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第5話

Author: 陽射山脈
当時、私が結婚した相手は、十八歳の時に婚約を蹴って逃げ出した、まさにその人だった。

西園寺家の長男、西園寺翔太(さいおんじ しょうた)。

彼は異常なほどストイックで、腹の底が読めない食えない男だ。

そのくせ、器は針の穴より小さい。

口喧嘩で私に敵わないとわかると、彼は淡々とあの「旧悪」を蒸し返す。私が結婚式をすっぽかして、彼を街中の笑い者にした一件を。

今回この動画が流出したことで、彼のご機嫌を取るためにどれほど人権を無視した条件を飲まされるか、想像するだけで恐ろしい。

しかし、よくよく考えればすべて健人のせいだ。

警備なら警備だけしていればいいのに、なぜわざわざ私のボディガードなんてしているのか。

そこまで考えて、私はアシスタントに言った。

「警備員を全員入れ替えて」

アシスタントは頷いた後、何か言いたげに私を見た。

最後には絞り出すように言った。「旦那様のスケジュールが届きました。今夜お戻りになるそうです」

私は驚いた。「彼は首都で会議中じゃないの?なんで戻ってくるの?」

アシスタントは沈黙した後、乾いた声で慰めてきた。「もしかしたら、その、別の用事かもしれませんよ?」

一気に背筋が凍りつき、私は上着を着て外へ出ようとした。

「雲城市のチケットを取って。今すぐ発つわ」

寝室のドアを開けた瞬間、見覚えのある瞳と鉢合わせした。

健人が廊下の陰に立ち、瞬きもせずに私の部屋のドアを見つめていた。

私が突然ドアを開けるとは思わなかったのだろう、彼は不意を突かれて一瞬固まり、瞳の奥に渦巻く感情を隠しきれなかった。

空港で私に会ってから、ずっとこの調子だ。

沈黙、葛藤、そして私には読み取れない鬱屈とした何か。

あの日、飛行機を降りたばかりの私は、時差ボケで体調が最悪だった。

それなのに隣の翔太は、食事や睡眠を規則正しくしろだのくだらない説教を耳元で垂れ流していた。

私はイライラして、衆人環視の中で彼の顔を押さえつけ、両手で挟んで黙らせた。

その瞬間、出迎えの人混みの中に健人の姿を見た。

彼はぴしっとした黒いスーツを着て少し離れた場所に立っていたが、見慣れた輪郭はより落ち着いたものになっていた。

目が合った瞬間、彼はなんと手に持っていたトランシーバーを取り落とし、呆然と私を見つめていた。

私は何事もなかったかのように視線を外し、ただの他人を見たかのように振る舞った。

その後、ターミナル出口で翔太は乗り継ぎのために首都へ向かう際、私の後頭部を押さえて強くキスをした。

まさにその時、遠くで重い物がぶつかる鈍い音がした。

車に乗り込んで初めて、窓越しに健人の姿が見えた。

どうしたわけか、彼の手のひらは皮が酷く捲れ、指の隙間から鮮血が地面に滴り落ちていた。

彼はただ呆然と私が乗る車を見つめ、微動だにしなかった。

私は視線を戻し、アシスタントに言った。「あまりプロフェッショナルじゃなさそうね」

アシスタントはタブレットを操作しながら答えた。「この警備会社は業界屈指の大手です。さっき平らな地面で転んだ方は、創業者の一人です。

確かに、プロにあるまじき失態です。警備はすぐに交代させます」

私は少し考えて首を振った。「いいわ、どうせ半月のことだし」

それに、十年も会っていないのだから、挨拶さえ必要ないだろう。

しかし、ネットユーザーというのは本当に恐ろしい。

あの日、私は長年会っていなかった友人と食事をし、レストランを出る時に外は雨だった。

健人が傘を差して外で待っており、事務的な声で言った。

「高橋様、お車までお送りします」

たった三十メートルの距離だったが、誰かに撮影されていた。

そして翌日。雨の中、財閥令嬢に傘を差すボディガードの姿がまるで映画のようだと話題になり、動画は瞬く間にバズってトレンド入りしてしまった。

どうせ一過性の祭りで、すぐに収まるだろうと思っていたのに。

まさかあの恥ずかしい動画が掘り起こされるとは。

幸い今の健人の様子を見るに、勤務中だからまだ動画を見ていないはずだ。

彼は早足で近づいてきて、表情は平静だった。

「高橋様、お出かけですか?車を回させます」

私は思い切って拒絶した。「必要ないわ。部下を連れて今すぐここから出て行って。

違約金の心配はいらないから」

彼はイヤホンに当てていた手を止め、私を見た。「ネットのニュースのせいですか?」

私は眉をひそめて黙っていた。

彼は口の端を引きつらせて笑い、少し嗄れた声で言った。「ネットでああ言われていること、高橋様は気にされているんですか?」

私は顔を上げて健人を見た。

彼は私をじっと見つめ、珍しく攻撃的な色を見せていた。

「ネットの情報なんて、嘘か本当かも分からない噂レベルの話です。当事者の心にやましいことがなければ、それは――」

私は彼を遮った。

「佐藤さん、私は今あなたの雇い主よ。一線を越えてるわ」

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