高橋悠斗(たかはし ゆうと)と別れてから10年目の同窓会。みんな立派になって、思い出話で盛り上がっている。クラスのマドンナだった後藤夏美(ごとう なつみ)が、いきなり私に謝ってきた。「梓、ごめんね。実はあの時、悠斗のお母さんの恥ずかしい写真を流したのは、私だったの。ただ、悠斗があなたをどれだけ信じてるか試したかっただけ。別れさせるつもりはなかった。でもまさか、彼があなたを振って、私を当てつけに使うなんてね。もう10年も前のことだし、気にしてないよね?」スーツ姿で今や大企業の社長になった悠斗が、みんなの輪の中で、ふいに手に持ったお酒をこぼした。私は穏やかな笑みを浮かべたまま、末期がんの診断書をそっと隠した。「もちろん気にしてないよ」だって、もうすぐ死ぬんだから。今さら気にしたって、意味ないでしょ?……同窓会がお開きになると、次の日も仕事がある人たちから先に帰っていった。夏美と、仲のいい男子が数人だけ、まだ酔っぱらって騒いでいる。私はもう客じゃなくて、夜のシフトを待つ店員として、静かにドアの外で待っていた。廊下は薄暗いのに、個室の中は明るく照らされていて、バカ騒ぎする声が絶え間なく聞こえてくる。不意に、誰かが言った。「夏美、あんときなんであんなひどいことしたんだよ。悠斗が一番気にしてるのが彼のお母さんのことだって知ってたのに、わざわざそれで突っつくなんてさ。正直に言えよ、わざとあの二人を別れさせようとしたんだろ?」夏美は泥酔していたけど、ろれつの回らない口でへらへら笑いながら言った。「そうよ、それが何か?私が欲しいと思った男で、手に入らなかったことなんてないんだから!でもまあ、手に入れてみれば大したことないのよね。悠斗のキスだって、他の男と別に変わらないし、特別うまくもなかったし。そういえばあなたたちは知らないでしょ。林の中でキスしてるところを、梓に見られたことがあって。あの時のあの子の顔、ハハハ、傑作だったんだから。まだ二人はちゃんと別れてなかった頃かな。すごく辛そうでさ、まるで悲劇のヒロインみたいに、めそめそしちゃって、ほんと痛々しかった。それに見てみなよ、今の二人。片や上場企業の社長で、片や私たちにお茶を運んでくるただの店員。天と地ほどの差があるじゃない。だから、もし私があの時何もしな
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