All Chapters of 霊聴古物商 槻島蓮の怪異ファイル: Chapter 11 - Chapter 20

28 Chapters

ファイル2 第2話:奪われた魂と一週間の期限、突きつけられた“禁書”の回収

 菊千代の様子に、俺は警戒を強めた。薫は差し出した“匣”を手に持つ。「最近、こいつの“中”から“声”が聞こえ始めた」 男が言うと、薫は好奇心に目を輝かせ、「へえー、そうなんですか」と言って、耳を近づけ――「薫、その“匣”に……」 その様子に、俺は薫の肩に手をかけ、警戒するよう声をかけた時だった。 薫は突然、糸が切れた操り人形のように、一気に脱力して倒れかかる。手に持っていた“匣”は手からこぼれ落ちた。俺は慌てて薫を抱きとめ、なんとか休憩用に用意していたパイプ椅子に座らせた。「おい、薫! しっかりしろ!」 返事はない。呼吸はしているが、まるで中身だけがどこかへ消えてしまったような、不気味な虚脱状態だった。『クゥゥ……』 バッグの中の菊千代が、怯えたような、それでいて困惑したような声を漏らす。相手が「敵」なら飛び出すはずの菊千代が、動けないでいる。 俺は、倒れた薫を見て笑みを浮かべる男を睨みつけた。「お前……薫に一体何をした!」 男は、降参するかのように両手を上げ、「彼女の魂は、その箱の中にある。大丈夫。死にはしない」「ふざけるな! アンタは一体、誰なんだ?」 「まあ、怪しいもんじゃない。私の名は神代 玄道。君に頼みたいことがあってね」 そう言って懐から名刺を差し出した。その仕草は優雅ですらあり、ただの呪物マニアとは思えない威圧感を放っていた。「で、頼みってのは、なんだ?」 俺は、神代を睨みつけ、問いただした。「まあ、そういきり立てないでくれると有り難い。彼女を傷つける意図はないんだ」 警戒を解かない俺を見て、神代は諦めたようにため息をついた。「&hellip
last updateLast Updated : 2025-12-24
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ファイル2 第3話:終わらない玄関と高慢な御曹司、壁の向こうの“迷宮”へ

 ――翌日 俺と菊千代は今、真雅田の爺さんの屋敷の前にいる。 俺はため息をついていた。「こいつは……どうしたものかな……」 ――十分ほど前にさかのぼる。 真雅田《まがた》の爺さんは、「呪物コレクター」などと異名を取るだけあり、屋敷全体を「呪物」で飾ることにこだわっている爺さんだ。 個人的には何が良いんだか理解しかねるが、俺もいくつか商品を買ってもらったこともあり、この屋敷に納品に来たこともあった。 俺は近くのパーキングに車を止め、門の前で立ち止まる。(既に真雅田の爺さんは『禁書』に取り込まれている可能性もあるな) そんな考えが一瞬頭をよぎったため、ドアホンのベルを押すか一瞬躊躇する。「さて……まあ選択の余地はないな……」 そう考え、ドアホンのベルを押した。 しばらく待ってみても誰も出なかった。 ……これは。 ミイラ取りがミイラにならないよう気を引き締めないとな……。 今回俺は、対怪異の切り札といえる“刀”を持ってきていた。もちろんただの刀じゃない。以前ある地方の屋敷で「タダで構わないから引き取って欲しい」と懇願されて手に入れたものだ。 ***  手に入れた刀を僅かに抜きかけただけで、すぐ「呪物」の類と分かった。この刀が持つ雰囲気もさることながら、刃が覗いた瞬間、禍々しい意志を感じた。『……ち……ち……血……を……血を吸わせろ……』 イヤホン越しでも感じる、その“声”を聞いたすぐさま、刃を鞘にしまった。こいつは&ldquo
last updateLast Updated : 2025-12-25
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ファイル2 第4話:壁に浮かぶ苦悶の顔、暴走する術と溢れ出す“黒い泥”

