LOGIN【霊聴×古物商×怪異バトル!】 「鑑定料は高くつくぞ?」 貧乏古物商・槻島蓮の特技は、物に宿る霊の声を聴く「霊聴」。イヤホンで死者の声を遮断する彼の元には、今日も“いわくつき”の厄介な依頼が舞い込む。 民俗学専攻の女子大生・薫、そして元・最恐怨霊の忠犬「菊千代」と共に、蓮は呪われた事件の核心へ! 廃村での配信者失踪、魂を喰らう「匣」、異界の迷宮――。 時に推理し、時に妖刀で怪異を斬る! 金欠古物商が挑む、痛快オカルト・アクション開幕!
View More俺はいわゆる動画配信者だ。まだ登録者数は二百人程度だが、最近始めた心霊スポット巡りがニッチな層にマッチしたみたいで、ここ数日は確実に登録者数が増え続けている。
「はい! 今日はこちら、『出る』という噂で有名な古民家にやって来ました!」
俺はスマホのカメラに向かって元気にアピールする。今日訪れたのは、最近になって妙な噂が立ち始めた古い家だった。俺のような動画配信者は掃いて捨てるほどいる。要はいかに早くトレンドを先取りするか、そしてそれを続けられるかにかかっている。ぶっちゃけ登録者数が増えないのに動画の編集をするなんて、むちゃくちゃ苦痛な作業だ。だが、憧れの有名配信者達だって、それを乗り越えてきたはずだ。俺はそう自分に言い聞かせ、十月初旬にしては暑い昼下がり、古民家の門をくぐった。
俺には霊感はない……と思う。しかし、その家の垣根で囲われた古びた木製の門をくぐった瞬間、空気が変わった。湿っぽく重い空気に加え、僅かだが何かが腐ったような微かな異臭が鼻をついた。心なしか日差しも弱くなった気がした。それは庭に生えている木の木陰に入ったせいではない。本能的に何かが“やばい”と感じた。肌にまとわりつく湿度の中に、鉄錆のような――血の匂いが混じっている気がしたのだ。
「なんだろう……なんとも言えない雰囲気が漂っています。……小並感ですみません。本当にお化けが出そうな、そんな雰囲気です」
口では軽口を叩きながらも、俺は背筋が冷え、鳥肌が立つのを感じていた。まだ暑いってのに……。俺は玄関の扉に手をかけ、開けてみようとした。流石に鍵がかかっているらしく、ガチャガチャと引き戸の扉を動かそうとしたが、多少揺れはするものの開かなかった。ここで蹴破ろうかとも考えたが、これはライブ配信だ。あまりやり過ぎると、視聴者が引いて離れていく恐れもある。そう考え、家の周りを一通り見てからにしようと決めた。
「……やはり、鍵がかかっていますね。とりあえず別の入口がないか見回ってみましょう」家の裏に回ってみると、今どきの家にはまず無い、勝手口があった。
「……あっ、勝手口っていうんでしょうかね? こっちは開いているのかもしれませんね」そう言いつつ、俺はドアのノブを回してみた。
「おっと、こっちは開いてますね。それじゃあ、入ってみます」
土足のまま中に入ってみると、むわっとした澱んだ空気が流れ出た。中はまだ昼間だというのに薄暗い。こんな時のために用意したヘッドライトを装着する。
そこは土間だった。 「どうですか皆さん、見えていますか? ここは土間ですね。あっ、かまどがありました。昔はこれでご飯を炊いてたんですね」見回すと流しや、台所もあった。しかし、妙なことに気づいた。土間より一段高い位置にある台所の板張りに、土足のまま踏み荒らされた跡があったのだ。
「あれ? 泥棒でも入ったんでしょうか、結構足跡があります」
俺はヘッドライトで台所を照らした。そこには、無数の足跡があった。それも、土間から上がってきたものだけではない。奥の襖が二つの部屋につながっている構造のようだが、その両方から出てきた足跡もある。
