風香は今にも涙がこぼれそうな目で、歯を震わせながら言った。「わ、私……ほら、足首がこんなに腫れてきて……」大げさに演技しているわけではない。実際、額に汗がにじむほどの痛みだった。その後、風香が何を言ったのか、一雄の耳には入っていなかった。彼の意識は、「当然です」という一言に向けられていた。風香はただ足首をひねっただけで、立ち上がることもできない。一方、真帆は交通事故で全身に重傷を負い、頭にも怪我を負い、脚も骨折していたというのに……目を覚ましてから一度たりとも「痛い」と口にしなかった。「一雄さん……」風香は自分の足首を見てから一雄を見上げ、困ったような表情を浮かべた。「歩けるか?」一雄の表情は冷たく、その声も淡々としており、心配の色はまったくなかった。「こんなに腫れていて、本当に痛いんです……」風香は「歩けません」とは言わず、何度も痛みだけを訴える。つまり、自力では歩けないということだった。ここは庭園で、すぐに誰かを呼ぶこともできない。今この場で彼女を屋敷まで連れて帰れるのは、一雄しかいなかった。一雄は辺りを見回した。普段なら庭師がいるはずの庭園だったが、今日は姿がない。おそらく浩一郎があらかじめ下がらせていたのだろう。その時、不意に冷たい風が吹き抜けた。風香は思わず身震いし、腕をさすった。その様子を見た一雄は、仕方なく自分の上着を脱いで風香の肩に掛けると、身をかがめて風香を抱き起こし、右腕を支えながら立たせた。「これで歩けるか?」風香は片足だけで立ち、痛めた足を浮かせたまま黙っていた。「無理なら、安藤先生を呼んでくる」安藤康太(あんどう こうた)は西園寺家の専属医だ。浩一郎も健康とはいえ高齢のため、万一に備えて屋敷に常駐させていたのである。「い、いえ、大丈夫です」風香は慌てて首を振り、ぎこちなく笑った。「一雄さんに支えてもらえれば……たぶん歩けます」「ああ」一雄は短く頷いた。屋敷へ戻る道中、風香は何度も一雄にもたれかかろうとしたが、一雄は決してその隙を与えなかった。応接間へ戻ると、浩一郎は風香の姿を見てすぐ使用人に安藤先生を呼ぶよう命じ、良江も水を持って来て彼女の足を洗った。「一雄、風香さんはどうしたんだ?お前に任せたはずだろう。どうしてこんな怪
Read more