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第15話

Penulis: 星摘み人
充と大輔は、3年ものあいだ恋焦がれた人に、まさかこんな所で会えるなんて思ってもみなかった。

まだ子供の大輔が、まっさきに我慢できなくなった。

3年ぶりに会った母親を見て、すぐに目をうるませて、その胸に飛び込もうとした。

「ママ、会いたかったよ!」

その状況に菖蒲は心の中でため息をついた。こんな偶然があるなんて。

今回仕事の場所が、ちょうど充のいる基地だったのだ。

しかし、そう思いながらも大輔が胸に飛び込んでくる寸前、菖蒲は啓太の手を引いてさっと身をかわした。

大輔は信じられないという顔で彼女を見つめては、目にひどく傷ついた色が浮かんだ。

「ママ、どうしてよけるの?3年も会ってなかったのに、僕に会いたくなかったの?」

菖蒲は啓太に大人たちのいざこざを知られたくなかったので、しゃがんで彼に話しかけた。

「啓太、ママはちょっと用事があるの。パパと先に帰っててくれる?」

啓太は菖蒲のケガが心配だったけど、いつも彼女の言うことを聞く子なので、こくりとうなずいた。

拓海も何も言わず、啓太をひょいと抱き上げると、向かいの親子をじっと見つめた。

「待ってるから」

二人が去っ
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    そう言うと、菖蒲は背を向けて立ち去った。こうしてその場には、大人と子供の寂しげな二つの影だけが残された。大輔は、悲しそうに充の手を握った。「パパ、ママはもう本当に、僕たちのこといらないの?」そう聞かれて、充もくちびるをわずかに動かした。「ママはそんなことないよ」と、息子に言ってやりたかった。でも、喉に大きな石でも詰まったみたいに、まったく声が出なかった。それから充たちに会わないように、菖蒲は毎日、寮と仕事場の往復をするだけの生活を続けた。仕事中、二人のじっと見つめる視線を感じることもあったけど、彼女は知らないふりを貫いた。そして飛行訓練が行われた日、菖蒲は青いフライトスーツに身を包み、ヘルメットを左手に持って、引き締まった表情で寮を出た。これは彼女にとって単なる飛行訓練じゃない。この3年間の成果を、上の人たちに見せるための大切なテストでもあったんだ。絶対に、自分の力をすべて出し切らなければ。だが、寮を出ると、そこで待っていた充と大輔の姿が目に入った。菖蒲は視線をそらして、そのまま通り過ぎようとしたけど、充に呼び止められた。「菖蒲、すまなかった」菖蒲は、何を言われたのか分からないという顔で彼を見た。充は、ひきつったような苦笑いを浮かべ、重い口を開いた。「昨日の夜……夢を見たんだ。夢の中で、俺はお前と大輔を残して、計画通り蛍を基地に連れてきた。それから、俺は約束を破ってお前を迎えに行かなかった。そのせいで、お前に一生つらい思いをさせたんだ。そして、俺が表彰された時でさえお前の名前は出さずに、蛍にだけ感謝を述べた」それを言い終わる頃と、充の目は真っ赤に充血させた。はじめは、前世がどうとか、そんな話を信じていなかった。でも昨日の夢を見て、菖蒲が自分の元を去った理由を考えあわせると、ピンときた。たぶん彼女も同じ夢を見て、だから離婚を選んだんだ。自分の運命を変えるために。菖蒲と再会した当初、充は許してくれるまで何度でも謝ろうと、心に決めていた。彼はもう二度と、菖蒲と離れたくなかったからだ。でも今朝、目が覚めてからずっと、夢で見た光景が頭から離れない。死ぬ間際の菖蒲の、あの悔しそうな目を思い出すたびに、充の胸はぎゅっと痛んだ。そうか、自分と息子は、本当に菖蒲の人生をめちゃくちゃ

