったんだ?」宗介が問い詰める。「……みんな、忙しかったのよ、宗介」絵理は掠れた声で答えた。「今日は、翔くんの誕生日だから……急に頭が割れるように痛くなって……薬も忘れてきちゃったから、逃げるようにここに来たの」宗介は深くため息をつき、ひどく痛ましげに彼女を見つめた。彼はペットボトルの水を手に取り、絵理に差し出した。「まずはこれを飲んで、少し心を落ち着かせるんだ。帰りは僕が家まで送っていくから」と彼は言った。宗介からの真っ直ぐな視線。これほどまでに自分を案じてくれる彼の優しさに触れ、絵理は泣き出しそうになった。もし今、自分をこんなにも心配してくれているのが瑛司だったなら……そんな叶わぬ幻想が脳裏をよぎる。「どうして泣くんだ?君が今抱えている苦しみを、全部僕に話してくれないか。君は重病なんだぞ、絵理。すべての重荷を一人で背負い込むな。僕に打ち明けてくれ」矢継ぎ早に紡がれる温かい言葉に、絵理の心は激しく揺さぶられた。それでも彼女は、意地を張るように言った。「……ううん。何でもないわ。私は、大丈夫だから」その掠れた声は、まるで自分自身に言い聞かせているかのようだった。宗介は自分のハンカチを絵理に差し出した。絵理が破綻した結婚生活の秘密を、死に物狂いで隠そうとしていることを彼は察していた。宗介はゆっくりと自分のデスクへ歩み寄り、聴診器を置いて静かに口を開いた。「神崎瑛司との結婚は、不幸なのか?」不意に、宗介が核心を突いた。「君の夫の元妻が戻ってきたという噂は、外でも広まっている……それが、君を苦しめている原因の一つなのか?」絵理は答えなかった。代わりに、嗚咽が口から漏れた。自分の夫よりも、他人の彼の方がずっと自分の心に寄り添っ
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