なんだろう、案外マジで泥棒が根城にでもしてたんだろうか? にしては、足跡が妙に生々しく、新しい気がする。そう考えると、幽霊などより(あるいは幽霊とは別の意味で)よほど危険な気がしてきた。しかし、さすがにそれはないだろう。むしろ、何か痕跡があれば「撮れ高」になる。俺はそう考え直し、奥に進むことにした。「台所なのに、どうしたんですかね。……まぁ特に面白いものもないので、奥に行ってみましょう」
台所のすぐ手前のふすまを開けると、そこは本や机の置いてある書斎のような部屋だった。
「ここは、……書斎ですかね。古い本が少しありますね。この部屋も特に面白いものはないですね……」
そして入ってきたふすまとは別のふすまを開け、その部屋を映そうとスマホをかざした、その時だった。
ふすまの闇の奥から、抗いようもないほど力強い腕が伸びてきた。「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
突然、その腕は俺の手首を掴み、ものすごい力で部屋に引きずりこまれた。スマホは、その拍子に落としてしまった。
ライブ配信中だったスマホは、その後も床に転がったまま、口を塞がれ、モゴモゴと叫ぶに叫べない俺の悲鳴と、何かを引きずるような不気味な音を流し続けた。
——一週間後「ねぇ、先生! これ見てくださいよぉ」
「……わかったから、ドアを叩くな」
俺が仕方なくドアを開けると、そこにはメガネをかけ、髪はセミロング、美女というよりは可愛いと言った感じの女性――四方儀薫――がスマホを掲げながら立っていた。
薫はニッコリと笑みを浮かべ、「この動画、見てください」
黒い人魂――ゼロが去り、静寂を取り戻した研究所。 俺たちは氷室が陣取っていた制御室に戻り、手がかりを探した。 主を失ったメインコンソールは沈黙していたが、奥の壁に埋め込まれた、見るからに頑丈そうな隠し金庫が目に止まった。「……これだな」 俺は商売道具のピッキングツールを取り出し、鍵穴に差し込んだ。氷室のような性格の人間は、最も重要なものを肌身離さず、かつ物理的に隔離して保管したがるものだ。 カチリ、という微かな音と共に重い扉が開く。 中に入っていたのは、一本の旧式の大容量ハードディスクと、数冊のファイルだった。ファイルの背表紙には『Project Akasha - Original Log / Kuga』とある。「久我教授の、オリジナルの研究記録か……」 パラパラとページをめくる。そこには、非人道的な実験の数々と共に、それに異を唱えた研究員たちの「処分記録」も冷徹に記されていた。「……あった」 俺の手が止まる。『監視強化対象:主任研究員・槻島修一、および妻・玲子』の項目。 そこには、実験の停止を訴える父の上申書と、それが却下された経緯だった。「……先生、これ」 薫がファイルの間からこぼれ落ちた封筒を拾い上げた。 封筒には『押収品:槻島修一 私物』と事務的なスタンプが押されている。中に入っていたのは、一枚の色褪せた家族写真と、ボイスレコーダーだった。 俺は震える手でレコーダーの再生ボタンを押した。ノイズ混じりに、父の声が流れる。『……もし、私が死に、このテープが誰かの手に渡っているなら、私の研究者としての良心は敗北したということだ。だが、これだけは遺しておきたい』 父の声は、死を覚悟したように静かで、力強かった。『私も初めは久我教授の理想に共鳴した。しかしこの研究の犠牲の多さは異常だ。ことが事だけに動物実験ができないとはいえ、次の実験を最後にできるよう教授を説得するつもりだ。私が
