結婚三年目、私のボディガードを務める佐藤健人(さとう けんと)が、雨の中で私に傘を差しかける動画がバズった。ネット上では瞬く間に、「クールな護衛」と「ツンデレお嬢様」というカップリングが尊いと祭り上げられた。ネット特定班の執念は凄まじく、私の十年前の動画まで掘り起こされてしまった。動画の中の私はハイヒールをぶら下げ、なりふり構わずD国の空港を疾走している。友人の森田千雪(もりた ちゆき)が冷やかす。「嘘でしょ、結衣。本当に帰国してあの貧乏人に告白する気?あいつのどこがいいのよ」手ブレの激しい映像には、私のあどけない顔が映り、その目元や眉間には二十歳の頃特有の無鉄砲さが溢れていた。「健人が好きなの。彼は、私の愛全てを捧げる価値がある人よ」……アシスタントからタブレットを渡されるまで、私はネット上で自分と健人のカップリングが盛り上がっていることなど露知らずだった。アシスタントは気まずそうに補足した。「奥様の十年前の動画もトレンド入りしています」画面では画質の粗い映像が自動再生され、コメントが幾重にも重なって流れていく。【やっぱりただならぬ関係だと思った!雇い主を見る目が、餌を待つ忠犬そのものじゃん】【残念だけど、高橋結衣(たかはし ゆい)お嬢様はもう結婚してるみたい】【政略結婚でしょこれ。身分差がありすぎて引き裂かれる鬱展開、もう脳内で再生されたわ】動画の注目度は上がり続けていた。コメント欄ではすでに、私と健人を主役にした、身も心も引き裂かれるような壮絶な愛のシナリオが書き上げられていた。繊細な言葉で描かれたありもしない葛藤や無力感に、私自身さえ信じ込んでしまいそうになるほどだ。事情を知っているらしい少数のコメントだけが、呆れたように反論していた。【は?何言ってんの?健人と高橋お嬢様、付き合ってないから。昔、高橋お嬢様が一方的に追いかけ回して、バッサリ振られただけだし】そのコメントをタップすると、反論の嵐が巻き起こっていた。【ありえない。健人は絶対高橋お嬢様を愛してる。目は口ほどに物を言うってね、彼の瞳には彼女しか映ってないよ】私はタブレットの画面を消し、それ以上馬鹿げた言葉を見るのをやめた。十年前、私も健人が私を愛していると思っていた。だから私は、人生で初めてプライドも打算
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