入江日影(いりえ ひがげ)と藤原海男(ふじわら うみお)が結婚して七年目になる。妻というより、むしろ彼女は海男が性欲の捌け口を満たすための相手でしかなかった。激しい情事の後、彼はそっと彼女の髪を撫でながら言った。「三十になっても、まだ彼女が見つからなかったら……その時は君と真面目にやっていくよ」日影は知っていた。海男の心には、ずっと誰かが住みついていることを。それは二十数年前、海で溺れかけた彼を救った少女だという。あの時、彼は「大きくなったら、必ず迎えに来る」と少女に誓ったのだ。日影はこれまで何度も聞いてきた。「もし……ずっと見つからなかったら?」しかし、七年間、問い続けてきたその問いに、海男は一度も答えてくれなかった。けれど今日、彼女はついに待ち望んだ答えを手にした。思わず胸が高鳴る。今夜の零時を過ぎれば、海男は三十歳になるのだから。そのため、日影は郊外の邸宅で、盛大なパーティーを開いた。たった今、二人はその邸宅の最上階で結ばれた。一時間後、この邸宅の前で、彼と手を取り合って新たな一歩を踏み出すはずだった。だるく痺れた腰を支えながら、そっと彼の喉仏に唇を寄せる。瞳がかすんで、「待っててね」と日影は囁いた。一時間後。フィッシュテールのドレスをまとい、用意しておいたペアの指輪をしっかりと握りしめていた。今夜を過ぎれば、二人は過去を捨てて、本当の始まりを迎えられる――と彼女はそう信じていた。振り向いたその時、視界に飛び込んできたのは、海男がもう一人の女性を強く抱きしめている姿だった。普段は冷たく、笑顔さえ惜しむようなあの男の目に、狂おしいほどの喜びが輝いていて、声さえ震えていた。「やっと……やっと見つけた!」女性は白いワンピースを着て、驚いた子鹿のような瞳をしていた。日影はその場に釘付けになった。指先の温もりが、一瞬で氷のように冷めていくのを感じながら。なんと、それは小林祢々(こばやし ねね)――入江家に務める家政婦の娘だった。彼女は幼い頃から母に連れられて入江家に住み、日影の父も我が子のように可愛がり、七年前には海外留学の費用まで援助していた。ただ、気性が合わず、二人の関係はいつもどこかよそよそしかった。祢々はおずおずと言った。「藤原社長……?あのう、人違い
Read more