俺はいわゆる動画配信者だ。まだ登録者数は二百人程度だが、最近始めた心霊スポット巡りがニッチな層にマッチしたみたいで、ここ数日は確実に登録者数が増え続けている。「はい! 今日はこちら、『出る』という噂で有名な古民家にやって来ました!」 俺はスマホのカメラに向かって元気にアピールする。今日訪れたのは、最近になって妙な噂が立ち始めた古い家だった。俺のような動画配信者は掃いて捨てるほどいる。要はいかに早くトレンドを先取りするか、そしてそれを続けられるかにかかっている。ぶっちゃけ登録者数が増えないのに動画の編集をするなんて、むちゃくちゃ苦痛な作業だ。だが、憧れの有名配信者達だって、それを乗り越えてきたはずだ。俺はそう自分に言い聞かせ、十月初旬にしては暑い昼下がり、古民家の門をくぐった。 俺には霊感はない……と思う。しかし、その家の垣根で囲われた古びた木製の門をくぐった瞬間、空気が変わった。湿っぽく重い空気に加え、僅かだが何かが腐ったような微かな異臭が鼻をついた。心なしか日差しも弱くなった気がした。それは庭に生えている木の木陰に入ったせいではない。本能的に何かが“やばい”と感じた。肌にまとわりつく湿度の中に、鉄錆のような――血の匂いが混じっている気がしたのだ。「なんだろう……なんとも言えない雰囲気が漂っています。……小並感ですみません。本当にお化けが出そうな、そんな雰囲気です」 口では軽口を叩きながらも、俺は背筋が冷え、鳥肌が立つのを感じていた。まだ暑いってのに……。 俺は玄関の扉に手をかけ、開けてみようとした。流石に鍵がかかっているらしく、ガチャガチャと引き戸の扉を動かそうとしたが、多少揺れはするものの開かなかった。ここで蹴破ろうかとも考えたが、これはライブ配信だ。あまりやり過ぎると、視聴者が引いて離れていく恐れもある。そう考え、家の周りを一通り見てからにしようと決めた。 「……やはり、鍵がかかっていますね。とりあえず別の入口がないか見回ってみましょう」 家の裏に回ってみると、今どきの家にはまず無い、勝手口があった。 「……あっ、勝手口っていうんでしょうかね? こっちは開いているのかもしれませんね」
Terakhir Diperbarui : 2025-12-14 Baca selengkapnya