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第3話

Auteur: 佐藤まろ
私が一人で台所での作業を終えた時には、もうすぐ七時になろうとしていた。

最後の料理を食卓に並べた瞬間、陽翔が私を傍へ引っ張り、ごく自然な仕草で五千円を押し付けてきた。

私は意味がわからず戸惑った。

陽翔は何か言いたげに口を開いたが、どう言えばいいのが迷っているようだった。

その時、圭一がこちらを見て、ゆっくりと歩いてきて陽翔を横に押しやり、私を見て言った。「葵、外へ行ってどこかで朝ごはんを食べてこい」

私は圭一を見上げ、信じられない思いで聞き返した。「今なんて言ったの?

早朝からずっと朝ごはんを作っていた私に、外で食べてこいと?」

圭一は頷いた。

私が陽翔を見ると、彼は苦笑いを浮かべながら場を収めようとして言った。「そんな大げさな話じゃないよ、母さんだって父さんと玲さんの関係を知らないわけじゃないんだしさ。母さんがいると、玲さんが気まずいだろ?」

私は低く笑って言った。「つまり私を追い出して、あなたのお父さんに初恋の相手との時間を思う存分味わせてやりたいってことね?」

圭一の顔が一気に曇った。「息子の前で何勝手なことを言っている?」

陽翔は私と圭一の顔を交互に見て、ため息をついた。「母さん、お願いだからさ。もういい歳なんだし、何を怒ることがある?父さんと玲さんの間に何かあるなんてありえないだろ?頼むよ、俺のキャリアのためにも、少しは考えてくれよ」

私は瓜二つの夫と息子を見て思わず笑ってしまった。

若い頃は圭一のために我慢しろと言われ、歳を取ったら陽翔のために我慢しろと言われる。

私はいつ自分のために生きたことがあっただろうか。

もし今、自分のことを考えないのならば、私は一生自分のために生きることはできないだろう。

私は目を伏せ、寝室に戻って服を着替え、運転免許証とスマホを持って家を出た。

今の時代、離婚の手続きはそう簡単じゃないし、家族の反対だってあるだろう。

それでも私はやらなければならなかった。

ナビを頼りに私はとある法律事務所へ向かった。

迎えてくれたのは若い女性の弁護士で、にこやかに私を見た。「お客様、どうして離婚しようと思ったのですか?あなたの年齢でこんなに勇気がある人は本当に珍しいですよ」

私はかすかに笑い、スマホで家の監視カメラの映像を開いて彼女に見せた。

もう離婚を決めたのだから、隠す必要は何もない。

画面には四人が食卓を囲み、楽しそうに会話している姿が映っていた。

圭一は玲さんの茶碗に次々と料理を取り分け、陽翔は玲さんの空になったコップに何度もお茶を注いでいた。

側から見れば、きっと、優しい母と親孝行な子供のいる、幸せな四人家族にしか見えないだろう。

私は弁護士の戸惑った表情を見ながら、画面の圭一を指差した。「これが私の夫です」

そして玲さんを指差した。

「これが夫の初恋の相手です」

弁護士の女性は一瞬固まり、次の瞬間、机を叩いて立ち上がった。「最低、この歳で不倫とか、まともじゃないですよ」

彼女は怒り心頭で、私に証拠を全部集めて圭一を無一文で追い出すようにと息巻いた。

私は苦笑いして、慌てて彼女を宥めた。

「彼を無一文にする必要はありません。私はただ、キッパリ離婚したいだけです。自分のための人生を過ごしたいんです」

弁護士の女性は私を見つめ、突然涙をこぼした。涙を拭うと、私のために離婚協議書を作り始めた。

彼女が差し出した書類に、私は迷いなくサインした。

帰ろうとした時、女性は私の手を握った。「もし私の母にも、あなたのような勇気があったら……」

私は彼女の手をそっと叩いた。「きっと勇気を持てる日が来ますよ」

法律事務所を出た途端、私は立ち尽くした。

家には戻れない。では私はどこへ行けば良いのだろう?

そう考えた瞬間、電話が鳴った。

圭一からだった。

心臓が激しく脈打ち、嫌な予感がした。

それでも私は電話に出た。

「葵、お前、料理に何を入れた?玲がお前に殺されかけているんだぞ」
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