 壁を抜けると、そこは……「なんなんだここは……?」 そこは上下左右がデタラメな空間だった。だだっ広い空間に、いくつもの階段があり、それがねじれるように上下逆さまになって、天井につながっているかと思うと、天井と思っていたものは、廊下だったり、小部屋だったりする。はたまた、壁にもどこに続いているのかわからない階段があったり、どうやってたどり着けばいいのかわからないドアがあったりする。さらには、遠近感が狂って、近くのものが遠くにあるように見える場所すらあった。 もはや重力がどちらに働いているのか、それとも自分たちが立っている場所が本当に床なのか、混乱してくるようだった。 しかし、それすら些細な問題に感じさせるのは、壁や床から浮き出ている顔や、手足だった。『助けて…………助けて…………助けて……』 それらが、この空間に飲み込まれてしまった人間だったのかは定かではない。だが、様々な顔が一様に呻く様は、まさに地獄絵図だった。 くそっ! この光景もさることながら、幾重にも重なった「助けて」コールが俺には辛かった。この怨念の洪水のような声を聞き続けていたら、気持ち悪くなってきた。「うわっ! なんだ?この気持ち悪い光景は!」 俺が気持ち悪さで膝をついていると、ボンボンが近寄ってきた。「おそらく……、この迷宮に……のみこまれた……人……たちだ。……早く出口を……見つけ……ないと……俺達も……」「うへぇ……、じょ、冗談じゃない。こんなのになってたまるか! ……なあ、さっきみたいに、その犬を使って何か
last updateLast Updated : 2025-12-27
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ファイル2 第5話:埋まった依頼人と迫りくる壁、窮地を救う巨大な愛犬

 奈落へと飛び込んだ俺達は、深く深く落ちていった。「おぉぉぉぉぉい、四方儀ぃぃ! 忘れるな! 地面を地面だと思うな!」 ボンボンに声が届いたかどうかはわからない。しかし、この法則を理解していなければ地面に激突して死ぬかもしれない。そうなったら寝覚めが悪いので、忠告だけでもしておきたかった。 どのくらい落下したろうか、時間としては一、二分というところだろうか。ひたすら暗い闇から、徐々に明るい光が見えてきて、洋館の廊下のようなものが見えてきた。俺が着地のために身構えた。同時にボンボンが先に落ちて、潰れたトマトのようになっていないかを確認した。(これは地面じゃない、俺は落ちてない) 呪文のようにこれを何度も唱え、着地した。「おい! 大丈夫か?」 ボンボンは倒れていたが、身体を揺すってみると、死んではいないようだった。「ボヤボヤしてるなよ。さっさと起きろ!」「…………あれ?、俺は一体……」「……お前、気を失ってたのか? ある意味すごい度胸だな。……なるほど、気を失っていれば地面にぶつかるも何もないか」 俺はひとりごちた。このボンボンは地面を意識しなかったせいで、激突するという想像をしなかった。だから助かったというわけか。「……しかし、あの黒い泥人形は?」「……さあ? それよりも、ここは一体どこなんだ?」 俺たちは辺りを見まわした。「……ん! あれは!」 ボンボンの反応を見て、俺もそっちの方を見た。「!」 あれは、もしかして真雅田の爺さんか? 広間のようになっている部屋の中央に、人が腰まで埋まっていた。 こいつはまずい、真雅田の爺さんを助けないと。 俺達が、広間に向けて動こうとしたときだった――。 ズズズズ……ゴゴゴゴゴ&hel
last updateLast Updated : 2025-12-28
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ファイル2 第6話:出口なき大広間と“栞”になる恐怖、妖刀の誘惑を断ち切れ

