LOGIN命の瀬戸際で出会ったのが、鷹宮龍司(たかみや りゅうじ)だった。 温和で品のあるその佇まいに、柊真帆(ひいらぎ まほ)は、この人となら一生を共にできると、そう信じた。 だが、龍司に言われるがまま、彼の「忘れられない人」のために離婚訴訟を引き受けたことをきっかけに、五年間の結婚生活が、すべて嘘だったと知る。 自分への深い愛情も、愛妻家という世間の評判も、そして——彼が負っていたはずの脚の障害さえも。 彼は、巧みに言葉を操り、真帆を騙し続けた。 けれど、真帆だって決して一方的にやられるだけの存在じゃない。 離婚届を手にしたその日、真帆は再び世間の非難を一身に浴びた。 だが彼女は、それを逆手に取り、逆境の中から立ち上がった。 そして—— 五年間、彼女を探し続けていた執着深い男が、夜を越えて駆けつけ、片膝をついて指輪を差し出した。 「真帆。俺を救ってくれた君を、手放すつもりなんてない」 これは、裏切りの先で「本当の幸せ」を掴み取る、一人の女性の逆転劇。
View More一雄があまりにもあっさりと自分の非を認めたため、真帆はかえって何と返せばいいのか分からなくなった。「でも、真帆に見てほしいものがある」一雄はスマホを取り出して何度か操作すると、真帆に差し出した。「これを見ても、まだわだかまりが消えないなら……」一雄は一度言葉を切った。「真帆の望みどおりにする」その言葉に、真帆の目が揺れた。私の望みどおりに……それはつまり、このまま海外で暮らし、これまでのすべてと決別することを認める、という意味なのだろうか。真帆は、スマホに映る映像へ視線を落とした。それは監視カメラの映像だった。二十歳の誕生日。真帆が西園寺家にいた一雄を訪ねたが、他人扱いされて追い返された時の映像だった。あの日の出来事は、真帆の心の奥に、消えない傷として刻まれている……見続けることができず、真帆は思わずスマホを一雄に返そうとした。しかし、一雄はそっと真帆の手を押さえた。その声には、不思議な力があった。「最後まで見てくれ。そうすれば、心のわだかまりも解けるかもしれない」「わだかまり」という言葉をもう一度聞いた瞬間、真帆は感情を抑えられなくなった。そうだ……まさにこの件が大きなわだかまりだった……何年経っても、あの日、人前で徹底的に傷つけられた光景が夢に出てくる……結局、自分の心の奥にあるわずかな期待には抗えず、真帆はもう一度画面へ目を向けた。動画には、胸を締めつけられる場面だけではなく、ある建物の窓に映った人影が残されていた。真帆は映像を数秒巻き戻し、その姿を確認しようとした。「お父さんだ」一雄は静かに説明した。「一人じゃなかった。玲子さんもいた」あの夫婦は、ずっと見ていたのだ……その瞬間、真帆は直哉に言われた言葉を思い出した。「今の一雄さんの華やかさだけを見ないでください。華やかな人ほど、その裏には大きな苦労があります……」あのときは理解できなかったが、今ならようやく分かる。当時、一雄は西園寺家へ戻ったばかりで、まだ何の基盤も持っていなかった。つまり、真帆を追い返したのは……真帆は震える手でスマホを階段に置いた。「どうして……今まで教えてくれなかったの?」「怖かったからだ」何も恐れないはずの一雄が、初めて自分の弱さを認めた。「すべての危険を取り除いてから
その夜のパーティー会場は近くだったため、和幸と真帆は歩いて向かうことにした。歩いている途中、和幸は真帆が突然立ち止まったことに気づき、不思議そうに振り返った。「真帆、どうした?行かないのか?」真帆は信じられないものを見るような目をしていた。一度静かに目を閉じたが、再び目を開けても、その姿は消えていなかった。見間違いじゃないのね……「どうしたんだよ?」真帆が何も言わず動かないため、和幸は首をかしげた。「何でもない」真帆は淡々と答えた。そして、和幸の腕にそっと自分の腕を絡め、優しく微笑んだ。「行こう」「ああ」和幸はうなずき、特に気に留める様子もなかった。主催者が二人に気づき、笑顔で近づいて来た。「和幸さん!」「教授、お久しぶりです」和幸は挨拶した。「ご紹介します。こちらは……」和幸が紹介しようとした、その時だった。「……俺のお姫様」一雄が突然現れ、その言葉を遮った。一雄の呼吸は少し乱れていた。おそらく急いで来たのだろう。前に別れた時、真帆はまだ意識を取り戻していなかった。ようやく西園寺家の問題をすべて片づけた一雄は、真っ先にここへ飛んできたのだ。長い間、真帆とちゃんと話すことができていなかった一雄は、ずっと真帆に会いたくてたまらなかった。真帆が海外にいたいと言うなら、自分も一緒に海外で暮らす。もし、うつ病がまだ治っていなかったら、腕のいい医師を探して治療を受けさせる。もし、あの日の出来事をまだ許せないなら、何度でも説明する。真帆が受け入れてくれるその日まで、何度でも謝る……会えない間、そんなことをずっと考えていた。やっと会えた今、一雄の視線は和幸と腕を組む真帆に向けられた。わずかに眉をひそめ、冷たい声で名前を呼んだ。「真帆」和幸は空気の変化を察し、弾かれたように慌てて腕を引っ込めた。真帆は少し困ったような表情を浮かべ、何か言おうとした。しかし和幸は、一雄の刺すような視線に耐えきれず、主催者の隣へ逃げるように立った。「一雄、そんな目で見るなよ。真帆のことを頼むって言ったのはお前だろ?その目は何なんだよ。恩を仇で返す気か?」和幸は、一雄の視線が怖くてたまらなかった。同時に、自分は理不尽な扱いを受けている気もしていた。何も言わない真帆に、一雄はもう我慢できなくなり、