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    充と大輔は、3年ものあいだ恋焦がれた人に、まさかこんな所で会えるなんて思ってもみなかった。まだ子供の大輔が、まっさきに我慢できなくなった。3年ぶりに会った母親を見て、すぐに目をうるませて、その胸に飛び込もうとした。「ママ、会いたかったよ!」その状況に菖蒲は心の中でため息をついた。こんな偶然があるなんて。今回仕事の場所が、ちょうど充のいる基地だったのだ。しかし、そう思いながらも大輔が胸に飛び込んでくる寸前、菖蒲は啓太の手を引いてさっと身をかわした。大輔は信じられないという顔で彼女を見つめては、目にひどく傷ついた色が浮かんだ。「ママ、どうしてよけるの?3年も会ってなかったのに、僕に会いたくなかったの?」菖蒲は啓太に大人たちのいざこざを知られたくなかったので、しゃがんで彼に話しかけた。「啓太、ママはちょっと用事があるの。パパと先に帰っててくれる?」啓太は菖蒲のケガが心配だったけど、いつも彼女の言うことを聞く子なので、こくりとうなずいた。拓海も何も言わず、啓太をひょいと抱き上げると、向かいの親子をじっと見つめた。「待ってるから」二人が去った後、大輔はたまらずに聞いた。「どうしてあの子がママのこと『ママ』って呼ぶの?」菖蒲は静かに口を開いた。「あの子は私の子供だから、当然ママって呼ぶのよ」その言葉を聞いて、大輔の目から涙がこぼれそうになった。わけがわからなかった。ママの子供は自分のはずだ。たった3年会わなかっただけで、どうしてママは他に子供ができたんだろう?充もそれを見て、複雑な表情で言った。「菖蒲、あの子は見たところもう5歳くらいだ。お前が本当の母親のはずがない」菖蒲は一瞬、黙りこんだ。たしかに、彼女は啓太の本当の母親ではなかった。3年前、京市での訓練を終えたとき、オフィスから胸が張り裂けるような子供の泣き声が聞こえてきたのだ。母親としての本能だったのかもしれない。菖蒲は声がする方へ向かった。ドアを開けると、拓海がてんてこまいになりながら一人の子供をあやしているところだった。その子が、啓太だった。子供が気を失いそうなほど泣いているのを見て、菖蒲は自分から手を伸ばし、優しく抱きしめてあやした。しばらくすると、啓太はついに泣き止んで眠ってしまった。拓海から聞い

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    そして3年後、海上基地。菖蒲たちはヘリコプターから降りてきた。地面に足が着いたとたん、ある男の子が彼女の足に抱きついてきた。「ママ、ヘリコプターでぜんぜん泣かなかったよ。えらかったでしょ?だから、なにかご褒美くれてもいいんじゃない?」菖蒲はしかたないな、という顔で啓太(けいた)を抱き上げると、彼の鼻を愛情たっぷりに、きゅっとつまんだ。「はいはい。啓太は勇敢な男の子だもんね。ママにどんなご褒美をしてほしい?」啓太はうーん、と考えるふりをして、それからぱっと目を輝かせた。「そうだ!ママを疲れさせたくないから、クッキーを食べさせてくれればそれでいいよ」啓太のちゃっかりした物言いに、菖蒲は思わず笑ってしまった。この3年間、この子は彼女の作るごはんが大好きで、体重はうなぎのぼりだった。だから、成長に影響が出ないように、菖蒲はわざと糖分や塩分、油分を控えた健康的な食事を作って、体重を管理してあげていた。クッキーみたいに砂糖やバターをたくさん使ったものはもうずいぶん作ってあげていなかったのだ。啓太もきっと食べたくて仕方ないだけなのに、口では誤魔化そうとするんだから。そう思って、菖蒲は彼のおでこを軽くこつんと叩いた。「ほんと、こまっしゃくれた子ね」下心を見抜かれて、啓太はしゅんとしてしまった。彼は自分のお腹をさすりながら、小声でぶつぶつ言った。「僕のお腹、かわいそう。おいしいもの、ぜんぜん食べさせてもらえないんだもん」それを見て、菖蒲はぷっと吹き出してしまった。彼女は啓太の頭をなでて、やさしい声で言った。「じゃ、今晩作ってあげる」すると啓太の目がぱっと輝いた。ぷくぷくした小さなこぶしを突き上げて、大喜びしたのだ。「やったー!ママ大好き!」啓太の嬉しそうな様子を見て、菖蒲も自然と口元がゆるんだ。3時間のフライトの疲れも、すっかり吹き飛んだような気がした。すると、隣から慣れ親しんだ男性の声がした。「そんなに甘やかしてたら、いつになったら標準体重に戻るんだか」菖蒲は、困り顔の河野拓海(こうの たくみ)を見てくすっと笑った。「たまになんだから、大丈夫よ」拓海はため息をついた。彼はわかっていた。菖蒲が啓太のお願いを断れないことを。それと同様に自分も彼女を止めることはできないのだ。