 菊千代はボンボンを離し、俺を降ろすと、ネコが毛玉を吐くように、黒いものを、吐き出した。それを何度か繰り返すうちに、元の子犬状態に戻ってしまった。「なんだよ、この犬! また小さくなっちまって、あのまま大きければ、また運んでもらえたのに」 ったく、こいつは! えり首つかまれていても良かったのか?と、思うところはあるが、何より助けてもらったという感謝の気持ちはないのか? 菊千代は、ボンボンの言うことなど、どこ吹く風とばかりに、足で首のあたりをかいていた。 そうだ! ボンボンなんぞ、どうでもいい。真雅田の爺さんだ。 そう思い、辺りを見回す。「……ひぃぃ! 来るな! ページが……ページが捲られるぅ!」 真雅田の爺さんはすでに目も虚ろで、何やら幻覚を見ているようだった。そして、廊下から遠目に見た時には、逆光ではっきりしなかったが、下半身が埋まってしまっていて、精神的にももう限界に近いことが分かった。早くここから出してやらないと! そして、俺は見回した時に気づいてしまった。この大広間に入ってきた時にあったドアが消えていることを。しかし、今は真雅田の爺さんに集中する!「おい、ボン! 真雅田の爺さんを引きずり出すぞ! 手伝え!」「! おい、お前! さっきからなんなんだ。俺には四方儀朔也という立派な名前があるんだからな! 朔也様と呼べ」 俺はイラッとしたが、今はそんなことよりも真雅田の爺さんの命を優先だ。 俺はため息をつきながら言った。「……分かった、分かった。朔也様、真雅田の爺さんを引きずり出すのをお手伝いください。……これでいいか?」「……まあ、いいだろう」 俺の苛立ちが伝わったのか、意外にもボンボンはゴネずに真雅田の爺さんを引きずりだすために、爺さんの片方の腕をもった。「いいか? いくぞ、せえの。 はっ!」 俺達は爺さんのそれぞれの腕を持ち、呼吸を合わせ、引き抜こうとした。すると
last updateLast Updated : 2025-12-29
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ファイル2 第7話:迷宮の“核”との対話、飽食の現代が癒やす二百年の飢え

 壁が迫りくる中で俺は考えていた。この迷宮が、ただ俺達を殺すためだけの存在なら、何故入り口や他の場所で殺さなかった?  こいつらが楽しむため? そこで俺ははっとして気づいた。 俺はこいつの“声”を聞いていない!「うわぁぁぁぁ! もう駄目だ! 俺はここで死ぬのかぁぁ!」 ボンボンが涙目になってわめいていた。……こいつは!  俺はボンボンの肩をつかみ、顔を上げると頬を平手打ちした。 バチンッ!「!」 俺はボンボンをにらみつけて、言い放った。「俺は今からこの迷宮の声を聴く!! 少しの間黙ってろ!」  俺の気迫に気おされたのか、ボンボンは黙ってくれた。右のイヤホンを外すと、声の濁流が流れ込んできた。『クスクス、……これでもう終わりだ。断末魔の声が聞けるぞ』『泣けぇぇ!! 喚けぇぇ!! 心地良いぃぃ!!』『ほらほらほら、もう一回、術を放て! 我らには効かぬぞ』『#$%&*+@……』『キャハハハハハハハ!!』『もっとだ、もっと我らを楽しませろ!!』『足掻け! 足掻け! 足掻けぇぇぇ!!』『死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ねぇぇぇ!!!』『助けて、助けて、助けて、……助けろぉぉぉ』『こっちだ。出口はこっち……』『キャハハハ、こっちの、世界においで』『我を信じよ。出口はある。こっちだ』『ケケケ、扉はこっちだ……』『……閉じろ。潰せ。異物は排除せよ』『待て待て。早まるな。久方ぶりの客だぞ』 ……聞こえる。無数の雑音の上に君臨する、明らかに格の違う「二つの声」が。こいつらが、この迷宮の核か。片方は重く冷たく、もう片方は軽く熱っぽい。こ
last updateLast Updated : 2025-12-30
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ファイル2 第8話:十分間の悪夢と風化する禁書、“永遠の命”の真実

