霊聴古物商 槻島蓮の怪異ファイル

霊聴古物商 槻島蓮の怪異ファイル

last updateDernière mise à jour : 2026-01-01
Par:  ミカイノ宙En cours
Langue: Japanese
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【霊聴×古物商×怪異バトル!】 「鑑定料は高くつくぞ?」 貧乏古物商・槻島蓮の特技は、物に宿る霊の声を聴く「霊聴」。イヤホンで死者の声を遮断する彼の元には、今日も“いわくつき”の厄介な依頼が舞い込む。 民俗学専攻の女子大生・薫、そして元・最恐怨霊の忠犬「菊千代」と共に、蓮は呪われた事件の核心へ! 廃村での配信者失踪、魂を喰らう「匣」、異界の迷宮――。 時に推理し、時に妖刀で怪異を斬る! 金欠古物商が挑む、痛快オカルト・アクション開幕!

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Chapitre 1

ファイル1 第1話:「撮れ高」を求めた配信者、その最後の悲鳴

 俺はいわゆる動画配信者だ。まだ登録者数は二百人程度だが、最近始めた心霊スポット巡りがニッチな層にマッチしたみたいで、ここ数日は確実に登録者数が増え続けている。

「はい! 今日はこちら、『出る』という噂で有名な古民家にやって来ました!」

 俺はスマホのカメラに向かって元気にアピールする。今日訪れたのは、最近になって妙な噂が立ち始めた古い家だった。俺のような動画配信者は掃いて捨てるほどいる。要はいかに早くトレンドを先取りするか、そしてそれを続けられるかにかかっている。ぶっちゃけ登録者数が増えないのに動画の編集をするなんて、むちゃくちゃ苦痛な作業だ。だが、憧れの有名配信者達だって、それを乗り越えてきたはずだ。俺はそう自分に言い聞かせ、十月初旬にしては暑い昼下がり、古民家の門をくぐった。

 俺には霊感はない……と思う。しかし、その家の垣根で囲われた古びた木製の門をくぐった瞬間、空気が変わった。湿っぽく重い空気に加え、僅かだが何かが腐ったような微かな異臭が鼻をついた。心なしか日差しも弱くなった気がした。それは庭に生えている木の木陰に入ったせいではない。本能的に何かが“やばい”と感じた。肌にまとわりつく湿度の中に、鉄錆のような――血の匂いが混じっている気がしたのだ。

「なんだろう……なんとも言えない雰囲気が漂っています。……小並感ですみません。本当にお化けが出そうな、そんな雰囲気です」

 口では軽口を叩きながらも、俺は背筋が冷え、鳥肌が立つのを感じていた。まだ暑いってのに……。

 俺は玄関の扉に手をかけ、開けてみようとした。流石に鍵がかかっているらしく、ガチャガチャと引き戸の扉を動かそうとしたが、多少揺れはするものの開かなかった。ここで蹴破ろうかとも考えたが、これはライブ配信だ。あまりやり過ぎると、視聴者が引いて離れていく恐れもある。そう考え、家の周りを一通り見てからにしようと決めた。

「……やはり、鍵がかかっていますね。とりあえず別の入口がないか見回ってみましょう」

 家の裏に回ってみると、今どきの家にはまず無い、勝手口があった。

「……あっ、勝手口っていうんでしょうかね? こっちは開いているのかもしれませんね」

 そう言いつつ、俺はドアのノブを回してみた。

「おっと、こっちは開いてますね。それじゃあ、入ってみます」

 土足のまま中に入ってみると、むわっとした澱んだ空気が流れ出た。中はまだ昼間だというのに薄暗い。こんな時のために用意したヘッドライトを装着する。

 そこは土間だった。

「どうですか皆さん、見えていますか? ここは土間ですね。あっ、かまどがありました。昔はこれでご飯を炊いてたんですね」

 見回すと流しや、台所もあった。しかし、妙なことに気づいた。土間より一段高い位置にある台所の板張りに、土足のまま踏み荒らされた跡があったのだ。

「あれ? 泥棒でも入ったんでしょうか、結構足跡があります」

 俺はヘッドライトで台所を照らした。そこには、無数の足跡があった。それも、土間から上がってきたものだけではない。奥の襖が二つの部屋につながっている構造のようだが、その両方から出てきた足跡もある。

