「波さんは何をそんなに焦っているんだ?」一雄は目に冷徹な光を走らせた。「何も今回の殺人事件のことだけじゃない」彼は裁判官に視線を向けた。「裁判官。私が疑問を呈しているのは、波さんによる真帆さんへの『傷害未遂事件』についてです」裁判官が促した。「どのような問題ですか?」「問題ならいくらでもあります」一雄の声は低く、そして酷く冷ややかだった。「たとえば、波さんが真帆さんを殺そうとしたのは、決して今回が初めてではないという点です。数ヶ月前、波さんは『依頼による傷害罪』により、すでに警察に数日間拘留されています。実に奇妙なことに、その時のターゲットも、今回の原告である真帆さんだった。さらに、弁護側は波さんに犯行の動機がないと主張していますが、真帆さんは過去に弁護士として、波さんの元夫の代理人を務め、子供の養育権を巡る裁判を戦っています。もし波さんがその一件で真帆さんに激しい恨みを抱いたのだとすれば、動機としては十分すぎるはずです」その事実が突きつけられた瞬間、波だけでなく、龍司までもが驚愕に目を見張った。一雄がこのタイミングで過去の拘留の件を持ち出してくるとは、完全に想定外だったのだ。しかし一雄は周囲に反論の隙を与えず、容赦なく言葉を重ねた。「裁判官。私はここで、証人として森下寛人、すなわち波さんの元夫の出廷を要求します。当時、養育権を争うために真帆さんを頼り、あの裁判を起こした張本人である彼から話を聞くのが最も確実だと考えます」「ダメよ!」波は半ば無意識に叫び、机を叩いて立ち上がった。しかし、すぐに自分の反応が異常なまでに激しかったことに気づき、慌てて席に座り直した。それでも泳ぐ視線は隠しきれない。「そ、それは……彼は今、ここにいるわけではありませんし、証人として呼ぶにしても、事前に手続きが必要です。そんなことをしていては時間が無駄になりますし、また判決が引き延ばされることになってしまいます……」その時、法廷の重い扉が開き、資料を抱えた知恵が息を切らせて駆け込んできた。一雄の部下である護衛の隊長も静かに続いた。隊長が一雄に向かって無事に任務を完了したと深く頷いてみせると、一雄もそれ以上は口を開かず、静かに席へと戻った。真帆はすぐさま知恵の元へと駆け寄り、彼女の体を上から下まで見回した。「知恵!大丈夫!?どこかけがはなかっ
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