Semua Bab 僕は僕が欲しいものなんて知らない 聖北学院大学演劇研究会 入学編: Bab 41 - Bab 49

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第五章 夏季休暇 第四十話

 夏休みが始まった。大学では夏休みの宿題なんてものはなかった。最初から最後まで完全に自由だ。しかも長い。なんというか、解放感がある。世の中の大学生が浮かれてしまうのもわかるような気がした。 とりあえず、アルバイトでも探してみることにした。自宅から一番近いコンビニへ行って漫画の週刊誌を立ち読みする。三誌読むのにだいたい一時間くらい。その間にコンビニのアルバイト店員がモップで床掃除を始めたので、立ち読みをしたまま店員を避ける。僕以外にも同じ動きをしている人が数人いた。よく見かける光景だった。 読み終えてから、本来の目的である無料のアルバイト情報誌を持って家に帰った。二階にある自分の部屋でパラパラとアルバイト情報誌を眺める。働いたことがないので自分が何に向いているのかまったくわからない。何をして働きたいとかもよくわからない。 強いて言えば、古本屋にはよく行くのでなんとなく店員が何をしているのかわかる。知っているので働くイメージがしやすい。探してみるといくつか載っていた。一番家から近い店は、自転車で行けば二十分くらいで行けそうな距離だ。とりあえず、このチェーン展開している古本屋に応募してみることにした。 今度は文房具屋へ行って、履歴書を買ってきた。いままで面接をしたことがないので、履歴書を書くのも初めてだ。高校も大学も筆記試験だけで面接試験はなかった。とりあえず買ってきた履歴書に書き方の例が載っていたので、それを参考にして書いてみる。 僕は字があまり綺麗ではないので、集中しなければある程度整った字を書くことができない。だから、書くのにとても時間がかかる。住所氏名生年月日、学歴職歴はまあ、決まっているので迷わず書ける。趣味特技。うーん。中学の時の卓球と、小学生から中学にかけて三年間水泳を習っていたことがある。ピアノも小学生の時に習っていた。特技かな?嫌いではないけど、趣味かと言うと違うか。趣味は読書だ。たくさん小説を読んでいる。漫画は読書に入るだろうか? 長所・短所。なんだろう。改めて聞かれるとよくわからない。自分の嫌いなところならけっこうあるから、短所なら書けるけど。短所をたくさん書いてもあまり良くない気がする。でも長所ってなんだ?勉強が苦手じゃないのは長所だろうか。集中力
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第四十一話

 二日後。午後二時に面接なので、自転車で古本屋へ行った。時々立ち読みをしているのであまり本を買わない客として覚えられていなければいいなと願った。古本屋へ入って店員に面接に来たことを伝えると、関係者以外立入禁止と書かれた扉を通ってバックヤードへ案内された。「どうぞ、入ってください」「失礼します」 バックヤードの奥の部屋へ入ると、パソコンの前に白髪交じりの中年男性が座ってこっちを向いていた。「どうぞ、座ってください」「失礼します」 僕は椅子に座り、かばんから履歴書を取り出して渡す。中年男性は履歴書をざっと読んでからこちらを向いた。「私は店長の阿部です。それではこれから面接を始めます。お名前から教えて下さい」「はい。渡辺浩二です。聖北学院大学一年生、十八歳です」「はい、わかりました。志望動機を教えて下さい」「はい、……えーと、私は、本が好きなので、よく読みます。小説でも漫画でも、たくさん読んでいます。だからその、お客さんから、いえ、えーと、お客様から、こういう本が欲しいと聞かれたときでも、作家名や作品名をわりとよく知っているので、答えられると思います。あと、本に関係する仕事をしたいと思って応募しました」「なるほど」「……」「以上ですか?」「はい、以上です」 いまの答え方で良かったのだろうか。もう少し何か付け加えることを期待されていたような気もする。「週何日くらい働けますか?」「はい、週三日勤務を希望します」「勤務時間帯の希望はありますか?」「ええと、九月末まで夏休みなのでそれまでは午前も午後も働けますが、大学の授業が始まったら午後五時から十時までを希望します」「わかりました。大学ではなにか、部活とかやってますか?」「はい、演劇研究会に入っています」「へえ、演劇ですか。ずっとやってたんですか?」「あ、いえ。大学に入ってから、たまたま友人に誘われて始めました」「そうなんですね。ここで働き始めたら、ここまで
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第四十二話