 なんだろう、案外マジで泥棒が根城にでもしてたんだろうか? にしては、足跡が妙に生々しく、新しい気がする。そう考えると、幽霊などより(あるいは幽霊とは別の意味で)よほど危険な気がしてきた。しかし、さすがにそれはないだろう。むしろ、何か痕跡があれば「撮れ高」になる。俺はそう考え直し、奥に進むことにした。

「台所なのに、どうしたんですかね。……まぁ特に面白いものもないので、奥に行ってみましょう」

 台所のすぐ手前のふすまを開けると、そこは本や机の置いてある書斎のような部屋だった。

「ここは、……書斎ですかね。古い本が少しありますね。この部屋も特に面白いものはないですね……」

 そして入ってきたふすまとは別のふすまを開け、その部屋を映そうとスマホをかざした、その時だった。

 ふすまの闇の奥から、抗いようもないほど力強い腕が伸びてきた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 突然、その腕は俺の手首を掴み、ものすごい力で部屋に引きずりこまれた。スマホは、その拍子に落としてしまった。

 ライブ配信中だったスマホは、その後も床に転がったまま、口を塞がれ、モゴモゴと叫ぶに叫べない俺の悲鳴と、何かを引きずるような不気味な音を流し続けた。

 ——一週間後

「ねぇ、先生! これ見てくださいよぉ」

 四方儀薫よもやま かおるが、俺、槻島蓮つきしま れんの自宅兼事務所であるアパートのドアを叩いていた。

「……わかったから、ドアを叩くな」

 俺が仕方なくドアを開けると、そこにはメガネをかけ、髪はセミロング、美女というよりは可愛いと言った感じの女性――四方儀薫――がスマホを掲げながら立っていた。

 薫はニッコリと笑みを浮かべ、

「この動画、見てください」

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ファイル1 第1話:「撮れ高」を求めた配信者、その最後の悲鳴
 俺はいわゆる動画配信者だ。まだ登録者数は二百人程度だが、最近始めた心霊スポット巡りがニッチな層にマッチしたみたいで、ここ数日は確実に登録者数が増え続けている。「はい! 今日はこちら、『出る』という噂で有名な古民家にやって来ました!」 俺はスマホのカメラに向かって元気にアピールする。今日訪れたのは、最近になって妙な噂が立ち始めた古い家だった。俺のような動画配信者は掃いて捨てるほどいる。要はいかに早くトレンドを先取りするか、そしてそれを続けられるかにかかっている。ぶっちゃけ登録者数が増えないのに動画の編集をするなんて、むちゃくちゃ苦痛な作業だ。だが、憧れの有名配信者達だって、それを乗り越えてきたはずだ。俺はそう自分に言い聞かせ、十月初旬にしては暑い昼下がり、古民家の門をくぐった。 俺には霊感はない……と思う。しかし、その家の垣根で囲われた古びた木製の門をくぐった瞬間、空気が変わった。湿っぽく重い空気に加え、僅かだが何かが腐ったような微かな異臭が鼻をついた。心なしか日差しも弱くなった気がした。それは庭に生えている木の木陰に入ったせいではない。本能的に何かが“やばい”と感じた。肌にまとわりつく湿度の中に、鉄錆のような――血の匂いが混じっている気がしたのだ。「なんだろう……なんとも言えない雰囲気が漂っています。……小並感ですみません。本当にお化けが出そうな、そんな雰囲気です」  口では軽口を叩きながらも、俺は背筋が冷え、鳥肌が立つのを感じていた。まだ暑いってのに……。 俺は玄関の扉に手をかけ、開けてみようとした。流石に鍵がかかっているらしく、ガチャガチャと引き戸の扉を動かそうとしたが、多少揺れはするものの開かなかった。ここで蹴破ろうかとも考えたが、これはライブ配信だ。あまりやり過ぎると、視聴者が引いて離れていく恐れもある。そう考え、家の周りを一通り見てからにしようと決めた。 「……やはり、鍵がかかっていますね。とりあえず別の入口がないか見回ってみましょう」 家の裏に回ってみると、今どきの家にはまず無い、勝手口があった。 「……あっ、勝手口っていうんでしょうかね? こっちは開いているのかもしれませんね」