 気がつくと、俺は真雅田邸の玄関前に倒れていた。近くにボンボンも倒れており、丁度起き上がろうとしていた。「ここは? 生きてる! 生きてる! 助かったぁぁぁぁ」  ボンボンは、自分の身体を触り、その感触で生きていることを実感しているようだった。「……そう大きな声を出すなよ。近所迷惑だぞ」  俺は身体を起こそうとして、激しいめまいに襲われた。筋肉痛のような疲労感が全身を襲う。あれだけ走り回ったんだ、当然か。 ふと、スマホで時間を確認して、俺は息を呑んだ。 「……おい、嘘だろ?」「あ? 何がだ?」「時間が……十分しか経ってない」「はあ!? 馬鹿な! あの中で何時間も彷徨ったはずだぞ! 体だってこんなに鉛みたいに重いのに!」「……なるほどな。あの中は精神だけの世界、いわば夢の中だ。夢の中での数時間が、現実の数分……ってわけか」 肉体はここにあったが、脳だけがフルマラソンを走らされたようなものだ。どっと疲れが出るわけだ。 (……時間の歪みか。あの黒い人魂も『二十年』と言っていたな。異界と現世では時間の進み方が異なるのか……?)「それはそれとして、よくも俺の事を、散々な目に合わせてくれたな!」「は……何言ってんだ?」「忘れたとは言わせないぞ。俺の頬を叩いたろう! 何かと言えば命令して、さらに俺のことを“ボン”呼ばわりしやがって。四方儀家次期当主の俺を何だと思っている!」 俺は心底面倒な奴だなぁと思い、溜め息を吐きだした。 「……朔也様だと思っているよ」「……お、お前、舐めてるだろ。何か文句があるなら……」  激昂する朔也“様”をまともに相手にする気にもなれず、元気なやつだなあと思い聞き流していると、エコバッグを持った中年女性が声をかけてきた。「あの~、どちら様でしょうか?」「あ、俺は槻島という古物商をやっている者です。今日は別の方の依頼で、こちらの屋敷の主に用がありまして」「なるほど、そうだったんですね。私は家政婦で森川と言います。そんなお客様がみえるだなんて、
last updateLast Updated : 2025-12-31
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ファイル2 第9話:黒幕の正体と不器用なテスト、雨降って“犬”固まる

 その日の夜、俺は神代 玄道に電話をかけ、すべて解決したこと。明日取り返した本を渡すことなどを伝え、薫が入院している病院近くの喫茶店で落ち合うことにした。 ――翌日。 ちょうど時間通りに、俺が喫茶店に入ると神代は、すでに俺を待っていた。神代が奢るというのでコーヒーを頼んだ。禁書を見せると、神代は感心したように言った。「いやあ、聞きしに勝るな。早速で悪いが本を渡してもらえないかね」「おっと待った。神代大社神主、四方儀 祓さん。まず先にこの茶番が一体何だったのか説明してもらおうじゃないか」「ハッハッハッハ、君に隠し事は出来ないようだな」 朔也の親父は、悪びれもせず、底の見えない笑みを浮かべていた。「……隠し事も何も、あんた神代大社のHPに名前をのせてるじゃないか。それさえわかれば、少し情報に強い友人がいるんでね」「……朔也から事の顛末を聞いた時から、こうなるんじゃないかと思っていたけど、さて何から話そうか……」 そう言って一口コーヒーを飲み、ポンと手を叩いて話しはじめた。「槻島君、うちの朔也をどう思った? 単刀直入でいい」「どうって……」  俺はさすがに言葉を濁そうかと、一瞬だけ迷った。「……こらえ性がないアホぼん」「! 親の前でストレートに言ってくれるなあ」  さすがに傷ついたのか、こめかみがヒクヒクしているような気がする。だが、彼はため息をつき、頭に手を当てて話しだした。「そう……そのとおりなんだよ。……私の教育がまずかったのか、それとも妻が甘やかしすぎたのか、いずれにせよ、ああなってしまった。私としてもこのままじゃまずいと思って、いろいろ手を打ってはみたんだが、夜の遊びが過ぎて借金を作る体たらく……」「いいご身分だな」  俺は皮肉らずにはいられなかった。両親を亡くして以降、母方の祖父母に引き取られ、この古物商をやるようになるまで様々なことがあった身としては、羨ましい限りだった。「君には、そう言われても仕方がないな。……まあそんなわけで朔也に神社を任せるのはどうか、という話が持ち上がっていてね。そこに白羽の矢が立ったのが薫くんというわけだ。まあ、まだ本人には話してないのだが、薫くんの両親からは仄めかしてもらっている」  それは仄めかしなんかじゃないんじ
last updateLast Updated : 2026-01-01
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ファイル3 第1話:遺品整理と二十年前の記録