『キカセテ……モラッタ……ゾ……!』 空気を震わせるその声は、鼓膜ではなく、脳髄に直接響くようだった。 氷室の隣に開いた黒い裂け目。そこから這い出した「それ」は、人の形を模してはいたが、中身は空っぽの闇だった。輪郭が陽炎のように揺らぎ、周囲の光を貪欲に飲み込んでいる。「な、なんだこれは……!?」 氷室が狼狽し、後ずさる。「私のセンサーには何の反応もなかったぞ! どうやって侵入した!」『シンニュウ? チガウナ……』 黒い影が、嘲笑うように歪んだ。『オレハ、ズットココニイタ……。ココハ……ミオボエ……アル』「見覚えが……ある……だと? まさか、君は……『被検体ゼロ』なのか?」 氷室の表情が、驚愕から歓喜へと劇的に変わる。「そうか! 成功していたのか! これこそが、肉体を捨て、情報体へと進化した人類の姿……神の領域!」 氷室は狂気に取り憑かれたように両手を広げ、黒い影へと歩み寄ろうとした。「素晴らしい! さあ、私にデータを見せてくれ! 君の中で何が起きているのかを!」 だが、黒い影――ゼロは、氷室の歓喜など意に介さず、低い声で唸った。『……久我(クガ)ハ、ドコダ?』「え……?」 氷室が足を止める。「久我……教授のことか?」『ソウダ。オレタチヲコンナ姿ニシタ、諸悪ノ根源……。久我ハドコニイル?』 ゼロの身体から、どす黒い殺気が噴き出し、氷室へと向けられる。その物理的な圧力に、氷室はたじろぎ、腰を抜かしたように後退った。「く、久我先生はもういない!」
ウィィィィン……。 正門の分厚い強化ガラス扉は、俺たちが近づくとセンサーが感知し、滑らかに左右へ開いた。外見は蔦に覆われた廃墟のはずなのに、自動ドアの機能は生きていたのだ。「……空調が効いています」 薫が身震いして言った。一歩足を踏み入れると、そこは外界とは隔絶された別世界だった。 外の湿った熱気とは無縁の、冷たく乾燥した空気。磨き上げられた大理石の床。天井にはモダンなLED照明が煌々と輝き、広々としたエントランスホールを無機質に照らし出している。『――ようこそ、神去島へ』 突然、ホールに設置されたスピーカーから、理知的だが冷ややかな男の声が響いた。外にいたゾンビたちのようなノイズ混じりの声ではない。明確な殺意と知性を孕んだ声だ。『待っていたよ、侵入者諸君。……さあ、奥へ来たまえ。話し合おうじゃないか』「……話だと?」『そうだ。君も、ただ暴れに来たわけではないだろう? 知りたいことがあるはずだ』 ホールの奥へと続く廊下の照明が、誘うように順に点灯していく。「……どうしますか、先生」「行こう。どのみち、親玉を叩かないことには始まらない」 俺は妖刀の柄に手をかけ、警戒しながら廊下を進んだ。 突き当たりの重厚な扉が開くと、そこは巨大な観察室だった。正面の強化ガラス越しに見下ろせるのは、数々のカプセルと複雑な配線がのたうつ、地下実験場だ。 さらに奥へ進むと、壁一面がガラス張りになった広いオフィスのような空間に出た。 そのガラスの向こう側――制御室とおぼしき場所に、一人の男が立っていた。白衣を纏った痩身の男だ。神経質そうな眼鏡の奥で、感情の読めない冷たい瞳が俺たちを見下ろしている。 ガシャーン! 入ってきた扉が、背後で重々しい音を立ててロックされた。「私がこの施設の管理者、氷室だ」 氷室は、ガラス越しに俺たちを見下ろした。それは人間を見る目ではない。シ