last updateDernière mise à jour : 2025-12-14
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ファイル1 第2話:古物商の“耳”と呪われし古書の“聲”
 薫に突き出されたスマホを前に、俺は面食らっていた。「とにかく、この動画をまず見てください」「って、いきなり何だよ! 動画ぐらいURLを送ればいいだろ」「そんな事したって、先生は絶対に見ませんよね?!」 薫はそう言って口を尖らせた。俺は図星を突かれ、ぐっと言葉に詰まる。「……まあ、折角来たんだ。茶でも淹れてやる」「あ、私やります!」 そう言うと薫は、慣れた手つきでテキパキとお茶を淹れる準備を始めた。 四方儀薫は、神保町にある古書店の娘だが、昨今の書籍のデジタル化や、そもそも本を読む人口の減少により、店番をしていてもヒマらしい。「先生~、ちょっとは台所掃除しなきゃ駄目ですよ。カビだらけになっちゃいますよ、まったく!」 彼女が俺を「先生」と呼び、こうして押しかけてくるのには、半年ほど前のとある事件のことを話す必要がある。 ***  俺、槻島蓮は、この自宅のアパートで古物商を営んでいる。古物商といっても、大手が扱うような古書や漫画がメインではない。俺の専門は、古いいわくつきの品――オカルトまがいの品々を仕入れ、ネットでさばくのが仕事だ。 その日は、地方へ買い取りに出かけていた。その帰り、ついでに引き取ってくれるよう頼まれた本を売ろうと、薫の父母が経営している古書店に立ち寄った。  店主と世間話を交わそうとした、その時だった。頭蓋骨の内側に直接響くような、不快な“声”が聞こえてきた。『……お前の肉……命を……喰らう……』「うっ!」 声と同時に、人が倒れる音がした。音のしたほうを見ると、店主と思われる人物が胸を押さえて倒れていた。「!……お父さん……どうしたの?」 奥の方から慌てて、娘が駆け寄って背中をさすった。 俺は“声”の主――書棚の隅で異様な気配を放つ、古びた革張りの本に駆け寄った。  それを掴んだ瞬間、焼けつくような冷気が腕を走り、思わず本を落としそうになる。
last updateDernière mise à jour : 2025-12-15
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ファイル1 第3話:夜の潜入、不法投棄の“秘密”と迫る足音
 俺達は、車に乗って三時間。目的地の古民家に近い山の麓までたどり着いた。 そもそも薫は大学で民俗学を専攻していた。フィールドワークを行う傍ら、怪談じみた話を聞くうち、実際に見てみたくなったという話を以前聞いたことがあった。 しかし、この件では例の配信者が行方不明になっており、安全とは言い難く、俺としては連れて行くことに気が進まなかったが、頑としてついていくという薫に根負けしたのだった。 それでも俺は道中に何度か、薫に家に帰るよう促したり、なぜそこまでオカルト紛いの事件を追いかけたがるのか聞いてみたりした。 しかし、返ってきた答えは「先生のお役に立ちたいんです」とか、「私、色々と準備してきましたから」といった答えではぐらかされるばかりだった。「さて、着いたぞ。……ひょっとすると、この車って、例の配信者のものか?」 俺は自分の車を止めた近くにある車のナンバープレートを見た。練馬だった。「そうかもしれません」「この車も気になるが……それより、このタイヤの跡は何だ?」 道には、軽トラックなどではない、もっと大型の車が何台も通ったような跡がくっきりと残っていた。「この山で、何か採掘でもしてるんでしょうか?」「さあな、でも向かう道は同じようだ。とにかく古民家へ行ってみよう」「ここが……例の古民家か」 トラックのタイヤの跡は、この民家の前を通って続いていた。薫は古民家やその周りをスマホで撮影していた。「あのう、どちら様ですか?」 古民家の引き戸がいつの間にか開いており、そこに男が立っていた。男は穏やかな表情を浮かべつつも、どことなく隙のない雰囲気を漂わせていた。  相手がどういう筋のものか不明なので、俺はとりあえずカマをかけてみることにした。「ああ……いえ、この付近で動画配信をやってる最中に行方不明になった者がいましてね、親御さんから探してほしいと頼まれまして……」 男は表情を変えることもなく答えた。「いえ、そういった方は見ていないですねえ。ここらには似たような民家が多いので、どこ