 それから一週間、近くの図書館で本を借りて、読み終わったら返却してまた借りる生活を続けていた。いつものように小説を読んでいると、自宅の電話が鳴った。「浩ちゃーん!電話!」「はーい」 僕は小説にしおりを挟んで一階へ降りる。固定電話の保留音が聞こえる。「誰から?」「古本屋」 保留にしてくれていて良かった。浩ちゃんなどと呼ばれているのを聞かれたくはない。「はい、渡辺浩二です。お電話かわりました」「もしもし、先日面接した阿部です。面接の結果なんですが、今回は残念ながら採用を見送ることになりました」「あー……そうですか」「履歴書はこちらで責任を持って破棄させていただきます。今後の活躍を期待しています。それでは、失礼します」「わかりました」 わりとショックだった。「なんて?」「不合格だってさ」「そう、残念だったね」「うん」 次を探さないとな、と思ったがやる気が出なかったので小説の続きを読みに二階へ上がった。再び小説を読み始めたが内容が頭に入ってこない。仕方ないのでベッドに寝転がり、もやもやしながらだらだらと時間を潰した。 次の日にまたコンビニへ寄り立ち読みした後、新しいアルバイト情報誌を持って帰った。自室で情報誌をパラパラとめくる。今度は時給の高いところを狙ってみようか。北海道の最低賃金は六二八円だ。同じ時間働くなら、やっぱり時給は高いほうがいい。 回転寿司のチェーン店でホールスタッフのアルバイトを募集していた。仕事の内容を見てみると注文をとったり食器を片付けたり会計をしたりするようだ。回転寿司なら客が勝手に皿をとるから、そんなに忙しくないかもしれない。時給も九百円以上なので、最低時給よりもだいぶ高い。家からも自転車で十分くらいなので近い。とりあえず、ここに応募してみることにした。 めんどうだがまた履歴書を書かなければいけない。いま気づいたが、アルバイト情報誌の巻末に履歴書がついていた。まえにもらってきたやつにもついていたのだろうか。文房具屋で買ってきた履歴書よりは
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第四十三話

 三日後。自転車で寿司屋へ向かう。約束していた時間の十分くらい前に着き、店の中へ入る。いまは営業時間外らしく、客はいない。一人だけ午後の開店準備をしているらしい店員がいたので、面接に来たことを伝えると、バックヤードの方を示された。「店長は奥にいるので、入って待っててください」「はい、ありがとうございます。失礼します」 僕はバックヤードに入って中の通路を進む。奥にドアのない部屋の入口があり、光がもれていた。「失礼します、面接に来ました」 僕が声をかけて中に入ると、店長らしき中年男性のひざの上に、僕よりは年上の若い女性が座って密着していた。女性は僕に笑いかけ、ひらひらと手を振る。「……」「まだ時間じゃねえ!外で待ってろ!」「……失礼しました」 あまり人から怒鳴られたことがないので驚いたが、店長の人格には問題があるな。ええと、愛人か何かだろうか?僕はバックヤードの入口付近まで戻った。これは落ちたな、というよりここで働きたくないな。履歴書渡さずにもう帰りたい。というか、本当にこんなことがあるんだな。珍しいものを見た。 数分後、ひざの上に乗っていた女性が薄笑いを浮かべながら僕を呼びに来た。僕は事務室に入って座る。「言われるまで座んじゃねえよ、非常識だな」「あーはい、すいません」 全然気持ちがこもらない謝罪をする。勤務中にいちゃついてる人に常識をとやかく言われたくない。ひざの上なら勝手に座ってもいいのだろうか。気持ち悪いので座りたくないが。「じゃ、面接始めます」「はい」「志望動機は?」「はい、家から近いのと、時給がわりと高いからです」 なんだろう、ぜんぜん緊張しない。受かる気がまったくないからだろうな。早く面接終わらないかな。どうせ向こうも採用する気ないんだろうし。「それだけ?」「それだけです」「……長所と短所教えて」「長所は倫理観が高いところで、短所は正直すぎるところですね」
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第四十四話

