表彰された日、今井充(いまい みつる)はテレビ報道の生放送で、赴任地に同行していた同僚医師、陣内蛍(じんない ほたる)へ、情熱的な愛を告白した。「陣内さんがいなければ、俺はとっくに嵐に飲まれて海で命を落としていました。彼女は、俺の命の恩人であり、誰よりも大切な人なんです」一方で、そのころ彼の妻である今井菖蒲(いまい あやめ)は、充の両親の世話と子育てに明け暮れていた挙句の果て、長年の無理がたたって、すでに虫の息でベッドに横たわっていたのだった。そんな彼女は20年も尽くしてきたのに、夫から感謝の言葉ひとつももらえないなんて、思ってもみなかった。そして、追い打ちかけるかのように、息子・今井大輔(いまい だいすけ)の一言が、彼女の心を砕け散る、最後の一撃になった。「お母さん、見てよ。お父さんと蛍おばさん、すっごくお似合いだよね。だからもう、早くお父さんと別れてあげなよ」それを聞いて、菖蒲は怒りと絶望のあまり、深い後悔に苛まれながら息を引き取った。次に目を開けたとき、彼女は充が海上基地へ赴任する、その前日に戻っていた。今度こそ、夫の帰りを待ち続けるだけで、名もなき存在として人生を終わらせたくない、そう菖蒲は思った。そうだ、自分には、大空を目指すという夢があったんだ。……特殊部隊の基地。責任者・松浦弘(まつうら ひろし)が、厳しい表情で菖蒲を見ていた。「今井さん、まずは試験合格おめでとう。君はこの任務において、初の女性パイロットとして就任することができた!だが、パイロットというのは厳しいポジションだ。合格してからも、君にとっての長くてきびしい訓練が待っている。本当に覚悟はできているのか?」弘が心配しているのは分かった。でも、菖蒲の瞳は固い決意に燃えていた。「女性だって、実力はあります。私も任務遂行のために、貢献したいんです。それに、父は生前、この国で優秀なパイロットでした。父の名に恥じぬよう、必ず成し遂げてみせます!」それを聞いて、弘は彼女の言葉に納得し、感心したようにうなずいた。「よく言った!今井さん、ただ……」弘は何かを思い出したように、少し言いにくそうに続けた。「そうなると、15日後、君たちは京市で訓練が始まる予定だが、ご主人もまもなく他の現場へ赴任するはずだ。夫婦が離ればなれになるのに
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