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第10話

Author: 佐藤まろ
圭一の目から、あの狡猾な光がすっかり消えていた。彼は重い足取りで家へ戻るしかなかった。

ドアを開けると、玲さんはテレビを見ているところだった。

圭一を見ると笑顔になり、私を見ると、その笑顔は一瞬で冷え切った。

そして、なにか思い出したように声を上げた。「あなたたち離婚しに行くの?」

私は黙って頷いた。

圭一は運転免許証を取りに部屋へ向かい、私はリビングへ一歩入った。かすかに臭いが漂ってきて私は眉をひそめた。

だがもうこの家に住むわけでもないし何も言わなかった。

玲さんが立ち上がってわざとらしく顎を上げた。「葵さん、あなたも十分きれいだけど、やっぱり私の方が美人ですよね。そうじゃなきゃ、圭一さんが私のことを何十年も忘れられないわけないもの。

あなたたちが離婚したら、私たちすぐに結婚するんです。結婚式にはぜひ出席してくださいね」

私が玲さんと会ったのはこれが三度目。

その三度とも、彼女は私に挑発してきた。

前の二回は耐えた。でも今回はもう我慢したくない。

私は手を振り上げ、思い切り彼女の頬に平手打ちをした。

玲さんは怒った目で、反撃しようと手を上げたが、私はその手首を掴み、反対側の頬にもしっかりと平手打ちの跡を残した。

それから私は、手についた何かを払うような仕草をして笑った。「どういたしまして。ついでよ、ついで」

その時、圭一が部屋から出てきた。

玲さんは涙を作り、前回のように彼の胸へ飛び込もうとした。

だが圭一は玲さんを突き放した。彼の目に映っていたのは私だけだった。

時はとうに過ぎ去り、私の中の薄い好意などもう跡形もない。圭一がいまさらの後悔や情を向けてきたって、私にとってはただの重荷でしかなかった。

私は冷たく圭一を見て言った。「行きましょう」

圭一は肩を落とし、私と一緒に役所へ向かった。

道中、彼は一度も私の名を呼ばず、一度も引き止めようとしなかった。

離婚届受理証明を受け取った瞬間、私は深く、長い息をついた。

優菜に離婚届受理証明書の写真を送ると、優菜は私の新しい生活が始まったお祝いだと言って、3回に分けてお祝い金を送ってきた。

圭一が私の名前を呼んだ。

私は聞こえなかったふりをして歩き出した。

私は飛行機に乗らなければならない。昔話に付き合っている暇はなかった。

私は砂漠へ行った。草原へも行った。

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