 アルバイト情報誌をめくっていると、コンビニ店員の募集が多い。時給はだいたい六三〇円でほぼ最低時給だが、人が足りていないので募集しているのだろう。もうコンビニでいいかな。時給が安いってことは仕事も楽なのかもしれない。コンビニなら家の近くにもどこにでもたくさんある。 家から歩いて十分ほどの距離にあるコンビニで運よく店員を募集していたので応募してみたが、不採用だった。面接した結果、採用したいというレベルではなかったのかもしれないし、それともふだんから少年漫画誌を立ち読みしているからかもしれない。顔を覚えられていて迷惑客と思われ、というかまあ、迷惑客でしかないわけだが。コンビニの商品は割高だからあまり買わない。だから敬遠された可能性はある。実際のところは定かではないけれど。 早いところ働き始めなければ夏休みが終わってしまう。もう十日以上たってしまった。僕が夏休み中していたことと言えば小説や漫画を読んでいるかアニメを見ているかしかしていない。それはそれで不満ではないのだけれど。だけどこれからわりと居酒屋に行ったりカラオケに行ったりお金を使う機会は増えていく気がする。なにより携帯電話がほしい。すこし焦りを感じ始めていた。 僕は大学へ通うとき、自転車で三十分くらいのところにある地下鉄まで行く。その地下鉄駅の近くにあるコンビニで店員を募集していたので、そこへ面接の応募をした。そのコンビニはふだん僕が使っている地下鉄の入口から少しだけ離れていたので、ほとんど入ったことはないはずだ。ふだんはコンビニの前を自転車で通り過ぎているだけだったので、そこにあることは知っていた。 四日後、そのコンビニへ面接を受けに来た。モップがけをしていた店員に、面接に来たことを伝えると、店員はレジカウンターの奥にある扉の向こうへ入っていきすぐに戻ってきた。「お待たせしました。こちらから入ってください」 僕は店員の後へ続き、レジとは反対側にある冷凍庫の近くにあるドアを抜ける。中に入ると狭い通路に棚が設置してあり、棚にはいろいろなお菓子の段ボールが収納されていた。通路の奥にまたドアがあり、そこに入ると小さな事務室になっていた。「面接の方をお連れしました」 店員は事務室の奥にいた男
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第四十五話

「どうも、よろしくお願いします。店長の斉木です」 店長は小太りで長めのスポーツ刈りをした三十代くらいのメガネをかけた男性だった。「渡辺浩二と申します。よろしくお願いします」 何回か面接を受けるうちに慣れてきたのかもしれない。それほど極端に緊張したりせず、受け答えすることができるようになっていた。けれどそれは家の近くのコンビニで面接を受けたときもそうだった。とくに気になるところもなく面接を終えたが、受かるかどうかわからない。落ちたことしかないので自信なんてなかった。 面接の四日後にコンビニから電話が来た。「先日は面接お疲れさまでした。店長の斉木です。面接の結果ですが、採用させていただきたいと思います」 うれしくて少し興奮した。「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」「雇用契約を結びたいので、今日もし暇なら来ていただきたいんですけど、大丈夫ですか?」「はい、大丈夫です」「いつごろ都合いいですか?」「いつでも大丈夫です」「そうですか。じゃあ、午後一時すぎくらいにシャチハタ以外の認印を持ってきてもらえますか?」「はい、わかりました」「それで、雇用契約書に保護者のサインも必要なので、それを書いてもらってまた今日か明日持ってきてください」「はい」「それで、初日の勤務なんですが、明後日の午前中とか大丈夫ですか」「はい、大丈夫です」「そうですか。それじゃあ、明後日の十時から、靴はスニーカー、ズボンはジーパンで来てください」「はい、わかりました。ありがとうございます」 あー、よかった。これで夏休みを無駄にしなくてすむ。スニーカーもジーパンもあるのでとくに用意しなければならないものはない。「お母さん、アルバイト決まったよ」「そう、おめでとう」「うんありがとう」「今日の午後一時すぎに雇用契約結んで、明後日から勤務だって」「そう。じゃあ、早めにお昼の準備しなきゃね」「ありがとう」 僕は階段を上がり、今日は家にいる二番目
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第四十六話

