息子の陽翔(はると)がもうすぐ結婚するというのに、本来なら一緒に準備を手伝うはずの夫の高橋圭一(たかはし けいいち)は、最近ずっとスマホばかり見てぼんやりしていた。その様子に私は不快になり、圭一が注意をそらした隙に、彼のスマホをこっそり見た。【キミはもう帰国しないと聞いたから、俺は言われるがまま好きでもない女を妻にした。もしキミが帰ってくると知っていたら、俺は……】相手からは【私はもう二度と離れない、あなたに会いたいわ】と返事が来ていた。私は何事もなかったようにスマホを元に戻した。圭一がスマホを開くのを見ていると、彼は突然子供のように涙をぽろぽろとこぼし始めた。私の心は完全に冷え切り、陽翔の結婚式が終わった後、離婚を切り出したのだった。「陽翔、私はあなたとお姉ちゃんを産んで育て上げて、やっとあなたが家庭を持った。母さんもこれからは自分の人生を過ごしたいのよ」嫁いできたばかりの陽翔のお嫁さんは意味がわからない様子で、ただ陽翔の脇腹をつつくばかりだった。陽翔は険しい顔で言った。「母さん、良い歳して父さんと離婚するって?俺と瑠奈が結婚したばかりなのに離婚を言い出すだなんて、側から見れば俺と瑠奈が母さんに何かしたみたいじゃないか。父さん、そうだよな?」ソファーに座りスマホを見つめていた圭一は、ようやくまぶたをあげ、今日初めて私を正面から見て言った。「明日着る服、アイロンはかけてあるのか?」私は反射的にアイロンをかけに立ち上がりかけたが、ぐっと足を止めて返した。「圭一、あなた、私に何か言うことはないの?」圭一は少し考えてから、首を横に振った。私は唇を強く噛み締め、下唇にじんわり血の味が広がった。陽翔の結婚式で、本来なら私と肩を並べるはずの圭一は、私の知らない女を隣に連れてきた。式の間ずっと甲斐甲斐しく世話を焼き、水でさえ温度を確かめてからその女に口にさせていた。私は親戚や友人からの視線に耐えながら、そんな圭一の行いを笑顔でやり過ごした。結婚して三十年、夫婦仲は淡々としていたが、こんなふうにみんなの前で圭一が私の顔を潰すのは初めてだった。私は圭一を見つめて叫んだ。「私たちの息子の結婚式だと言うのに、私の席に別の女を連れてきておいて、なんの説明もないの?」圭一はようやくはっとして、めんどくさそうな目を向け
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