この街で、この事実を知らぬ者はいない。雪代琴音(ゆきしろ ことね)は黒崎蒼真(くろさき そうま)の心臓に焼きついた「唯一無二の存在」なのだと。蒼真の愛は常軌を逸した執着であり、その寵愛は狂気すら帯びていた。彼が琴音に捧げた「世紀の結婚式」は見る者すべてを羨望の渦に巻き込み、社交界の語り草となったほどだ。だが、結婚式の翌日、琴音は顔に醜い傷を負い、その美貌を失った。蒼真は彼女のために煌びやかな別荘を築き、七年間、彼女をそこに軟禁して愛で続けた。そして結婚七周年の日。これまで一度として外泊をしたことのなかった蒼真が丸三日間姿を消した。琴音の胸に、不安が広がった。蒼真はその強引なやり方で多くの恨みを買っていた。琴音が何よりの誇りとしていたその美貌さえも、彼への報復の巻き添えとなり、無惨に奪われたのだ。あの日以来、蒼真は小さな街ほどの規模がある敷地に別荘を建て、琴音をそこに囲い込み、一歩たりとも外へ出そうとはしなかった。七年の時を経て、使用人の隙を突いた琴音は初めてその豪華な別荘から抜け出した。だが、蒼真の携帯の位置情報を頼りに辿り着いた先は華やかな結婚式場だった。入り口の警備員が入ろうとする琴音を無愛想に遮った。警備員は冷たい口調で言った。「招待状は?今日は黒崎社長と宝生家の令嬢、宝生摩耶(ほうせい まや)様の結婚式だ。関係者以外は立ち入り禁止だ」「彼が……摩耶と結婚するですって?」琴音の瞳孔が収縮し、全身の血が凍りついた。蒼真の独占欲は狂気じみている。他の女を娶るなどあり得ない。ましてや、七年前の私たちの結婚式はこの街全体を揺るがすほどの騒ぎだったのだから。警備員は琴音を品定めするように見回し、顔を隠す仮面で視線を止めると、鼻で笑った。「当たり前だろう?まさか、お前のような顔の崩れた醜い女と結婚するとでも思ったか?社長の周りには女なんていくらでもいる。お前のような傷物はさっさと諦めるんだな。宝生様と結婚しなくとも、社長がお前を選ぶことなど絶対にない」その棘のある言葉が鋭い針となって琴音の胸に突き刺さった。琴音は羞恥と屈辱にまみれ、慌てて背を向けた。顔の醜い傷跡が人目に晒されるのを恐れ、必死で仮面を押さえた。弁解する間もなく、琴音は警備員に乱暴に突き飛ばされた。彼女はよろめいて後ずさり
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