 二日後。僕は朝七時すぎに目が覚めた。一応バイトの時間に寝坊したらいけないので目覚ましをかけていたが、それよりも早く目覚めた。「おはよう」 「おはよう、早いね」 母が朝食の準備をしている。父はその奥でヒゲをそっている。「うん、なんか起きた」 「浩ちゃん今日何時だっけ?」 「十時だよ。お父さんおはよう」 「おはよう。早いな」 父はT字かみそりを持ったまま振り向いた。口の周りにシェービングフォームがついている。朝食の準備ができるまで僕は新聞を読むことにした。居間のテレビではNHKのニュースが流れている。僕の家ではいつも朝はニュースだ。 新聞を読んでいると、ドタドタと哲ちゃんが階段をおりてきた。一番上の兄で、名前は哲也だ。「あんた、間に合うのかい?もっと早く起きなさいよ」 「大丈夫、間に合う」 台所でいつものように哲ちゃんが母に怒られている。父はすでに朝食を食べ始めていた。僕も立ち上がって手を洗いにいく。「浩ちゃん、淳ちゃん起こしてきて」 「ん」 次男の淳ちゃんはまだ寝ていた。いつものことだ。僕は手を洗ってからのろのろと階段を上がり、淳ちゃんに声をかける。それからごはんを食べ始めると、母も食卓についた。「淳ちゃん起きてた?」 「起きたよ」 少しすると淳ちゃんがおりてきて、父と哲ちゃんは食事を終えた。職場は違うが、二人とも同じバスに乗って出勤する。僕も朝食を食べ終わってテレビを見ていると、すぐにバイトの時間になった。 自転車をこいで三十分、コンビニ24地下鉄北二十条駅前店に到着する。コンビニの中へ入り、僕より少し年上の女性店員に声をかける。「おはようございます、今日からここで働かせていただくことになりました、渡辺浩二です」 「おはようございます、よろしくお願いします。それじゃあ、ついてきてください」 僕は女性店員のあとに続く。「店長、新人の渡辺さんがいらっしゃいました」 「はい。ああ、渡辺さん。おはようございます」 「おはようございます、本日からよろしくお願いします」 「ええ、よろしくお願いします。じゃあ、まずこれですね。制服を貸し出しますので、汚れてきたら洗濯して使ってください」 店長から制服を二着渡された。見覚えのある赤い制服だった。コンビニ24のロゴマークが入っている。「あと名札ですね」 安全ピンのついた透明
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第四十七話

