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第2話

Penulis: L
その狂った青年の有り余る精力が、少し羨ましかった。

聞けば彼は一ノ瀬翔(いちのせ かける)。財閥の御曹司で、カーレースの事故で頭を打ち、失明したらしい。

抗がん剤治療を終えたばかりの私は、全身の骨が軋むように痛く、壁に手をついて廊下をゆっくり歩いていた。

りんごが一つ、ちょうど私の足元に転がってきた。続いて若い看護師が泣きながら病室から飛び出してきた。

中を覗くと、青年がベッドに座っていた。床は散乱している。

彼は目に包帯を巻いたまま、手にした花瓶を投げようとしていた。口調は悪く、抑えきれない暴力性が滲み出ていた。

「消えろ!」

私は屈んでりんごを拾った。

彼の耳が動き、私の方を向く。声は陰惨だ。

「誰だ?死にたいのか?」

私はポケットからライチ味の飴を取り出した。治療後の口の中の苦味を消すためのものだ。

彼に近づき、包み紙を破り、彼が罵声を浴びせようと口を開いた瞬間に放り込んだ。

翔は固まり、耳元はようやく静かになった。

「うるさい」

叫びすぎて潰れた私の声は、低くしわがれている。

「発狂するなら家に帰ってやって。ここは病院よ。みんな生きたいの。あなたの遠吠えなんて誰も聞きたくないわ」

入り口にいた看護師が驚いて口を押さえる。

翔は飴を噛み砕き、眉間に深い皺を寄せて私の方向を探ろうとした。

「誰だ?俺様にそんな口を利くのは」

「隣の不運な患者よ」

私は背を向けて歩き出した。

「待て!」

車椅子が滑ってくる。彼は手探りで私の手首を掴んだ。掌が熱い。

「おい、このガサガサ声。ガーガー鳴くだけ鳴いて逃げる気か?俺様がそんな簡単に済ませる相手だと思うなよ!」

以前、蓮も私の声を汚いと嫌がり、それ以来私はあまり喋らなくなった。

でも今は、もうすぐ死ぬからか、そんな言葉も痛くも痒くもない。

私は手を引き抜いた。

「私、もうすぐ死ぬの。金は治療費に消えたし、家族もいない。怖いものなんて何もないわ」

翔が笑った。その不遜な顔に、新しいおもちゃを見つけたような面白がる表情が浮かぶ。

「そんな悲惨な状況で生きてるのか。面白い」

その日から、私はなぜか彼の専属盲導犬のような存在になった。

実のところ、暇な二人が連れ立っているだけだ。

私は彼にゴシップニュースを読み上げたり、ネットの陳腐な恋愛小説を読んでやったりした。

ある日、ヒーローが初恋相手のためにヒロインの腎臓を摘出しようとする場面を読んでいると、翔はカシュッという音と共に手の中の空き缶を握りつぶした。

「この男、脳みそ湧いてんのか?」

彼は悪態をつき続けた。

「俺なら、女をいじめる奴の頭蓋骨へし折ってサッカーボールにするね。こんなクズ男、生かしとく価値ねえだろ」

彼が憤慨する様子を見て、私は笑った。

「もしその男があなたの兄弟だったら?」

「やることは変わらない」

翔は胸を張って言った。

「俺様は目は見えねえが、心は盲目じゃねえ。誰が俺に良くしてくれたか、心の中じゃ分かってる」

傍観者はいつも道理をよく理解しているが、渦中にいる人間はどうしても目が見えなくなるものだ。

……

抗がん剤のせいで抜け毛がひどく、頭頂部が剥げてしまった。

治療を始めてから初めて泣いた。

私は髪を何よりも大切にし、手入れに多くの時間をかけてきた。

以前、蓮はいつも理解できないといった様子だった。

「そんな時間があるならオートクチュールでも買えよ。毎日乞食みたいな格好しやがって。俺が虐待してると思われるだろ」

私はいつも笑って何も答えなかった。彼のような御曹司にどう説明すればいいか分からなかったからだ。

髪への執着は幼少期に由来する。祖母は手間とシャンプー代を惜しんで、私がいくら頼んでも髪を伸ばさせてくれなかった。

幼い私は悟ったのだ。愛とは、金と時間と労力の積み重ねなのだと。

男の子のような髪型の私は、サラサラの長い髪を持つ他の女の子が羨ましくてたまらなかった。

次第にうつむきがちになり、髪型の話題を無意識に避けるようになった。

私の劣等感が、「異質」な髪型から来るものなのか、愛の欠落から来るものなのかは分からない。

幼い頃に得られなかったからこそ、大人になって余計に執着した。

それなのに今……

鏡の中の痩せこけた黄色い顔と、秋の落ち葉のように頼りなく残った数本の髪。

私は鏡を机に伏せ、今の自分の姿を直視できなかった。

骨の髄に染み付いた劣等感が、髪が抜けるにつれてまた増殖していくようだった。

あの日から、私は外出を、特に人混みをさらに拒むようになった。

翔が限定版のゲームコントローラーを買いにデパートに行きたいと騒ぐまでは。

ずっと引きこもっているより、ウィッグでも買いに行こうかと思い、彼に付き添った。

世間も狭いとはこのことだ。

デパートの最上階。翔の車椅子を押してエレベーターを降りた瞬間、蓮と莉緒に出くわした。

蓮は莉緒のネックレスを真剣な様子でつけてあげていた。彼女は幸せそうな顔をしている。

「蓮、このネックレス、高すぎない……?」

「これでも足りないくらいだ。お前は世界で一番素晴らしいものを持つに値する」

蓮の声が優しすぎて、耳が痛くなる。

私は反射的に翔を押して早足で立ち去ろうとしたが、遅かった。

莉緒は目ざとく、その完璧なアイメイクを施した瞳で私たちをロックオンした。

彼女は驚いたように蓮の手を引いた。

「蓮、あれ宮下雪じゃない?彼女が押してる人、誰?もう新しい男見つけたの?」

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