五年前、雪山での遭難事故。私は高熱で昏睡状態だった西園寺蓮(さいおんじ れん)を背負い、三十キロの道のりを歩き通した。膝は砕け、喉は叫びすぎて潰れた。五年後、彼は政財界の実力者となったが、手柄を横取りした神崎莉緒(かんざき りお)を掌中の珠のように可愛がり、私を雑草のように扱った。私が胃がんの末期だと診断された日、莉緒が私から貧乏くさい匂いがすると嫌がった。蓮は彼女のご機嫌取りのために、私に小切手を投げつけ、「失せろ」と言い放った。私は彼を見つめ、喉の奥から込み上げる血の味を飲み込むと、金を持って吹雪の中へと背を向けた。西園寺蓮、あなたの望み通りにしてあげる。私はもうすぐ死ぬのだから。……背後でドアが閉まる鈍い音が、私たちの五年の想いにピリオドを打った。激しい雪が襟元から入り込んでくる。私は車輪が一つ壊れたスーツケースを引きずり、雪道を足を取られながら歩いた。胃がまた痙攣し始め、街灯に寄りかかって腰を曲げると、激しく嘔吐した。雪の上には鮮血が広がり、その赤さが目に刺さる。右季肋部の鈍痛があまりに酷く、私はよろめきながら道端に座り込んだ。雪が舞い散り、冷たい風が空っぽになった心を吹き抜けていく。痛みで感覚など麻痺しているはずなのに、震えが止まらない。涙が溢れそうになり、頭上の街灯を見上げたが、その暖色の光には何の温もりもなかった。五年前も、こんな吹雪の夜だった。私、宮下雪(みやした ゆき)は雪の中で蓮を背負い、一晩中歩き続けた。助けを呼ぶために喉を潰し、雪解け水を飲んで胃を壊した。だが今の彼は、指にタバコを挟み、嫌悪に満ちた目で、軽い口調でこう言ったのだ。「莉緒がお前の薬臭さを嫌がっているんだ。雪、この一億円を持って、失せろ」私はポケットから小切手を取り出し、自嘲気味に口角を上げた。一億円……彼に対する私の五年間の愚かな献身は、それなりの値がついたらしい。私は小切手を肌身離さず持っているポーチに入れた。しまっておかなければ。これは私の棺桶代だ。ゆっくりと立ち上がり、足を前に進める。ゴミ集積所の前を通りかかったとき、そこに私の荷物が山積みになっているのが目に入った。彼のために山奥の神社で手に入れたお守りは、粉々に切り刻まれていた。三日間徹夜して手編みしたカシミヤのセー
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