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    ガンッ。大輔の言葉は、まるで金槌のように充の胸を打ちつけた。離婚……届?自分が、離婚届にサインしたっていうのか?そういえば、書斎で仕事をしていると、大輔が紙を持ってきてサインを求めてきたことがあった。てっきり学校の書類か何かだと思い込み、ろくに中身も見ずに名前を書いてしまったんだ。まさか、あれが離婚届だったなんて。つまり、あのあと菖蒲はただそれを役所に提出するだけで、簡単に離婚できてしまうということだ。この数日いなかったのも、ただの家出じゃなかったんだ。本気でこの家を出て、自分たち親子を捨てるつもりだったんだ。ショックを受けている充の顔を見て、大輔の胸の不安はますます大きくなった。「パパ、僕が悪かったよ。ママに行かないでほしい。ねぇ、ママを連れ戻してきてよ」わんわん泣きじゃくる息子を見て、充は激しい自責の念にかられた。もし自分が、蛍とちゃんとした距離を保っていれば、息子が彼女に懐くこともなかったし、菖蒲が絶望して出ていくこともなかったはずだ。結局のところ、すべて自分のせいだ。それでも、彼は心のどこかではまだ、かすかな希望を捨てきれずにいた。まだ離婚届が受理されたわけじゃない。きっと菖蒲も決心がついていなくて、まだ怒っているだけかもしれない。充は慌てて息子をなだめた。「大輔、心配するな。ママはきっと帰ってくる。俺たちは……」そこまで言いかけた時、部屋の隅にある何かの角が、充の目に留まった。彼はテーブルをずらし、そっとそれを手に取った。書類をハッキリと目にした瞬間、彼は凍りついた。それはまぎれもなく、役所の印が押された離婚届受理証明書だった。充は息をのんだ。菖蒲は、家を出ていったその日に、もう役所で手続きを済ませていたのだ。彼女は、もう本当に帰ってくるつもりがないのだ。そう思いながら充は、大輔を強く抱きしめた。今まで何があっても涙一つこぼさなかった男が、今は目を真っ赤にし、声を震わせていた。「大輔、一緒にママを探しに行こう。そして、ちゃんと謝るんだ」菖蒲と離婚してしまっては、もう公に彼女の行方を探させる大義名分はなかった。途方にくれた充はもう、大輔を抱きかかえ、弘のオフィスのドアを叩くしかなかった。一方で、生気のない顔をした父子を見て、弘はひどく驚いた。「