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ファイル1 第4話:「もうこの世にいない」 ――絶望の底で“何か”が喉笛を裂く
 俺は抵抗しても敵いそうにないため、大人しく連中に従うことにした。明らかに向こうは肉体労働者か、その筋の人間で、こちらは運動不足のアラサーだ。勝負になるわけがない。 そして、俺は通話越しの薫のことを考えた。(いきなりですまないが、頼んだぜ、薫。……やっぱり連れてこなかったのは正解だったな) 俺は二人に連れられ、この連中の詰め所に連行されている。「おい、お前はどこの事務所なんだ?」 俺を後ろから追い詰めた方が、いきなり聞いてきた。「え?」 俺は戸惑った。俺は芸能人じゃねえぞ。「『えっ』じゃねえだろ、どこの探偵事務所なんだ?」「あっ、ああ」 一瞬、俺は(その設定まだ生きてたんだ)と思ったが、この設定は俺の生命線だ。個人だと分かったらどういう手に出るかわかったもんじゃない。場合によっては薫にも危害が及ぶ。「いや、今どきインターネットで広告もしてないようなチンケな事務所でして……槻島探偵事務所といいます」「……で? 何人くらいいるんだ」「……俺を含めて五人かな」「……そのくらいならなんとかなるか……で、どこにあるんだ?」 やべえな。思った以上に武闘派だった。くそっ! とりあえず、今は続けるしかない。「……えっ、い……嫌だなぁ。何も見てないから見逃してもらえませんか?」「そいつは、お前のところの事務所の対応次第だ。所長は何ていう名前だ?」「槻島蓮です」「で? お前の名前は?」「……え、えーと田中……」 俺が咄嗟《とっさ》に答えられないでいると、突然、男の目つきが変わった。「ちっ! お前、俺達のこと舐めてるだろ……」 男は凄むと、唐突に腹を殴ってきた。「うっ!」 腹に叩き込まれたパンチの衝撃に、俺は息が詰まり、視界が白く濁る。胃液が逆流する激しい痛みに、その場にうずくまるしかなかった。「こいつのこれまでの話は全部ウソかも知らん……オイ、お前。今度嘘をついたら、こんなもんじゃ済まね
last updateDernière mise à jour : 2025-12-17
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ファイル1 第5話:『聖痕』と『犬飼』 ――高額グラボと暴かれる黒幕
 俺は、詰所に向かう傍ら、薫に起きた出来事をかいつまんで、説明していた。 月明かりに照らされる薫の顔はまだ青ざめていたが、惨状を見たショックに、気丈にも泣き言を吐かずに耐えていた。「じゃあ、動画配信者の方は殺されて、その犯人も犬の怨霊みたいなのに殺されてしまったんですね」「ああ。実体があるんだか、ないんだかよくわからんやつが、どうして喉をえぐり取れるのか、納得がいかないが……」「でも先生、『聖痕』はご存じですか? 強い信仰という“精神”が、この世の物理法則を無視して、何もないはずの“肉体”に『傷』をつけるんです。怨霊の『怨み』というエネルギーが、あの犬の形をとって、物理的な『欠損』を生じさせた。そう考えれば、つじつまが合いませんか?」  聖痕――それについては、俺も聞いたことがある。キリスト教の熱心な信者が、十字架にかけられたキリストの苦難を追体験しようと深く瞑想に入ると、キリストと同じ場所から、突然“物理的な傷”が現れ、出血する現象だ。「……あんなのは、オカルト好きの妄想かと思ってた」「酷いですよ、先生。