そして今回、ちょうど支払いを済ませた海男は、ギャラリーの入り口で、見慣れた人影に遮られた。「藤原さん、もう私の絵を買わないで」日影が彼の前に立ちはだかった。シンプルなベージュのニットを着て、まるで初対面の他人に話すかのような、平静だが確固たる口調だった。「油絵は、私の情熱であり、自分自身を確立するための道です。あなたがこのようにすべてを買い占めることは、私の生活を乱すだけでなく、私の情熱そのものを……汚す行為です」海男の腕が一瞬、硬直した。抱えていた絵のキャンバスが、かろうじて落ちずに済んだ。彼は慌てて腕に力を込め、指の関節も力の入れすぎで白くなった。彼は日影の目を見つめた。そこには、もはや嫌悪や怒りさえもなかった。ただ、はっきりと線引きされた、他人に対するような、徹底した「距離感」だけがあった。彼は、絵を通してさえ、こっそり彼女に近づく資格を、彼女自身の手によって、きっぱりと奪われたのだ。その日以来、海男は二度と、彼女の絵を買うことはなかった。帰国後、海男は別荘で一番広い客間を片付け、余分な家具をすべて撤去した。残されたのは、イーゼル、並べられた絵の具、そして壁に整然と掛けられた一連のキャンバスだった。先生はいない。彼は以前に購入した日影の絵を前に、少しずつ、模写していった。バアナ町の初雪に覆われた街角、活気あふれる市場の情景、スタジオの窓から眺める夕焼けの空……最初は線が歪み、色調もよく間違えた。けれど、彼は少しも苛立たなかった。むしろ、ある種の厳粛な「儀式」を執り行っているかのようだった。まるで筆を進めるごとに、日影が生きる世界へと、少しずつ近づいていくような気がした。彼は模写した絵を、部屋の壁一面に掛けていった。ドアを開けるたびに、見慣れた光景を見ると、まるで日影が今にもイーゼルの前に座り、絵筆を手に、真剣に色を調合している姿が見えるような錯覚に陥った。あっという間に、二年の歳月が流れた。海男が再びバアナ町を訪れた時、彼の人生で最も忘れられない光景を目にした。日影が純白のウエディングドレスを身にまとい、志真の腕にしっかりと寄り添い、ゆっくりと、教会へと歩みを進めていく姿だった。彼女のベールが優雅になびき、顔には曇りひとつない、輝くような笑みが浮かんでいた。その目に宿る光は、海男が
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