 店内に入ると、お客さんは数人いるくらいだった。篠原さんはモニターで込み具合を確認したのかもしれない。いままでレジの機械をじっくり見たことはなかったが、ボタンの多い計算機みたいだ。篠原さんから説明をしながら操作方法を教わる。一度聞いただけでは覚えきれないのでやりながら覚えていくしかなさそうだ。「それじゃ渡辺さん、レジ打ちしてみてください」 「はい」 お客さんが一人レジの前に来てカウンターにかごを置いていた。「いらっしゃいませ。一二〇円が一点、二三八円が一点、五〇円が一点、合計四〇八円のお買い上げになります」 お客さんは財布を取り出して五百円玉を出した。その間にレジ袋をカウンターから取り出して広げる。「五百円お預かりいたします。九二円のお返しになります。ありがとうございました。またお越しくださいませ」 お客さんに一礼する。「基本は大丈夫ですね。あとカウンターの下にはしとスプーンとフォークがあるので、必要そうな商品を買うお客様には確認してください」 「はい」 「それと、よくお客様からたばこないですかって聞かれることが多いんだけど、この店には置いてないです。理由を聞かれたら、近くにタバコ販売店があるからって答えてください」 「そんなルールがあるんですね」 「そうなんです。そこの交差点の向かいにタバコ屋あるのが見えるでしょう?」 「あー、ありますね」 「タバコがほしいお客さんにはあの店を案内してください」 「はい、わかりました」 「他にも、自動販売機が店を出て左に行くとすぐあるので、まあそっちの方が近いですね」 「了解です」 続けて、日付管理について教わった。おにぎり、パン、弁当、サンドイッチなどの食品には賞味期限が印字されている。商品が売れると売れた商品のスペースに隙間が生まれる。それを埋めるために奥の商品を前に出す必要がある。その時に日付を見て期限が近いものを前へ並べる。この仕事をフェイスアップと呼ぶらしい。「弁当のフェイスアップも、食欲を刺激するように工夫するんですよ。例えばそうですね」 篠原さんは弁当の陳列棚の弁当を並べる。全ての棚にいろいろな弁当が一段ずつ並べられた。弁当の数が少ないのでそうなる。「いまの時間帯は朝のラッシュが終わって昼の商品が届いていない状態なので、品数がありません。こんなふうに並べると弁当が少ないよう
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第四十八話

 僕は着替えてから店をあとにした。とてもお腹が減った。きのう説明されたが、いまは時給が六三〇円で研修期間が終わったら時給六四〇円になるらしい。今日は二時間働いたので一二六〇円稼いだ。だいたいパン十個分くらいだ。でも携帯電話の契約をしたいので無駄づかいするわけにはいかない。携帯電話の月額利用料はだいたい四千円くらいだ。携帯端末の本体も購入する必要がある。月額利用料に含まれているプランもあるみたいだが、多めに考えておいたほうがいいだろう。 僕は週三日、午後五時から午後十時まで一日五時間働く予定だ。六四〇✕五で三二〇〇円、だいたい月十三日くらいの勤務なので、月四万円くらいの給料になる。まあ、携帯電話代くらいは払うのに問題はなさそうだ。「おかえり。どうだった?」 「うん、疲れた」 「二時間しか働いてないでしょ」 「そうだけど」 「まあ、がんばんなさいよ」 「うん」 帰宅して昼食を食べながら母とそんな会話をした。それから約一ヶ月のあいだで研修を終えた。だいたい仕事のやり方と流れは覚えることができた。 毎月の給料は翌月の上旬に銀行振込される。僕はアルバイト先で店長から給与明細を渡されたので、家に帰ると預金通帳とカードを財布の中に入れて近くのスーパーへいった。入口にATMが設置されているからだ。主婦が二人並んでいたので最後尾につき、早く自分の番にならないかとそわそわして待つ。 待機列が途切れたのでATMの前に行き、一万円だけ引き出す。預金通帳に印字された「コンビニ24 8ガツブンキユウヨ」という文字を見ながらニマニマした。研修期間中はだいたい一日の勤務が二時間とか三時間だったので、最初にもらった給料は二万円にもならなかった。けれどお年玉や小遣い以外で初めて自分で稼いだお金なので嬉しい。あまりむだづかいはできないが、スーパーでふだん買わないお菓子を買って帰った。 自分で使いたいけど、家族に何かプレゼントをしたほうがいいだろうな。初めてだから自分のためだけに使うのはもったいない気がする。お寿司の出前とかなら全員にプレゼントできるな。給料が出た次の日曜日、僕は寿司の出前をとることにした。日曜日のお昼にそのことを両親に伝えた。「いいんだよそんな。自分で使いなさい」 「そうだぞ。自分で働いたお金なんだから」 「いやまあ、初任給とかって親に感謝するものだからさ。
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