もっと身近な例だと、胃潰瘍とか癌だって、精神的ストレスが肉体に悪影響を与える例は、たくさんあるんですから。何より、お父さんを助けてくれた時だって……、あれこそ、その最たる事例じゃないですか」「……いや、そうなんだろうが、実際あの場にいて、あの理不尽なまでの暴力を見せつけられれば、納得いかない気持ちも、少しは分かってもらえると思うんだが……。それはともかく、着いたぞ。薫はちょっと隠れてろ」 「少しだけ待ってください」 詰め所のドアの前で、薫が一度、深呼吸をした。まだ顔色は悪いままだ。「……先生、私は大丈夫です。やれます」「無理はするな」 薫は頷くと建物の陰に隠れた。それを見計らって、俺はドアを開けた。  中は、事務机にテーブルと椅子が置かれている。金属のラックには、多少のファイルと、食品類などの段ボールがあるくらいだ。奥に部屋があったので、行ってみると、仮眠室のようだった。  誰も居なかったので、
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ファイル1 第6話:怯える住人と老人の告白 ――怨霊の名は『菊千代』
 俺達はひとまず宿を探すことにした。既に夜の十時を回った。暗いし、聞き込みをするにしても、玄関まで出てきてくれるかも怪しい。 犬は元来夜行性なので、夜の方が遭遇確率が上がりそうではあるが、そもそもあの犬がどういった素性のものなのかわからない以上、むやみに歩いてどうなるものでもないだろう。 比較的近くのビジネスホテルの部屋に入り、シャワーを浴びた後、俺はベッドに倒れ込むようにしてすぐ寝てしまった。俺が目覚めたのは、チェックアウト時間の三十分ほど前、心配した薫が俺のスマホにかけた電話の呼び出し音で、俺は目を覚ました。「お風呂で溺れでもしたんじゃないかって、本気で心配しましたよ」「……いや悪かった。でも、思った以上に疲れてたんだな」 俺は家に戻ったら、運動を始めようと密かに誓った。「先生、今日は犬飼さんのことを近くの人に聞き込みしましょう。私、民俗学のフィールドワークで、そういうのは得意なんです」 薫が張り切っている。昨日の犬の怨霊のことを考えると、無理にでも家に帰したいところだが、爺さん婆さんから話を引き出すのは、正直苦手だ。こちらからお願いしたいというのが本音だった。「分かった。だが、無理はしないでくれ」「はい。大丈夫ですって」  薫はそう言って、ニッコリと笑顔を見せた。 俺達は、それから遅めの朝食をとった後、例の古民家近くの家で聞き込みをしていた。「すみません。犬飼さんのことで、お伺いしたいのですが……」 玄関の引き戸を半開きにして、婆さんは顔をのぞかせた。「……なんだい、あんたら?」 現れた婆さんは、俺達を値踏みするように見ながら、何かに怯えるかのように、しきりに辺りを気にしていた。「あんたらの他には誰もいないだろうね?」 俺達の他に、黒川総業の連中とか、告げ口をしそうなやつがいないか心配なのだろう。「はい、私達二人だけです」「……そうかい」 とはいえ、あからさまに迷惑そうな態度を隠そうともしなかった。「犬飼さんのところで、動画配信者
last updateDernière mise à jour : 2025-12-19
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ファイル1 第7話:三峯の御札と迫る危機 ――暴走する“菊千代”を止めろ