「……うわ、こりゃひどいな」  ドアを開けた瞬間、鼻を突く強烈な腐臭とカビの混じった澱んだ空気に、俺は顔をしかめた。目の前に広がるのは、天井近くまで無秩序に積み上げられたゴミの山だ。変色したコンビニ弁当の殻、湿気を吸って膨らんだ古い新聞紙、洗っていない衣類。典型的な「ゴミ屋敷」だった。「槻島さん、すみませんねぇ。身寄りがない爺さんだったもんで、片付けようにも手がつけられなくて」  依頼主であるアパートの大家が、ハンカチで鼻を押さえながら申し訳なさそうに言った。「いえ、仕事ですから」と短く答え、俺はマスクを深くかけ直し、軍手をはめてゴミの山へと足を踏み入れた。  今回の依頼は、孤独死した老人の部屋の遺品整理と、値がつくものの買い取りだ。 数時間の作業を続けたが、めぼしいものはほとんど見当たらない。換金できそうなのは、数枚の古銭と壊れた銀時計くらいだった。あらかたゴミを運び出し、部屋の奥にある押し入れを開けた、その時だ。「……ん?」  雑多なガラクタの中から、異質な存在感を放つものを見つけた。  厳重なロックが施された、ジュラルミンのケース。周囲の薄汚れた堆積物とは対照的に、それだけが大切に秘匿されていたように見えた。「なんだこれ……?」  持ち上げてみると、ずしりと重い。商売道具のピッキングツールを取り出し、慎重に鍵を解く。プシュッ、と密閉されていた空気が抜ける音と共に、蓋が開いた。  中に入っていたのは、旧式のビデオカメラだった。二十年近く前のモデルに見えるが、大型のレンズホルダーを備えた堅牢な造りは、明らかに業務用だ。 職業柄、モノに残った「思念」を勘で感じ取ることがあるが、こいつから伝わってくるのは、刺すような焦燥感だった。ただの記録媒体じゃない。誰かが執念で遺した「遺言」のような重みを感じる。  俺は持参していたポータブル電源と変換ケーブルを繋ぎ、覚悟を決めて電源を入れた。 ザザッ……ザザザッ……。  激しいノイズを割って、液晶に映像が浮かび上がる。どこかの研究施設だろうか。だが、様子が異常だ。部屋全体が赤く明滅し、警報音が鳴り響いている。爆発音のような轟音が断続的にスピ
last updateLast Updated : 2026-02-06
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ファイル3 第2話:地図から消された島と、情報屋への依頼

「神去島……」 アパートに戻った俺は、息つく間もなくスマホを取り出し、地図アプリでその名を検索した。 ……あった。意外にも、それはあっさりと見つかった。本土からフェリーで数時間、そこからさらにチャーター船を出さねば辿り着けないような孤島だ。 俺は航空写真モードに切り替え、その島を最大まで拡大した。離島ゆえか解像度が粗く、細部は潰れている。画面に映し出されたのは、鬱蒼とした深い緑に覆われた、どこにでもある無人島の姿だった。「……おかしいな」 俺は眉をひそめた。あのビデオ映像には、大規模な研究所の内部が映っていた。それだけの施設なら、上空から見ればコンクリートの建物や、それを繋ぐ道路の跡くらいは見えていいはずだ。だが、スマホの画面には、どこまで行っても「森」しかなかった。「施設が取り壊されて、森に戻ったのか? いや、たかだか二十年でここまで痕跡が消えるものか?」 腑に落ちない。俺は立ち上がり、物置代わりにしているタンスの奥から一本の筒を取り出した。 昭和五十年代に発行された、古い船舶用の海図だ。デジタルデータに置き換わる前の、紙の記録。埃を払い、机の上に広げる。神去島の座標を探し、その位置を指でなぞった。「……やっぱりだ」 俺は思わず、ニヤリと笑った。 紙の海図には、現在の衛星写真では深い森になっている場所に、はっきりと「建造物」と「船着き場」の記号が記されていた。「地図から消したんじゃない。隠したんだな」 屋根に土を盛り、木を植え、軍事基地のようにカモフラージュして建設したのだろう。それが二十年の歳月を経て、植えられた木々が育ち、本物の森と同化してしまったわけだ。現代の衛星カメラは高性能だが、上から葉で覆い隠されてしまえば、その下にある人工物を捉えることは難しい。「デジタルの目は誤魔化せても、アナログのインクは嘘をつかないってことか」 場所は特定できた。森の下に埋もれた、巨大な廃墟。そこにはまだ、何かが眠っているはずだ。 だが、まだ確証が足
last updateLast Updated : 2026-02-06
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