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    バン。そこまで聞いた充は、ドアを蹴り開けた。そして、燃えるような目で、得意げな顔の女をにらみつけた。「蛍、まさか、君がこんなひどい女だったなんてな!」蛍は友達とおしゃべりに夢中で、まさか充が突然入ってくるとは思っていなかった。彼女の顔は真っ青になり、ひどく動揺していたが、それでも必死に落ち着いたふりをして言い訳をした。「充さん、聞き間違いですよ。冗談で言ってただけで、私がそんなことするわけないじゃないですか?」すると、「あなたがやったんだ!」大輔は目に涙をいっぱいためて、怒ったように蛍を指さした。「この前、もしあなたが僕をママの傍から連れて行かなかったら、頭なんて打たなかったんだ!僕は、パパがあなたを怒るのがかわいそうだと思ってたからママのせいにしたのに、あなたがわざとやったんだなんて!ひどい!」病気になっている間、大輔の心はもう菖蒲のほうに傾いていたが、それでも蛍も自分には優しかったから彼女のことは好きだった。それなのに、まさか全部がうそだったなんて。それを聞いて、充はギリッとこぶしを握りしめながら、険しい目つきで、歯を食いしばって言った。「君だったのか。大輔にけがをさせたのは!蛍!俺は君のお兄さんの遺言を守って、ずっと面倒を見てきたつもりだ。なのに、君は俺の息子を危険な目にあわせ、妻を追い出そうとしたんだなんて!」蛍は慌てて周りを見回した。誰か助けてくれる人はいないかと思ったのだ。でも、医局にいたほかの人たちは、まずいと思ってとっくにその場を離れたから残っているのは、彼女ら三人だけだった。目の前の親子がすべてを知ってしまった。蛍は恐怖におののき、震える声で言い訳を始めた。「充さん、あなたのことが大好きで、あなたと結婚したい、それだけは本当の気持ちなんです。大輔くんのことは……私、魔が差したんです。あとですごく後悔しました。だから、毎日ちゃんとお世話もしたでしょう?これからは絶対に埋め合わせをしますから。お願い、今回だけ許してください」しかし、充は冷たく笑うと、その大きな手で彼女の首をわしづかみにした。「許す?じゃあ、俺の家族が受けた心の傷は、誰がどうしてくれるんだ?」そう言って、彼の手に込められた力は、どんどん強くなっていった。蛍は必死で彼の腕を叩いて、なんとか手を離させよう

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    でもその書類は、ちょうどテーブルと壁のすき間に落ちてしまった。充はそれに気づかなかった。ごはんをあたためた後、父子はそれを食べてお腹いっぱいになった。大輔のおでこの傷はまだ治りきっていなかった。充は薬をぬってあげてから、早めにベッドで休ませることにした。けれど、大輔は彼の手をひっぱって、寝る前の読み聞かせをして欲しいとせがんだ。「パパ、ママは毎晩寝る前に、絵本と呼んでくれるんだ。じゃないと眠れないよ」しかたなく、充は絵本を取り出して、ベッドのそばで読み聞かせを始めた。どれくらい時間がたっただろうか。彼の服のすそをにぎっていた小さな手の力がやっと抜けた。すると、充はようやくほっと息をついた。息子がぐっすり眠ったのを確認すると、彼はそっと布団をかけ直し、静かに自分の寝室へもどった。ベッドに横になると、充は喉がからからに乾くのを感じた。これまで家での大輔のことは、寝る前のことも含めて、すべて菖蒲がやっていたのだ。息子がこんなに長い時間、お話を聞かないと眠れないなんて、彼は今まで知らなかった。そう思いながら、疲れがどっと押し寄せてきて、充は深い眠りに落ちた。次の日の朝。充は菖蒲の代わりに、大輔に朝ごはんを作ってあげると彼を起こしにいった。ところがドアを開けたとたん、ゆうべしっかりかけてあげたはずの布団がベッドから落ちているのに気づいた。大輔はベッドの上で、顔を真っ赤にして横たわっていた。充は胸がどきりとして、いそいで彼のおでこに手を当てたが、びっくりするくらい熱かったのだ。充はぐずぐずしていられないと、すぐに大輔を抱きかかえて病院へかけこんだ。向かう途中も、彼は何度も大輔の名前を呼びつづけた。このとき大輔はもうろうとしていて、体じゅうが苦しかった。そして無意識に「ママ」と呼んでいた。息子の苦しそうな様子を見て、充は自分を責めながら、走るペースをまた少し速めた。そして、病院に着いて体温を測ると、熱はもう40度近くまで上がっていた。大輔に点滴をしていると、医師はやっとほっとした様子で充のほうを見た。その口調は、明らかに彼を責めるものだった。「いったい何をしてたんですか?これは夜中に体を冷やしたんでしょう。子供の高熱は危ないんですよ。下手したら後遺症が残る可能性があります。​この時期は天気

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