 俺達は山道を車で登っていた。「……黒川総業の人達、やっぱり現場を確認に、行くんですよね?」「ああ、間違いないだろう。昨晩から突然音信不通になったんだから、警察でも来たんじゃないかと、心配になったんだと思う」「先生は、一体どうするつもりですか?」「……俺は、まず菊千代に、これ以上人殺しをさせたくない。これが最優先だ。次に黒川総業の連中を懲らしめたい。まあ、それは宇佐美に頼んだ方が、うまくやってくれそうだから、あいつに頼む」「分かりました。私も菊千代を救いたいです」「よし、菊千代を救うぞ」「はい」「ところで先生、どうやって菊千代を救うんですか?」「……」「先生?」「……すまない、説得以外の方法を考えてない。ここまでシリアスな展開は想定外だった」「全く、そうなんじゃないかと思っていました」  そういうと、薫は自分のリュックから御札を取り出した。「この御札は三峯神社のものです」「三峯? あそこは狼を祀ってたよな。……なるほど。菊千代が犬だからか」「それもありますが、今回の現場は『山』で、原因は太陽光パネルの『穢れ』ですよね。これは三峯神社の御眷属、つまり狼が山を荒らす厄災を払うシチュエーションです。だから、ただの気休めじゃなくて……菊千代に『私達は山を清めに来た側だ』って示すための、“印”になるかもしれないと思って……。今朝、ホテルを出る前に、持ってきた御札の中から選んでたんです」 犬の祖先は狼なので、無関係な御札より有効かもしれない。「ありがとう、薫。その御札、使わせてもらうよ」 中腹に到着すると、例の黒塗りのベンツが止まっているのが見えた。強面スーツのオッサンが見張りに立っている。  俺は車を止めて降りると、急に寒気が襲ってきた。俺はイヤホンを外し耳を澄ませた。 俺が常日頃イヤホンをしているのは、霊の声を聞こえにくくするためだ。俺自身の暗示の問題なのかも知れないが、外すことによって、感度が上がり、遠くの、あ
last updateDernière mise à jour : 2025-12-20
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ファイル1 第8話:響く般若心経と老人の声 ――「もう、人殺しの罪を重ねるな」
  ある程度近づいたところで、薫が般若心経を唱えだした。「ギョウジンハンニャハラミッタジ ショウケンゴウンカイクウ ドイッサイクヤク……」 すると、菊千代のドス黒い渦のようなオーラが激しく火花を散らして、菊千代が苦しみだした。親分の喉元に立てられた牙を引っ込め、激しい葛藤に苛まれるように、首を振り、躰全体を震わせていた。『ウゥゥゥゥゥゥゥゥ……』『グルルルルルルルル……』 怪異としての声、犬としての声が混じり合い、または分離して聞こえる。 俺はその効果にも驚いたが、薫が般若心経をここまで暗誦できることにも驚かされていた。 感心している場合じゃない、今なら俺の声が届くかもしれない。俺は、薫から借りた御札を手に、菊千代に押し当て、耳元で説得を試みる。  御札が触れた部分が、青白い火花を散らし、菊千代がさらに苦しみだす。「菊千代、聞いてくれ! コイツラは確かにお前や、お前を飼っていた爺さんや婆さんを殺した奴らだ。憎いのはわかるつもりだ。だが、お前が復讐する姿を見たら、お前の好きだった爺さんや婆さんはどう思う? きっと悲しむぞ。もう止せ、コイツラを懲らしめてる方法なら、俺の友達がすでに用意してくれている。お前がこれ以上人殺しの罪を重ねることなんてないんだ」 『グルルルルルルルル……』『クゥーン……』と相反する声が漏れた。  その時、俺の耳に老人の声が聞こえた。『菊千代……儂らのことは気にせんでいい……もう十分生きた……それより……お前のことが心配じゃ』『クゥーン……』 五分ほどそうしていただろうか? 御札を押し付けている躰から出ていた青白い火花が収まり、菊千代の震えが徐々に収まり、唸り声が変わってきた。『ウゥゥゥ………………フンフン』  鼻を鳴らすような声に変わってようやく、俺は菊千代から離れ
last updateDernière mise à jour : 2025-12-21
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ファイル1 第9話:黒い人魂とこめかみの“光” ――二十年の時を経て“何か”が目覚める
