でもその書類は、ちょうどテーブルと壁のすき間に落ちてしまった。充はそれに気づかなかった。ごはんをあたためた後、父子はそれを食べてお腹いっぱいになった。大輔のおでこの傷はまだ治りきっていなかった。充は薬をぬってあげてから、早めにベッドで休ませることにした。けれど、大輔は彼の手をひっぱって、寝る前の読み聞かせをして欲しいとせがんだ。「パパ、ママは毎晩寝る前に、絵本と呼んでくれるんだ。じゃないと眠れないよ」しかたなく、充は絵本を取り出して、ベッドのそばで読み聞かせを始めた。どれくらい時間がたっただろうか。彼の服のすそをにぎっていた小さな手の力がやっと抜けた。すると、充はようやくほっと息をついた。息子がぐっすり眠ったのを確認すると、彼はそっと布団をかけ直し、静かに自分の寝室へもどった。ベッドに横になると、充は喉がからからに乾くのを感じた。これまで家での大輔のことは、寝る前のことも含めて、すべて菖蒲がやっていたのだ。息子がこんなに長い時間、お話を聞かないと眠れないなんて、彼は今まで知らなかった。そう思いながら、疲れがどっと押し寄せてきて、充は深い眠りに落ちた。次の日の朝。充は菖蒲の代わりに、大輔に朝ごはんを作ってあげると彼を起こしにいった。ところがドアを開けたとたん、ゆうべしっかりかけてあげたはずの布団がベッドから落ちているのに気づいた。大輔はベッドの上で、顔を真っ赤にして横たわっていた。充は胸がどきりとして、いそいで彼のおでこに手を当てたが、びっくりするくらい熱かったのだ。充はぐずぐずしていられないと、すぐに大輔を抱きかかえて病院へかけこんだ。向かう途中も、彼は何度も大輔の名前を呼びつづけた。このとき大輔はもうろうとしていて、体じゅうが苦しかった。そして無意識に「ママ」と呼んでいた。息子の苦しそうな様子を見て、充は自分を責めながら、走るペースをまた少し速めた。そして、病院に着いて体温を測ると、熱はもう40度近くまで上がっていた。大輔に点滴をしていると、医師はやっとほっとした様子で充のほうを見た。その口調は、明らかに彼を責めるものだった。「いったい何をしてたんですか?これは夜中に体を冷やしたんでしょう。子供の高熱は危ないんですよ。下手したら後遺症が残る可能性があります。この時期は天気
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