彼の瞳に一瞬、期待の色が差した。だが、内容を確認した瞬間、わずかに持ち上がった口角が凍りついた。【ダーリン、明日は私のリサイタルよ。絶対に来てね。私への授賞式もあるんだから】以前なら、彼が一日帰らないだけで、琴音は狂わんばかりに心配したものだ。だが今はどうだ。五日も帰宅していないのに、摩耶からは心配の電話一本なかった。ようやく来た連絡は自分の晴れ舞台への誘いだけ。蒼真は断ろうと思ったが、今の会社は風前の灯だ。宝生家の資金援助という命綱を切るわけにはいかない。蒼真は感情を押し殺して承諾した。リサイタル会場には、万雷の拍手が響き渡っていた。スポットライトを浴びて得意満面の笑みを振り撒く摩耶とは対照的に。客席の蒼真は激しい胸騒ぎで落ち着きを失っていた。何か決定的な崩壊が起きる予感に、蒼真の心臓が早鐘を打っていた。程なくして授賞式の時間となり、スポンサーの一人である蒼真が当然の成り行きとしてプレゼンターを務めることになった。「続きまして、黒崎グループの社長、黒崎蒼真様よりトロフィーの授与です」アナウンスが終わり、蒼真が立ち上がろうとしたその時、秘書が血相を変えて駆け寄ってきた。そして蒼真の耳元で囁いた。「社長、雪代様が見つかりました!ですが、彼女は……」蒼真の心臓が激しく跳ねた。やはりだ。琴音が死ぬはずがない。あんなにも俺を愛していた琴音が何も言わずに死を選ぶはずがないのだ!「どこだ! 早く言え!」今の蒼真に、世間体を気にする余裕などなかった。ただ琴音に会いたい一心だった。「雪代様は……A国で結婚式を挙げておられます」秘書は怯えながら告げ、手にした結婚式の招待状を蒼真に渡した。ウェディングフォトに写っているのは、間違いなく琴音だ。そして隣で勝ち誇ったような笑顔を見せているのは響介だ。あり得ない。琴音が響介と結婚するなんて、そんな馬鹿な話があるか!これは全て響介の策略だ。あいつは俺への当てつけでこんな真似をしているに違いない。蒼真は即座に席を立ち、舞台上の摩耶のことなど一顧だにせず、会場を後にしようとした。「今すぐA国行きのチケットを取れ」彼の胸中には、言葉にできない安堵が広がっていた。決然と去っていく蒼真の背中を見つめ、摩耶の顔色は土気色に変貌した。異
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