帰りの車は荷物でいっぱいになり、弟しか座る場所がなくなった。最初は、両親にトランクに乗るように言われたんだ。だって、席はもう一つしか空いてなかったし、弟を我慢させるわけにもいかなかったから。僕は聞き分けのいい子だから、ちゃんと言うことを聞いた。おとなしくトランクの中で、体を小さく丸めてたんだ。でも、車が動き出すと、つんとするガソリンの匂いがした。車がガタンと揺れるたび、僕の体は冷たい壁に勝手にぶつかっちゃうんだ。そしたら、母に、「車から降って」って言われた。僕が吐いちゃって、弟の新しいおもちゃを汚すのが嫌だったみたい。母は僕に100円だけ渡して、バスで帰れって言った。でも、バス代は200円だった。母に言われたとおりにしたのに、バスの運転手に降ろされちゃった。「君みたいなウソつく子はたくさん見てきたぞ!わざと100円足りなくして、おこづかいにするつもりだろ!」それを聞いて、まわりの人たちも嫌な目で僕を見てきて、顔がすごく熱くなった。でも、お金なんて隠してない。母は、本当に100円しかくれなかったんだ。「あなたは子供だから、100円くらい足りなくても大人は気にしないから大丈夫」って、母は言ってたのに。バスは行っちゃって、僕はそこに一人ぼっちで残された。次のバスが来るのは、30分も後だった。僕はずっと、ずっと待っていた。そうしたら空がまっ黒な雲でおおわれて、大つぶの雨がぽつぽつ降ってきたんだ。風が吹いて、寒くて体がぶるぶる震えた。やっと次のバスが来たのに、そのバスの運転手も、やっぱり僕を乗せてくれなかった。雨はどんどん強くなって、ゴロゴロって雷まで鳴り始めた。僕は、とうとう怖くなっちゃった。20円を使って、公衆電話から母に電話した。「迎えに来て」ってお願いしたんだ。電話の向こうから聞こえたのは、がっかりしたような母の声だ。「こんな簡単なこともできないなんて、あなたに一体なにができるの?本当にどんくさいんだから。バスにも乗れないなんて、あきれちゃう」僕は下のくちびるをぎゅっとかんで、泣くのを我慢した。でも父は、車で迎えに行くのはガソリン代がもったいないって。そのお金で弟のおもちゃが買えるから、自分でなんとかしてって言った。電話の向こうから、ツーツーって
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