日が落ち、森は漆黒の闇に包まれた。 俺たちは詰め所の外、少し開けた広場の中央に、枯れ木や油分を多く含んだ松の枝を積み上げ、即席のキャンプファイヤーを組み上げていた。 朔也が重い枝を引きずりながら、顔を引きつらせる。「おい、山火事にでもなったらどうするんだ。延焼したら、詰め所に逃げ込んだ俺たちも酸素欠乏で死ぬぞ」「この島は湿気が多い。それに今は海側へ風が抜けている。……たぶんな、延焼はしないさ」「『たぶん』で放火するな! まあいい、そっちは俺が何とかしてやる」「何とかって、どうするんだ?」「ふっふっふ。俺を連れてきたことを、涙を流して感謝させてやるさ」 若干の不安はあったが、悲観的になられるよりはマシだ。「期待してるぜ、お坊ちゃん」 文句を言いながらも、朔也は真面目に動いた。こういう局面で手を抜かないのは、育ちの良さゆえの生真面目さだろうか。薫も手際よく、投げつけるための松明(たいまつ)を何本も作ってくれた。「よし、準備完了だ」 俺はライターを取り出し、枯れ葉の山に火をつけた。 パチパチと音を立てて、オレンジ色の炎が燃え上がる。闇夜に浮かぶ焚き火は、この不気味な島において、獲物を誘う強烈な「餌」となった。 ガサガサッ、ガサッ……! 森のあちこちから、枝をへし折るような不気味な音が近づいてくる。「……来たぞ。薫、お前は先に詰め所の中へ! 菊千代もだ!」「ひっ……! き、来やがった!」 朔也が俺の後ろに隠れる。「ビビるな。もっと引きつけろ。奴らが密集するまで待つんだ」 俺と朔也は、詰め所の入り口脇に身を潜め、松明を手に機を伺った。 炎に照らされ、十体、二十体とゾンビ共が広場に集結していく。奴らが互いの肩が触れ合うほどに焚き火を囲んだ、その瞬間だ。「……今だ!」 俺は叫ぶと同時に、火のついた松明を、奴らの中心――一番密集してい
壁が迫りくる中で俺は考えていた。この迷宮が、ただ俺達を殺すためだけの存在なら、何故入り口や他の場所で殺さなかった? こいつらが楽しむため? そこで俺ははっとして気づいた。 俺はこいつの“声”を聞いていない!「うわぁぁぁぁ! もう駄目だ! 俺はここで死ぬのかぁぁ!」 ボンボンが涙目になってわめいていた。……こいつは! 俺はボンボンの肩をつかみ、顔を上げると頬を平手打ちした。 バチンッ!「!」 俺はボンボンをにらみつけて、言い放った。「俺は今からこの迷宮の声を聴く!! 少
菊千代はボンボンを離し、俺を降ろすと、ネコが毛玉を吐くように、黒いものを、吐き出した。それを何度か繰り返すうちに、元の子犬状態に戻ってしまった。「なんだよ、この犬! また小さくなっちまって、あのまま大きければ、また運んでもらえたのに」 ったく、こいつは! えり首つかまれていても良かったのか?と、思うところはあるが、何より助けてもらったという感謝の気持ちはないのか? 菊千代は、ボンボンの言うことなど、どこ吹く風とばかりに、足で首のあたりをかいていた。 そうだ! ボンボンなんぞ、どうでもいい。真雅田の爺さんだ。 そう思い、辺り
奈落へと飛び込んだ俺達は、深く深く落ちていった。「おぉぉぉぉぉい、四方儀ぃぃ! 忘れるな! 地面を地面だと思うな!」 ボンボンに声が届いたかどうかはわからない。しかし、この法則を理解していなければ地面に激突して死ぬかもしれない。そうなったら寝覚めが悪いので、忠告だけでもしておきたかった。 どのくらい落下したろうか、時間としては一、二分というところだろうか。ひたすら暗い闇から、徐々に明るい光が見えてきて、洋館の廊下のようなものが見えてきた。俺が着地のために身構えた。同時にボンボンが先に落ちて、潰れたトマトのようになっていないかを確認した。
壁を抜けると、そこは……「なんなんだここは……?」 そこは上下左右がデタラメな空間だった。だだっ広い空間に、いくつもの階段があり、それがねじれるように上下逆さまになって、天井につながっているかと思うと、天井と思っていたものは、廊下だったり、小部屋だったりする。はたまた、壁にもどこに続いているのかわからない階段があったり、どうやってたどり着けばいいのかわからないドアがあったりする。さらには、遠近感が狂って、近くのものが遠くにあるように見える場所すらあった。 もはや重力がどちらに働いてい