結婚して8年、私は陸川弥言(りくかわ みこと)とますます息が合うようになっていた。彼は幼なじみに別荘を買い与え、出張だと嘘をついたが、私は信じてしまった。私は彼に離婚協議書へサインさせ、不動産の名義変更書類だと嘘をついたが、彼も信じてしまった。正式に離婚届受理証明書を受け取るまでには、あと1か月ほど手続きが残っている。私はちょうど、彼との8年間について色々と片付ける時間が取れた。……弥言が帰ってきたとき、私はちょうど荷造りをしている。彼が何か聞く前に、私は友達が結婚するので数日後に介添人を務めに行くのだと説明した。弥言はほっと息をつき、何でもないふうにしゃがんで荷造りを手伝った。彼が手渡してくる物を、私は脇へ置くだけにした。そんな私のそっけない態度に、彼はとうとう苛立ちを見せた。「電話で言うことは全部言っただろ。まだ何が気に入らないんだ?」私が何を不満に思うというのか。彼は一秒前まで【会議中だから邪魔するな】と私に送ってきたくせに、次の瞬間には浅草愛華(あさくさ あいか)が【弥言と一緒に家を買いに来た】とインスタにアップしていた。写真の中で彼女を慈しむように見つめているのは私の夫だ。そして、冷たく私に返信してきたのも同じ夫だ。私が黙っていると、弥言は苛立ちを隠さなくなった。「何してほしいかはっきり言えよ。午後は実家で飯なんだ。そんな暗い顔すんな」弥言と結婚して8年、私には妊娠の兆しが一度もなかった。陸川家の両親は表向きこそ何も言わないが、不満は年々深くなるばかりで、食事の度に彼らの嫌味を浴びせられた。そのたび、弥言は黙って私を見て、私の我慢が限界に近づくと話題を変えた。昔、彼は私のために庇ってくれているのだと思っていた。今思えば、私が黙って耐えると分かっていたからだ。私は立ち上がり寝室へ戻ると、用意していた物件の名義変更書類を持ってきて、彼に差し出した。「これにサインして。そうすればこの件は終わり」弥言は大きな文字を見て眉をひそめ、目の奥に軽蔑の色を浮かべた。彼はこの数年、何度もこっそり海外へ飛んで愛華と会っていた。そのたびに愛華は、わざと私に見せつけるようにインスタを更新していた。最初こそ弥言は謝り続けていたが、私が簡単に許すのを見て、やがて謝ることすら
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