菊千代の様子に、俺は警戒を強めた。薫は差し出した“匣”を手に持つ。「最近、こいつの“中”から“声”が聞こえ始めた」 男が言うと、薫は好奇心に目を輝かせ、「へえー、そうなんですか」と言って、耳を近づけ――「薫、その“匣”に……」 その様子に、俺は薫の肩に手をかけ、警戒するよう声をかけた時だった。 薫は突然、糸が切れた操り人形のように、一気に脱力して倒れかかる。手に持っていた“匣”は手からこぼれ落ちた。俺は慌てて薫を抱きとめ、なんとか休憩用に用意していたパイプ椅子に座らせた。「おい、薫! しっかりしろ!」 返事はない。呼吸はしているが、まるで中身だけがどこかへ消えてしまったような、不気味な虚脱状態だった。『クゥゥ……』 バッグの中の菊千代が、怯えたような、それでいて困惑したような声を漏らす。相手が「敵」なら飛び出すはずの菊千代が、動けないでいる。 俺は、倒れた薫を見て笑みを浮かべる男を睨みつけた。「お前……薫に一体何をした!」 男は、降参するかのように両手を上げ、「彼女の魂は、その箱の中にある。大丈夫。死にはしない」「ふざけるな! アンタは一体、誰なんだ?」 「まあ、怪しいもんじゃない。私の名は神代 玄道。君に頼みたいことがあってね」 そう言って懐から名刺を差し出した。その仕草は優雅ですらあり、ただの呪物マニアとは思えない威圧感を放っていた。「で、頼みってのは、なんだ?」 俺は、神代を睨みつけ、問いただした。「まあ、そういきり立てないでくれると有り難い。彼女を傷つける意図はないんだ」 警戒を解かない俺を見て、神代は諦めたようにため息をついた。「&hellip
Last Updated : 2025-12-24 Read more