 俺達は車に乗った。菊千代もついて来たいらしく、尻尾を振っていたので、後部座席のドアを開けると、素直に乗り込んで、後部座席の足元に寝そべった。 妙なことになったと思いながらも、菊千代に情が湧いていた俺は、車を走らせた。 犬飼さんの古民家まで着くと、菊千代を連れて行く挨拶をしたほうが良い気がして、車を止めた。少なくとも、菊千代がここに残るのか、それとも俺達について来たいのか、それは菊千代自身に決めさせる必要があると気がついた。 菊千代は遠吠えを上げた。それは俺にしか聴こえないものではあったが、薫もその様子を見て涙ぐんでいた。 ――その時だった。 菊千代が突然『ウウウ……』と警戒する唸り声を上げた。 何もない空間が、沈黙の中でじわじわと軋み、まるで見えない爪で引き裂かれるように裂けた。  バリバリ、と鼓膜ではなく眼球が震えるような錯覚。  そこは真っ黒な『穴』のようであり、黒い人魂のような何かが、その裂け目から、まるで産道をくぐるかのように、ググググッとこちらの世界に這い出てきた。  俺と薫はあまりの出来事に呆然としていた。 それは幽霊などという生易しいものではない。もっと高密度の、重力すら歪めるようなエネルギーの塊。『#$%&……! &%$#!!』 人の言葉ではない。  意味の塊のような衝撃が脳を直接殴りつけてくる。頭蓋骨が共鳴し、鼻血が垂れた。  しかし、その波動には明確な「歓喜」が含まれていた。戻ってきた――この次元に再び受肉できたという、おぞましいほどの喜び。  そして、その人魂は、なぜか俺のことを見つめていた。人魂の目などないのに俺にはそれがわかった。「先生! 先生のこめかみが……、光っています」 薫は驚愕を隠せずにいた。  その言葉を聞いて、思わず右のこめかみに触れる。(あの時の痕か?)  光っているらしいその皮膚は、ぞくっとするほど冷たかった。『オマエ……ダレダ……?』 脳内のノイズが、徐々に日本語へとチューニング
last updateDernière mise à jour : 2025-12-22
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ファイル2 第1話:金欠の古物商と怪談市、持ち込まれた“匣”に震える愛犬
 あの黒い人魂が消えた後、俺たちは菊千代を連れて逃げるように山を降りた。 それから三日後、俺はバランスシートのアプリと格闘していた。「……まずいな……これじゃあ今月は赤字だ」 宇佐美へのグラボの代金――実に、この安アパートの家賃三ヶ月分だ――もあるし、菊千代の一件では出費ばかりがかさんでいた。「ったく、正義感で動いていたら、あっという間に破産しちまうな……」 そんなことをブツブツ言いながら、出費の整理をしていると、BGM代わりに点けていたテレビから、聞き覚えのある単語が流れてきた。『白河原市の山中に破棄された太陽光パネルが大量に投棄されていることが判明いたしました。こちらの映像を御覧ください……』 ドローンのカメラだろうか、山肌に投棄された大量の太陽光パネルが、黒く光っている。さらに画面の端のほうでは、警察の現場検証が行われているらしく、複数の警察官や立ち入りを禁止するためのロープなどが張られているのが見えた。 ニュースを見ていると、スマホが振動する。薫からのメッセージだった。「やりましたね!」「ああ、宇佐美の奴が、うまいことマスコミにリークしてくれたらしい」 俺もスマホからメッセージを返信する。「へぇー、すごい人なんですね。宇佐美さんって」「ああ、これで少しあの山がキレイになるといいな」「そうですね」「だが、宇佐美への支払いもあるし、こっちは、くたびれ損も良いところだ。せめて何か掘り出し物でも手に入るかと思ったんだが、菊千代じゃあ、売るわけにもいかないしな」 俺はテーブルの下で、本物の犬のように寝そべる菊千代を見ながら言った。「……そんなこと考えてたんですか?」「しょうがないだろ、しがない古物商なんだから」「分かりました。後でまた連絡します」  薫から再び連絡があったのは、その
last updateDernière mise à jour : 2025-12-23
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