真帆は病室を見回し、それから点滴のチューブへ視線を落とした。「私……」「交通事故に遭われました。でも運がよかったですね。かすり傷程度で済みました。ただ……」「ただ?」看護師が答えようとしたその時、病室のドアが開いた。慌てて入ってきた和幸は、真帆が目を覚ましているのを見ると、ようやく安堵の息をついた。「よかった……三日くらい目を覚まさないんじゃないかと思ったぞ」「無事だったの?」真帆は状況がまったく分からなかった。記憶はまだ別荘で止まっている。「知恵は?」「知恵さんも無事だ。もう家まで送ってきた」和幸は隣の椅子へ腰を下ろした。「どこか痛むところはないか?頭はくらくらしないか?先生が、特に異常がなければ目が覚めてから三十分ほど様子を見て退院していいって言ってた」「いったい何があったの?どうやって脱出したの?浩一郎さんと風香さんは?」真帆は矢継ぎ早に質問した。和幸はしばらく黙ってから、ゆっくり口を開いた。「あの女は重傷で助からなかった。事故現場で亡くなった。あのじいさんは……」そう口にすると、和幸は鼻を鳴らした。「あのじいさんは年寄りだからな。今は集中治療室にいる」「つまり……無事だったのは私だけなの?」真帆は違和感を覚えた。「一雄は?」和幸の視線が一瞬泳いだ。真帆はすべてを悟った。「……一雄が、やったの?」「とにかく、あいつは……お前が目を覚ましたら、まず海外へ連れて行けって言ってた」珍しく和幸は否定しなかった。ただ、その声にはためらいがあった。「西園寺家のことを片づけたら、迎えに行くってさ」「やっぱり……一雄だったんだ」和幸の言葉を聞いても、真帆は驚かなかった。それどころか、どこか安心した気持ちさえあった。それはつまり、一雄が浩一郎たちに追い詰められていなかったということだ……だが、和幸は不思議そうな顔をした。「お前……怒らないのか?」真帆は顔を上げた。「何を?」「いや、その……」今度は和幸のほうが言葉に詰まった。和幸は、真帆が一雄のやり方を冷酷だと責めるものだと思っていた。風香はその場で死亡し、浩一郎も生死の境をさまよっている。それに真帆も馬鹿ではない。こんな都合よく、狙った相手だけが被害を受ける交通事故などあるだろうか。見た目は大事故だが、実際に大き
バンッ……それでも銃声は鳴り響いた。真帆は顔面蒼白になり、目を開けた。無傷でその場に立っている和幸を見た瞬間、冷や汗が一気に噴き出し、足から力が抜けそうになった。「最初からそう素直になればよかったものを……」浩一郎は満足そうに笑い、護衛へ目配せした。護衛はすぐに意図を察し、和幸と知恵を押さえたまま書斎の入口まで連れて行った。「真帆さん、行こうか」浩一郎の意味ありげな笑みを見て、真帆は目の前がくらくらした。それでも気力を振り絞り、一歩ずつ浩一郎のあとについて階下へ降りた。「真帆……」玄関まで来た時、知恵の目から涙がこぼれ落ちた。「ごめんね……」もし自分と和幸がいなければ、真帆が弱みを握られることもなかった。酒が抜けた時点で、すぐに別荘を出るべきだった……真帆は足を止め、静かに振り返った。別れを告げるように二人を見つめると、そのまま浩一郎の後ろについて別荘を出た。外には大勢の人が集まっていた。警備員、近隣住民、そして警察……だが、それが何になるというのだろう。一緒に外へ出てきたのは、真帆と風香、そして浩一郎だけだった。若い女性と七十を過ぎた老人。そんな二人を見て、誰が拉致だと疑うだろうか。浩一郎の秘書も外部への対応に長けていた。ほんの数言で、浩一郎を「反抗期の孫娘を迎えに来た困った祖父」という存在に仕立て上げた。世論は一瞬で逆転し、非難の矛先は真帆へ向けられた。車へ乗り込んだその瞬間も、周囲からの批判の声は途切れなかった。だが誰一人、別荘の中で和幸と知恵が銃口を突きつけられていることなど知らない。風香は助手席に座った。浩一郎と真帆は後部座席に座った。車が走り出した瞬間、真帆はバックミラー越しに風香の視線を見た。挑発的で、勝ち誇ったような目だった。真帆はシートへ身を預け、静かに目を閉じた。「ずいぶん落ち着いているな」静まり返った車内で、浩一郎が数珠を指で繰る音だけが響いていた。「泣き叫ぶか、車から飛び降りて逃げようとするかと思っていたが」「飛び降りる?」真帆は自嘲気味に口元を緩めた。「そんなことをしたら、もっと早く死ぬだけです」その言葉を聞き、浩一郎は真帆を見た。「死ぬのが怖いのか?」真帆は遠慮なく答えた。「あなたが卑怯な手を使って、私の友達を殺すこ
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